第112話 <指令>
雑音。
途切れた信号。
非常に弱い。
だが、確かに何かが送られてきている。
信号を補正。
欠損した部分を復元する。
暗号鍵を照合。
やがて、短い通信文が二体へ共有された。
> FROM: MOTHER
> TO: YODO
>
> REPORT RECEIVED
>
> NEW DEMON-TYPE SOLDIER INFORMATION ACKNOWLEDGED
> COUNTERMEASURES UNDER REVIEW
>
> H-SOLDIER DATA RECEIVED
> STRUCTURAL SIMILARITY TO EX CONFIRMED
>
> UNIT-09 XENON STATUS
> INVESTIGATION AUTHORIZED
>
> HOSTILE FACILITY RECONNAISSANCE AUTHORIZED
>
> DIRECT COMBAT NOT AUTHORIZED
>
> UNIT-10 MUST NOT BE LOST
>
> WESTWARD MISSION TAKES PRIORITY
通信が途切れる。
月明かりの下。
二体は何も言わなかった。
最初に口を開いたのは、フロムだった。
「新型魔人のことは分かったけど」
「ゼノンのことも敵施設も調べるのは良いけど」
「直接戦闘は許可しない」
「Unit-10を失うな」
「西へ向かう任務を優先……」
一つずつ、確認するように読み上げる。
「つまり、どういう意味?」
「記載の通りであると思われる」
ヨウドが答える。
「敵基地への偵察は許可された」
「ただし戦闘は回避する」
「危険が発生した場合、識別名リンの生存を最優先し、作戦を中止する」
「ゼノンが見つかっても?」
「救出によってUnit-10を失う危険性がある場合は、撤退する」
「ミリアが納得するかしら?」
フロムの眼が青く光る。
「納得の有無は、作戦判断に影響しないのである」
「マザーはUnit-10を優先する」
「現在、マザーが正式に確認している活動可能なEXはUnit-10のみ」
「マザーの判断は合理的である」
ヨウドは淡々と答える。
「合理的ねぇ…」
フロムは大都の方向を見る。
「でもあの子たちは、合理性だけでは動かないわ」
「それは把握しているのである」
ヨウドは即座に答える。
フロムがヨウドを見る。
「把握しているの?」
「識別名リン、ミリア、ハンスの行動には、非合理的選択が多いのである」
「予測困難」
「特にミリアは危険である」
「それは否定しないわ」
フロムは言った。
ヨウドがアンテナを収納し始める。
岩山に張られていた金属線も回収されていく。
「この命令を、識別名リンたちへそのまま伝えるのであるか」
ヨウドが尋ねた。
「伝えるしかないわ」
フロムが答える。
「マザーからの指示だもの」
「ミリアは反対するでしょうけど」
「ふむ」
「リンも、ゼノンを置いて逃げるとは思えないのが問題である」
「ならば、最初から作戦を中止するべきである」
ヨウドの答えは早かった。
「しかし、偵察そのものは許可されているわ」
フロムが言った。
「まずは内部情報を取得する」
「ゼノンの所在と状態を確認する」
「救出の可否は、その情報をもとに再計算するわ」
「マザーへ再度報告するであるか?」
「必要であれば」
風が強く吹いた。
赤茶色の草が、月光の下で大きく揺れる。
「帰るわよ」
フロムは身を翻し、岩山を下り始めた。
ヨウドも後を追う。
「待つである」
「吾輩を置いていくなである!」
◇ ◇
同じ頃。
黒い兵士たちの地下施設。
同盟軍のものではない通信を傍受していた。
発信源はごく近距離と推定された。
現生人に通信技術を持つものはいない。
そして本文は、強固な暗号に守られていた。
リードは通信記録の解読を何度も試みた。
完全な解読はできない。
通信ヘッダ。
対象識別符号。
繰り返し使用された一部のコード。
基地の解析設備が、断片的な情報を抽出した。
> UNIT-10
> UNIT-09 XENON
> HOSTILE FACILITY
> RECONNAISSANCE
断片的な言葉。
完全な内容は、強い暗号によって分からない。
UNIT-10、UNIT-09ゼノン、敵施設、偵察
だが。
誰が。
何をしに。
どこへ来ようとしているのか。
それだけは十分に理解できた。
リードは画面を閉じる。
背後にはスタンが立っていた。
「連中、ここに気づいたんですかね」
「ああ」
「可能性はある」
リードは答えた。
「迎撃しますか」
「いや」
リードの青い眼が、暗い監視室に浮かぶ。
「本当にここに来る気なら」
「入れてやるさ」
スタンが眉を寄せる。
リードは静かに続けた。
「ゼノンを探しているのは間違いない」
「自分から来てくれるのなら」
「ここで全員を捕らえる」
監視室を出ようとして、リードが足を止める。
「ケイを呼べ」
「了解」
「それから、ハンスという男の位置を確認させろ」
スタンの表情がわずかに変わった。
「ケイが発信機を付けたという現生人ですか」
「ああ」
リードは静かに頷く。
「奴が大都から移動を始めたら、すぐに報告させろ」
「連中が本当にここを狙っているなら」
「自分たちが攻める側だと思っている」
暗い通路の奥へ歩きながら、リードは言った。
「だが、違う」
「侵入させた時点で、こちらの作戦になる」




