第15話 <ミリアの工房>
「……なんでいる」
ハンスが聞く。
「待ってた」
ミリアが答えた。
当然のように立っている。
「ねえ、このナイフ、何なの」
「知らん」
「知らないのにセラミックって言ったよね」
リンは黙る。
「それにその鳥」
クロウが嫌そうな顔をした。
「その印」
「知らないことばっかり」
「工房に来て」
「嫌だ」
ハンスが即答した。
「なんで?」
「嫌な予感がする」
「大丈夫」
「お前が言うな」
ミリアは気にしない。
「少しだけ」
「絶対少しじゃない」
「少しだけだから」
ハンスは空を見上げた。
「リン、助けてくれ」
「別に構わない」
「裏切ったな」
ミリアの工房は交易都市の外れにあった。
小さな建物だった。
中に入った瞬間。
ハンスが言った。
「汚ねぇ」
床。
本。
紙。
工具。
部品。
全部散乱している。
「廃墟では?」
クロウが言う。
「やっぱりこの鳥、またしゃべった!」
「それから、ここは研究施設! 廃墟じゃない!」
「分かったクロちゃん! あなたも研究対象よ!」
「クロちゃん!?」
眼を見開くクロウ。
それに分解されかけたことを思い出し、そっとリンの後ろに回る。
「研究施設よ。床が見えているでしょ!」
「基準がおかしい」
壁際には棚。
その上には遺物。
金属片。
壊れた銃。
古いレンズ。
妙な文字の書かれた板。
「これ見て」
ミリアは興奮していた。
「これも」
「これも」
「あとこれ」
ハンスがぼやく。
「始まった」
リンは机の上の紙を見た。
古びた断片。
古代文字。
「点検要領」
「交換の際・・・」
「起動時には・・・」
ミリアが固まる。
「読めるの?」
「少しなら」
別の紙。
「セーフィティロック」
また別の紙。
「定期的なグリスの・・」
ミリアの顔色が変わる。
「あの人と同じだ」
ミリアがリンを見る。
同じだった。
良く分からない文字を読める。
遺物を知っている。
鳥を連れている。
顔には線。
偶然とは思えなかった。
「ねえ」
「このナイフをくれた男の人のこと、知ってるでしょ?」
「鷹を連れて4年前にこの街にいた」
「知らない」
リンは答える。
「でも…」
「西へ向かった人間の話なら、街に入ってすぐに聞いた」
ミリアが反応する。
「西」
恩人が消えた方向だった。
「貴方たちも西に行くの? 何をしに行くの?」
リンは少し戸惑いながら、
「ああ行くかもな。だがその前に王都へ」
「同じかどうか知らないが、私もこの世界を――」
「ストップ。ストップ。俺たちはどこにも行かねえ。」
ハンスが慌ててリンを止める。
「ここで遺物を集めて金儲けする」
「ほら、見ただろ、こいつ文字読めるし遺物のこと詳しい」
「いいもん見つけて金稼ぐんだ。なっ、リン。俺も体、丈夫だし」
「他に聞くことはあるか?」
「んっ、この遺物を直すのか。昨日のお前の発明品はどうした」
「もう無いならいいだろ。俺たちも宿に引き上げるよ」
「そう、分かった」
ミリアは静かだった。
ハンスはリンを急き立てて、早々に工房を出る。
陽はすっかり沈んでいた。
大急ぎで宿に帰る。
「やばい」
ハンスが言う。
「何がだ」
「気付かないのか」
「絶対付いてくるぞ」
「そうか」
「そうかじゃねぇ」
「あの目、見たか?」
「あれ離さない目だ」
「朝一番だ」
「逃げるぞ」




