第108話 <監視2>
「補給行動と判断する」
三日目の夜。
宿に戻ったクロウが報告する。
テーブルの上には、ミリアが描いた遺跡周辺の地図が広げられていた。
地図と言っても、紙の中央に四角い遺跡があり、その横に街道が描かれただけのものだった。
中央に卵型の遺物がやけに細かく描かれている。
「何だこの卵は。それでなんでこれだけこんなに大きいんだ?」
ハンスが尋ねる。
「重要な遺物だからよ」
「基地の入り口より大きく描いてあるぞ」
「縮尺なんて細かいことはいいの」
「よくねえだろ」
リンは二人の会話を聞き流し、クロウを見る。
「基地から出てきたのは二人だけ?」
「そうだ」
「一人はリード」
「もう一人は未確定だが、会話から『スタン』と呼ばれる個体と考えられる」
「他の三人は?」
「二人への同行は確認できなかった」
クロウは嘴で地図の東側を示す。
「二人は馬車で大都へ移動」
「大都で食料、燃料、弾薬を補給していた」
「大都の商人と取引しているのね」
フロムが言う。
「そう考えられる」
「麒麟の兵士だと知られているのであるか?」
ヨウドが尋ねる。
「不明だ。商人は通常の取引相手として接していた」
ハンスが頭をかく。
「よく分からねえな」
「俺たちを襲った連中が、普通に街で買い物をしているのか」
「軍や組織とは、そのようなものである」
「武器があっても、燃料や食料がなければ活動できないのである」
ヨウドが答えた。
「機械兵なら食料は不要だが」
「黒い兵士は機械ではない」
クロウが答える。
「外見、体温、呼吸、行動から、生体である可能性が高い」
リンは森で戦ったケイを思い出した。
剣が身体を貫いたはずなのに、致命傷にはならなかった。
驚異的な身体能力。
だが、あの兵士は確かに血を流していた。
クロウが続ける。
「引き続き兵士の行動を監視する」
「同様の行動が繰り返されるなら、補給には一定の周期がある」
「二人が抜ければ、基地の兵士は三人になるわね」
ミリアが地図を見つめた。
「まだ侵入すると決まったわけではないわ」
リンが釘を刺す。
「分かってる」
そう言いながらも、ミリアの視線は地下施設の入り口から離れなかった。
◇ ◇
四日目。
変化はなかった。
扉は一度も開かなかった。
クロウは上空から遺跡を旋回した後、近くにある岩山のように崩れた建物跡に降りた。
遺跡の周囲に、別の出入り口らしきものは見つからない。
だが、崩れた壁に隠れるように通風口を三か所見つけた。
そのうち一か所から、温かい空気が排出されている。
地下の規模は、地上から見える遺跡よりも大きい可能性が高い。
クロウは監視を続けた。
その時。
地下の扉が開いた。
現れたのは黒髪の人物だった。
細身の女性。
迫撃砲を肩に担いでいる。
ミズカネ。
ミズカネは階段を上がり、遺跡の広場へ出た。
後ろからスタンが続く。
スタンは大きな箱を両手で抱えていた。
地面へ箱を置き、蓋を開ける。
中には砲弾が並んでいる。
「訓練は一発だけだ」
スタンが言った。
「どうして?」
ミズカネは迫撃砲を地面へ設置しながら、首を傾げる。
「弾薬には限りがある」
「昨日、たくさん持って帰ってきたじゃない」
「お前が撃たなければ、あれで一か月は持つ」
「そんなに?」
ミズカネは感心したように言った。
次の瞬間。
迫撃砲弾を砲口へ落とす。
ドン!
発射音が遺跡に響く。
数秒後。
遠くの平原で、土煙が上がった。
「命中」
スタンが言う。
ミズカネはすぐに次の砲弾をつかんだ。
「待て」
ドン!
「一発だけだと言っただろう!」
ミズカネは三発目を手に取る。
「今ので終わりよ」
「さっきもそう言った」
ドン!
遠くで再び爆発が起きる。
スタンが額を押さえた。
「ミズカネ」
「何?」
「砲弾を置け」
「どうして?」
「置け」
「あと一発だけ」
「駄目だ」
「けち」
ミズカネは不満そうに砲弾を箱へ戻した。
スタンが箱を閉じる。
その背後から、白い髪の男が現れた。
重機関銃を抱えている。
カドメイア。
「ヒヒヒヒ」
カドメイアは、箱を見て笑った。
「弾」
「お前も駄目だ」
スタンが即座に言う。
「まだ何も言ってない」
「言わなくても分かる」
「撃つ」
「駄目だ」
「少し」
「駄目だ」
「一発」
「重機関銃で一発だけ撃てるのか?」
カドメイアは少し考えた。
「無理」
「なら駄目だ」
カドメイアは重機関銃を抱えたまま、スタンを見つめた。
やがて。
「ヒヒヒヒ」
再び笑った。
「スタン、けち」
「お前ら二人に言われたくない」
スタンは箱を抱える。
「戻るぞ」
「もう終わり?」
ミズカネが尋ねる。
「終わりだ」
「つまらない」
「昨日の補給分が、お前の遊びだけでなくなる前に戻るぞ」
三人は言い合いながら、地下へ戻っていった。
扉が閉まる。
再び静寂が訪れた。
岩山の上から見ていたクロウの青い眼が点滅する。
敵戦力。
迫撃砲。
重機関銃。
危険度は高い。
だが、その会話は、クロウの想定していたものとは少し違っていた。
命令だけを実行する兵士ではない。
互いの名前を呼び、言い争い、補給した弾薬の数を気にしている。
クロウは、その情報も記録した。
黒い兵士たちは、高性能な生体兵器である。
だが、それだけではない。
その結論をどう表現すべきか。
クロウの内部には、該当する言葉がまだ見つからなかった。




