第11話 <交易都市>
壁は、高かった。
荒野の町とは比べものにならない。
石が積み上げられている。
ただの防壁ではない。
――守る意思がある。
門には列ができていた。
人。
荷車。
武器。
声。
女は足を止めない。
そのまま列の後ろへ入る。
「思ったより多いな」
クロウが言う。
「静かにしていろ」
「なぜだ」
「喋る鳥は、この辺りにはいないんだろう」
「合理的だな」
クロウは黙った。
やがて順番が来る。
「次」
兵が顔を上げた。
「名前は」
「……ない」
「ない?」
「そうだ」
兵はしばらく考える。
「町に入る目的は」
「情報だ」
「交易か?」
「違う」
兵は少し眉をひそめた。
「名前は」
もう一度聞く。
「『リン』と呼ばれていたことはある」
兵は記録板に何かを書いた。
「通れ」
門が開く。
都市の空気が流れ込んできた。
音。
匂い。
人の密度。
荒野とは違う。
生きている。
女―リンは立ち止まり、
ゆっくり視線を巡らせる。
露店。
鍛冶屋。
遺物商。
武器屋。
そして、人。
「……多いな」
「情報も多い」
肩の上のクロウが言う。
「ノイズも多いがな」
女は歩き出した。
「……待て」
後ろから声。
男。
一人。
視線が頬へ向く。
「その顔」
女の足が止まる。
「……なんだ」
「その印」
左目の下。
二本の短い線。
「どこでつけた」
「知らない」
男の口元が歪む。
クロウがわずかに前傾姿勢になる。
男が目を細める。
「知らないのか」
「何を」
男は少し考えた。
「昔、一度だけ見た」
「同じ印をつけたやつを」
沈黙。
「そいつも変わり者だった」
わずかに笑う。
「ろくなやつじゃなかったがね」
「……そうか」
男は去る。
だが最後に振り向いた。
「そいつ、やたら強くて、魔物にも平気で立ち向かって行って人を助けて」
「なぜか西に行かなきゃって言っていた」
それだけ言って、
人混みへ消えた。
クロウが小さく言う。
「気になるか」
「別に」
リンは歩き続けた。
図書館。
交易都市のほぼ中央。
石造りの建物。
リンはそこで半日を潰した。
だが。
得られた情報は多くない。
魔物化が広がるとき、西からやってくる。
人類圏は縮小を続けていた。
王都には大学・学術院がある。
それだけだった。




