第16話 <回想(ミリアの工房にて)>
真っ暗な中でミリアはひとりうずくまり、ぼんやりと浮かび上がる真っ白なナイフを見つめている。
4年前、ミリアはまだ12歳だった。
交易都市から西へ半日。
崩れた遺跡。
発掘現場だった。
本来なら子供が来る場所じゃない。
それでもミリアは勝手についてきた。
「危ないから帰れ」
何度も言われた。
帰らなかった。
遺物が見たかったから。
地下だった。
薄暗い。崩れた石。
そして。壁の奥。
何かがあった。
だが、気が付くと一人になっていた。
「みんなどこ? 待って!」
ミリアは駆け出した。
次の瞬間、地面が割れた。
「え」
崩落。身体が落ちる。
真っ暗。
気がついた時、動けなかった。
足が石に挟まっていた。
声も届かない。
光もない。
どれくらい経ったか分からない。
怖かった。
初めてだった。
魔犬の鳴き声のようなものも聞こえてくる。
死ぬかもしれないと思った。
その時。
音がした。
誰かが歩いてくる。
カツ。
カツ。
光、白い光。
ランプではない。
見たことがない光。
その向こうに人がいた。
顔はよく見えない。
だが。男が横を向いた瞬間、頬に線が見えた。
二本。
右側だけ。
そして鳥。
褐色の鷹が肩にいた。
手に持った筒をミリアに向ける。
白い光がミリアの顔を照らした。
「生きてるか」
落ち着いた声だった。
ミリアはうなずいた。
男は足元を見た。
石。
隙間。
男は隙間に手を入れて力を込めると、ミリアの足を押さえていた大きな瓦礫を押しのけた。
ミリアは驚いた。
人間離れしていた。
数分後、男に背負われて外へ出た。
夕日だった。
生きていた。
ミリアはその男を見た。
「ありがとう、ありがとう、本当にありがとう」
男は軽く微笑んだ。
街のすぐ近くまで来た。
男は街を囲む防壁の前で背中からミリアをおろす。
「もう一人で帰れるか?」
ミリアはうなずいて歩きだそうとした。
「痛っ」
右足に強い痛みが走った。
折れてはいないが、かなり強く痛めたようだ。
男は白いナイフを取り出した。
見たことのない材質だった。
金属じゃない。
石にも見えない。
男は近くにあった木の枝に軽くそれを当てると、1メートルほど、まるで紙でも切るように切り取った。
直径5センチほどの枝。
だがその断面はまるで磨いたように平らだった。
男は木の枝をミリアに渡す。
「杖にするといい」
「ありがとう」
ミリアは木の枝を受け取り、体を支えた。
「あなたは――名前はなんていうの」
男は少しだけ考えた。
そして。
「知らない方がいい」
そう言った。
意味が分からなかった。
「変な人」
ミリアが言う。
男は少し笑った。
「よく言われる」
鷹が鳴いた。
「本当にそうだ」
すると、男が鳥を小突いた。
まるで会話しているようだった。
ミリアは固まる。
「今、話した?」
「気のせいだ」
即答だった。
絶対嘘だった。
陽は沈みかけていた
遠くで魔犬らしい獣の声が聞こえる。
男はナイフを差し出した。
「持ってろ」
「え?」
「護身用だ」
「生き残るために」
意味不明だった。
ミリアは受け取った。
白いナイフ。
それが最初だった。
ミリアは男を探していた。
遺跡へ行った。
発掘屋に聞いた。
誰も知らなかった。
数週間後
ようやく見つけた時。
男は古い壁を見ていた。
文字を読んでいた。
誰も読めない文字。
「読めるの?」
「少し」
「何て書いてあるの?」
男は少し考えてこう言った。
「研究センター」
ミリアは首を傾げる。
意味が分からなかった。
「それは何?」
男は答えない。
「ねえ、あなたは発掘屋? それとも学者? 何をしているの?」
男は静かに遠くを見つめている。
「行かなきゃいけないところがあるんだ」
「魔物をなくす」
肩の鷹が一瞬、青く目を光らせた。
妙に静かだった。
その後、すぐに男はいなくなった。
何も言わず。
痕跡もなく。
誰も知らない。
どこへ行ったか。
ただ、とある発掘屋が言った。
「あいつは、何て言ったけな」
「確か…ジン」
「西へ行ったらしい」
それだけ。




