第111話 <長距離通信2>
月明かりに照らされた平原。
風が吹くたび、草原全体が波のように揺れていた。
夜。
ヨウドとフロムは岩山の頂上にいた。
平らな岩場。
周囲を遮るものは何もない。
フロムは周囲の音を確認する。
「人の気配はないわ」
「では始めるのである」
ヨウドはローブを脱いだ。
黒い金属製の身体が月光に照らされる。
背中の装甲板を開く。
内部から、細いアンテナが伸びた。
さらに胸部の収納部を開き、折り畳まれた金属線を取り出す。
フロムがその線を咥え、岩山の端まで運ぶ。
反対側にも別の金属線を張る。
ヨウドを中心として、簡易的な通信設備が組み上げられた。
ヨウドが言う。
「送信内容を確認する」
一つ目。
新型魔人兵。
高い知能を持ち、複数の魔物を統率する能力が確認されている。
さらにクロウが記録した魔人の言葉。
『補充が必要だ』
『また近隣から集めるか』
大都周辺で消えている人々と家畜―生物兵器の製造に用いられている可能性。
次に黒い兵士。
麒麟側の呼称はH兵。
高い戦闘能力を持ち、その形質はEXに類似。
そしてゼノン。
麒麟に捕獲され、何らかの形で「有効活用」されている。
H兵の外見がゼノンに似ているという、ミリアの報告。
最後に、大都南西の敵基地。
五名のH兵が出入りしている。
地下施設。
暗証番号。
施設内部から聞こえる戦闘音。
クロウによる潜入偵察を計画中。
「ふむ」
ヨウドが首を傾げる。
「少し情報量が多いのである」
「短時間の通信では、全情報を送信できない可能性がある」
「優先順位を設定しましょう」
フロムが答える。
「第一優先は敵勢力の新型戦力」
「第二優先はゼノンおよびH兵」
「第三優先は敵基地の位置情報」
「識別名リンの状態も必要よ」
「Unit-10の生存状態は、マザーにとって最優先項目であるな」
ヨウドが答える。
「報告の冒頭へ追加する」
「暗号化を開始するのである」
通信文が内部で圧縮されていく。
短い符号へ変換。
複数の暗号鍵を重ねる。
敵に傍受される可能性を考慮し、通信時間は可能な限り短くする。
「準備完了である」
ヨウドが岩山の西側へ身体を向けた。
胸部装甲の奥で、小さな駆動音が始まる。
「送信する」
微かな音。
> TO: MOTHER
> FROM: YODO
> 3RD SQUAD COMMANDER
> 32ND MECHANIZED INFANTRY REGIMENT, AI+82
>
> UNIT-10 STATUS: ACTIVE
> DAMAGE: NONE
>
> NEW DEMON-TYPE SOLDIERS CONFIRMED
> SIGNIFICANT COMBAT CAPABILITY
> CAPABLE OF COMMANDING INFECTED CREATURES
>
> CIVILIANS AND LIVESTOCK
> POSSIBLY ABDUCTED FOR BIOWEAPON PRODUCTION
>
> NEW HOSTILE SOLDIER TYPE CONFIRMED
> ENEMY DESIGNATION: H-SOLDIER
>
> PHENOTYPE AND COMBAT CAPABILITY
> SIMILAR TO EX
>
> UNIT-09 XENON
> POSSIBLY USED IN H-SOLDIER DEVELOPMENT
>
> HOSTILE UNDERGROUND FACILITY LOCATED
> INTERNAL RECONNAISSANCE PLANNED
>
> REQUESTING INSTRUCTIONS
送信が終わる。
ヨウドの眼が点滅する。
「完了である」
岩山に、再び静けさが戻った。
風だけが吹いている。
「届いたの?」
フロムが尋ねる。
「不明である」
「応答を待つ」
フロムは岩山の西側を見つめた。
何もない暗闇。
山も、街も見えない。
ただ草原が、地平線の向こうまで続いている。
一分。
二分。
五分。
応答はない。
ヨウドのアンテナが、風に小さく揺れる。
「もう一度試みるである」
「電波の発信角度を修正するのである」
ヨウドが言った。
再び呼びかける。
だが。
雑音しか返ってこない。
「もう一度送りましょう」
フロムが言った。
「同一内容の送信を繰り返せば、敵に捕捉される危険性が高まるのである」
「でも、届いていなければ意味がないでしょう」
「作戦上の危険が増すのである」
「でもマザーへの報告は必要よ」
フロムがヨウドを見る。
ヨウドは答えない。
「やはりマザーへの通信は難しいであるか」
「これで無理であれば…」
「最も近いのはシユウ帝国よりさらに南」
「AI+84への接触を試みる必要があるのかであるが…」
その時。
ヨウドの眼が強く光った。
「おおっ!」
「マザーからの応答が来たである!」




