第114話 <潜入>
翌朝。
クロウは日の出前に大都を出た。
平原を西へ飛ぶ。
やがて東の空から朝日が昇る。
遺跡へ到着する。
クロウは、いつもの木へ降りた。
地下施設の出入り口を監視する。
しばらくすると扉が開いた。
先にリード。
続いてスタン。
二人は木箱を馬車へ積み込んでいる。
前回と同じ行動。
同じ馬車。
同じ二人。
やがてリードが御者台へ座り、スタンが隣へ乗る。
馬車が動き出した。
大都の方向へ向かう。
クロウは木から飛び立つ。
上空へ出ると、馬車を追跡した。
遺跡から十分に離れるまで監視を続ける。
馬車は街道を東へ進んでいる。
進路に変化はない。
クロウは高度を上げた。
そのまま馬車から離れ、遺跡へ引き返す。
眼下には、どこまでも続く平原。
動くものは見当たらない。
基地に残っていると推定されるH兵は三名。
ケイ。
ミズカネ。
カドメイア。
交戦は避ける。
施設構造と収容者を確認。
ゼノンの所在を確認した後、直ちに離脱する。
目的を再確認。
問題なし。
クロウは遺跡の上空を旋回した。
地上に人影はない。
警備兵もいない。
地下施設へ続く階段は、静まり返っていた。
クロウは高度を下げる。
遺跡の入り口から少し離れた場所へ着地した。
そこからは地面すれすれを飛び、崩れた建物の間を進む。
地下へ続く階段。
その奥に、金属製の扉がある。
扉の横には、数字の並んだ入力装置。
クロウは階段の途中へ降りた。
周囲を確認する。
動体反応なし。
音声反応なし。
監視装置は確認できない。
だが。
何もないとは限らない。
クロウは入力装置の前へ移動した。
ミリアから聞いた番号を打ち込む。
一つ目。
入力。
小さな電子音。
二つ目。
三つ目。
最後の数字を入力する。
沈黙。
何も起きない。
クロウの眼が点滅した。
番号が違っていた可能性。
ミリアの記憶違い。
あるいは、暗証番号の変更。
数秒後。
カチリ。
扉の奥から音がした。
続いて、重い金属製の扉がゆっくりと奥へ開いていく。
隙間から、冷たい空気が流れ出した。
人工的な薬品の臭い。
油。
金属。
クロウは、開いた扉の前で動きを止めた。
内部は薄暗い。
壁に設置された照明が、一定の間隔で通路を照らしている。
誰の姿もない。
警報も鳴らない。
クロウは扉の向こうへ飛び込んだ。
直後。
背後で扉が閉まり始める。
クロウは天井の端、壁との角に爪をひっかけてしがみ付く。
一度だけ振り返った。
外の光が、細い線になる。
やがて。
完全に消えた。
地下通路に、クロウの青い眼だけが浮かぶ。
「侵入成功」
小さく呟いた。
そして、奥へ飛び始める。
◇ ◇
地下施設の監視室。
誰もいない椅子の前で、一つの表示が点灯した。
ENTRANCE GATE: OPEN
AUTHENTICATION CODE: ACCEPTED
INTRUSION DETECTION: SUSPENDED
数秒後。
表示が自動的に消える。
クロウが通った扉は、再び何事もなかったように閉ざされた。
警報に気づくことはない。
なぜなら。
最初から、警報は鳴らないよう設定されていた。




