第12話 <ミリア1>
「学者様は見つかったか?」
ハンスが言う。
「いや」
「なら遺物の買取屋に行くぞ」
「なぜだ」
「学者も変人も集まる」
「お前みたいなやつもいる」
「そうか」
「否定しろよ」
買取組合。
巨大だった。
倉庫だけで町一区画分はある。
受付へ向かう。
「組合長に会いたい」
リンが言う。
「本日は不在です」
受付嬢が答える。
ハンスが顔を出す。
「なあ、頼むよ。ちょっと訳ありで、いろいろと聞きたいんだ」
「またさ、遺物収集、期待に応えるからさ」
受付嬢は少し微笑んだ。
「今日は別件で街を出ています。明日朝お越しください。ハンスさんからのお願いだと伝えておきますね」
「仕方ねえな、頼んだよ」
ハンスは踵を返す。
リンはそれ以上言わない。
リンも続いて買取組合のフロアから外に出た。
その時だった。
「見てよこれ!」
甲高い声。
「対魔物用の新兵器!」
人だかり。
騒ぎ。
その中心に小柄な影。
ポニーテール。
眼鏡に革ベスト。
手には奇妙な金属球。
「やべえ」
ハンスが言った。
「またミリアだ」
「知っているのか」
「知ってる。でも関わりたくねぇ」
「買ってくれない?」
少女が叫ぶ。
「絶対安全!」
「敵にもすごく効く!」
「ちょっと試してみる?」
「いやいい!」
「やめろ!」
「持って帰れ!」
周囲が一斉に後退する。
「大丈夫だって」
「ほら」
「ここを外さないと――」
全員逃げた。
ハンスも逃げる。
「逃げろ!」
「なぜだ」
「だからお前!」
次の瞬間。
ドォォォォォン!!
爆発。
悲鳴。
土煙。
荷物が宙を舞う。
煙。
煙。
煙。
相変わらずその中心に少女が立っている。
「おかしいな」
「計算だとここで爆発するはずじゃ」
ハンスが起き上がる。
煤だらけだ。
「十分爆発してんだろ!!」
少女は首を傾げる。
「違う、、本命は――」
ドォォォォォン!!
二発目。
「うおおおおおお!?」
ハンス再び消える。
やがて煙が晴れる。
ハンス。
真っ黒。
髪がないから余計に目立つ。
少女。
無傷。
「あ」
「避けなかったんだ」
「避ける時間あったか!?」
その時。
クロウが落ちてきた。
くるくる回転しながら。
ぽすっ。
地面。
羽がぴくぴくする。
「落ちたぞ!」
「落ちたな」
「助けろよ!」
少女がしゃがむ。
「あ」
ひょい。
持ち上げる。
「鳥だ」
「見りゃ分かる!」
羽を広げる。
「……変」
「何が」
「金属?」
クロウが薄く目を開く。
「……離せ」
「喋った!?」
少女の目が輝く。
「面白い」
クロウの顔が引きつった。
「嫌な予感しかしない」
「ねえ」
「なんだ」
「分解していい?」
沈黙。
「却下だ」
「少しだけ」
「却下だ」
「羽一枚くらい」
「却下だ!」
ハンスが大爆笑した。
「ははははは!」
「焦ってる!」
「初めて焦ってる!」
クロウは睨む。
「笑い事ではない」
「助けろ」
「中、どうなってるの?」
「知らん」
「燃料は?」
「ない」
「じゃあどうして飛ぶの?」
「知らん」
「嘘だ」
「本当に知らん」
ミリアが少し視線を逸らした瞬間。
クロウはミリアの腕から逃れるように飛んだ。
ふらつく。
さっきの爆発のせいだ。
ふらふらと羽ばたいてリンの足元へ。
ふらつきながらも何とか着地。
「飛び方おかしくないか?」
ハンスが言う。
「問題ない」
そのままリンの近くを歩く。
クロウは精一杯、いつもと変わらない様子で答える。
「問題あるだろ」
「ない」
クロウが半目で言う。
そばに居た虫をつつく。
ぱく。
リンが干し肉を投げてやる。
ぱく。
干し肉をつつく。
また一つ。
ぱく。
ミリアが見ている。
「何してるの?」
「食事だ」
「機械なのに?」
「失礼だな」
「誰が機械だ」
「羽光ってたけど」
「光る鳥もいる」
「いないと思う」
クロウは無視した。
リンの近くの石の上へ飛び上がる。
明らかに距離を取っている。
「警戒されてる」
ハンスが笑う。
「当然だ」
「なんもしてないでしょ」
「分解すると言った」
「言っただけじゃないの」
「十分だ」
ミリアはクロウを見る。
「欲しい」
「お断りだ」
「残念」
「残念ではない」
しばらく沈黙。
そして突然。
ミリアがリンを見る。
左頬。
二本の線。
眼鏡に手をかける。
カチッ。
補助レンズが降りた。
「……待って」
初めてミリアの声色が変わった。




