(4/5)意識合わせ
何をどう間違ったのか、立花光太郎は定期的に大藤久美子の会社に来ることになった。あの会合を気に入った役員がいて、猛反対の社長を説き伏せたらしい。
立花光太郎はAIの導入に関する意識合わせが必要と言って、毎週金曜に定例会を開催した。面倒な事に大藤久美子も参加メンバーに組み入れられてしまった。本来の仕事に加え、AI導入に備えた勉強と連続する会議。しかも明日提出予定の資料ができていない。残業するしかないな。と会議室でノートパソコンを開いた時に立花光太郎が会議室にやって来た。
「残業ですか?」と立花光太郎が言う。
「ええ、立花さんこそ、もう帰社される時間でしょう」
「いや、眼鏡が無くて会議室に忘れたかと」
大藤久美子はため息をついた。
「その胸ポケットに入っているのは違いますか?」
「あ、本当だ。全く気付かなかった。よくわかりますね」と立花光太郎が嬉しそうに言う。あ、こいつが笑うのを初めて見るかもしれない。確かに見た目だけならなかなかのものかも。
立花光太郎が大藤久美子の手元を見て言う。
「残業するのは仕事ができない人間ですよ」
あ、やっぱりこいつはダメだ。呼吸するように人の神経を逆なでする。
「ちょっと見せて下さい」
「いや、社外の人に触らせられないですから」と拒否したが、
「どうせAI導入からみの作業でしょう?私も当事者です」と久美子の目の前に座りノートパソコンを開く。
「そちらのシステムを私が触る事は確かに出来ませんから、やりたい事を口頭で伝えて下さい」
久美子は諦めて作成したい資料の概要を伝える。
立花光太郎はパチパチとキーボードを叩き、こんな感じですか、とすぐさま資料をメールで送ってくる。悔しい事に出来がいい。しかしそれを認めるのも癪なので、いや、ここの部分はもう少し掘り下げて、と意地悪く返す。
「じゃぁ、こんな感じですか」と直ぐに修正版を返してくるので、ここの分析は別の角度で、と無理難題を言ってみる。
立花光太郎はその都度、的確な修正版を返してくる。大藤久美子はそのやり取りが段々心地良くなって来た。資料もあっという間に完成に近づく。いや、久美子が想定していたレベルは既に超えている。
「ありがとうございました。資料もできたので帰りましょう」
もう指摘する箇所も思いつかないので、作業を終える。悔しいが奴は仕事だけはできるようだ。
「でも、立花さん、すごいですね。資料の作成速度とかレベルとか」と本心から言う。
「いや、僕は大藤さんが言った事をAIに伝えただけですから。資料を作ったのもAIです」
「はぁ」と思わず変な声がでる。
「ついでに言うと、途中から大藤さんの会話をマイクでAIに直接伝えたので僕は何もやってません」
立花光太郎は自慢するでもなく平板に言うので、こちらが笑うしかない。うん、それでこそ、こいつらしい。
「もう遅いので送って行きますよ。どちらですか?」と立花光太郎が言う。
うんうん、なかなかいい事を言うじゃないか。でも、まだ8時だぞ。それに送っていくなどと言っているけど、そもそも私達は同じマンションなのを覚えていないのかね、君は。
大藤久美子が1人で笑っているので、立花光太郎は不思議そうな顔をしている。
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大藤久美子の会社へのAI導入は順調に進んでいた。しかしもう少しで実運用開始という時に、大きな問題が持ち上がる。AI導入とは別の問題だ。社内の業績管理システムに不正アクセスがあったのだ。データの流出も疑われる危機的な状況だ。しかも内部犯らしい。そして、疑われているのが運用開始のため内部アカウントを与えられていた立花光太郎だった。ログから見るとほぼ立花光太郎が犯人で確定という噂が広まっていた。




