第113話 <優先事項>
フロムとヨウドが大都に戻ったのは翌日の夕方だった。
宿に着く。
荷台からフロムが飛び降りる。
ヨウドは馬車を停め、馬を外した。
二体は室内に入る。
リンは相変わらず窓際の椅子に座り地図を見つめていた。
二体に気づき顔を上げる。
「おかえりなさい」
「帰投したである」
ヨウドは答えると、壁際へ向かった。
しゃがみ込む。
携帯缶を取り出す。
「長距離移動によって燃料を消費したのである」
「通信できたの?」
リンが尋ねる。
「ええ少しだけね」
フロムが答える。
リンはヨウドとフロムの顔を順に見る。
「何て?」
「偵察は許可された」
「敵基地の内部を確認するである」
「Unit-09ゼノンの状態確認も許可されたのである」
ヨウドが携帯缶よりアルコールを補給しながら言う。
リンの表情が明るくなる。
その時。
ベッドに腰掛けていたミリアが立ち上がった。
「じゃあ、先生を助けに行けるのね!」
「偵察ならできるってことだけよ」
フロムが静かに答えた。
「直接の戦闘は出来ないわ」
「どういうこと?」
ヨウドが続ける。
「危険が発生した場合は作戦を中止する」
「そして西行工程を優先するのである」
ミリアの笑顔が消える。
「先生が見つかっても?」
「救出行動の危険度が高い場合は撤退するのである」
「全員が捕まる訳にはいかないのである」
ミリアは何も言わなかった。
眼鏡の奥から、リンを見る。
「ミリア」
リンが呼びかける。
「まだゼノンがいると決まったわけじゃないわ」
「まずクロウに内部を調べてもらって」
「その情報を見てから、助け出す方法を考えましょう」
リンはミリアをまっすぐ見つめた。
「助けられる方法があるなら助けるわ」
ヨウドは携帯缶を口元へ運ぶ動きを止めた。
フロムは何も言わない。
ミリアは、しばらくリンを見つめていた。
やがて小さく頷く。
「分かった」
リンはテーブルの地図へ視線を戻した。
「まずはクロウの帰りを待ちましょう」
◇ ◇
その夜遅く。
窓の外から羽音が聞こえた。
黒い影が窓枠へ降りる。
クロウだった。
室内へ入るなり、テーブルの上へ移動する。
真っ先にフロムが呼びかける。
「飛行型」
「ごく短時間だけど通信ができたわ」
クロウがフロムを見る。
二体の眼が何度が青く点滅する。
「了解した」
「合理的だ」
クロウが答えた。
「では監視結果を報告する」
クロウはリンたちに向き直る。
「リードとスタンは、本日基地を出ていない」
「これまでの周期から、明日か明後日に出発する可能性が高い」
ミリアが身を乗り出す。
「明日……」
「監視を継続する」
「二名の出発を確認後、地下施設へ侵入する」
クロウの眼が紙に書かれた暗証番号を読み取った。
「くれぐれも無理しないで」
リンが言う。
「見つかったら、すぐ戻ってきて」
ミリアも続ける。
「先生が見つかったらすぐに教えて」
「居場所を確認するだけでもいいから」
「了解した」
クロウは答えた。
その態度は、いつもと変わらない。
けれどリンは、もう一度念を押さずにはいられなかった。
「絶対に戻ってきて」
クロウの眼が、一度だけ点滅する。
「問題ない」
いつもの回答だった。




