(5/5)答え合わせ
その日、会社で緊急会議が開催された。AIシステム導入に関わった全てのメンバーが呼ばれている。大藤久美子はもちろん、ほぼ手伝いレベルの桜井佳奈までも呼ばれていた。ただ、立花光太郎は呼ばれていない。
「これってヤバくないですか。欠席裁判ってやつですよね」と佳奈が小声で言う。
大藤久美子は何も言えない。
「まず状況を説明します」とシステム部の小竹課長が話し出す。社長の太鼓持ちと呼ばれている奴だ。
小竹の話によると、業績管理サーバーに許可のないアクセスがあり、そのアクセスログには立花光太郎のアカウントが残っていたとの事だ。業績データへのアクセスもあったらしい。
「それが本当なら大問題ですが、ちょっと私には信じ難い部分もありますね」
と、システム導入に立花光太郎を推していた役員が言う。
「大藤さんはどう思いますか?」と聞かれて大藤久美子は正直に言う。
「立花さんは、控えめに言っても変人ですが、コソコソと不正を働くタイプの人ではありません」
「うん、私もそう思うんですよね」
「しかし、現実に不正アクセスが起きているだろうが」と社長が怒気を含み割り込んでくる。
「社長。この場に立花さんを呼んでいないのはなぜでしょう?」
「そんなものは必要ない」
他のメンバーはハラハラしつつ、社長と役員のやり取りを眺めている。
その時、
「いえ、私からも説明させて下さい」と立花光太郎がノートパソコンを手に持ったまま会議室に入って来た。
「おい、なに勝手に入って来たんだ」と社長が凄むと、
「社長。私が立花さんを呼んだんですよ」と役員が返す。
緊張感が高まった時に、
「まぁ、ここはAIさんに聞いてみましょうか」と立花光太郎がとぼけた感じで話し出す。
ノートパソコンを開いて話しかける。
「不正アクセスと思われる箇所を教えてください」
《07:30に該当データにアクセスしたのは立花光太郎さんです》
大丈夫か、墓穴掘ってないか、と大藤久美子は少し心配する。
「そのデータがあるサーバーは外部からアクセスできるかな?」
《そのサーバーは完全に外部と遮断されているのでその部屋に直接行かないと無理です》
「その時間帯に立花光太郎はビル内にいたかな?」
《ビルの入退出ログを確認しましたが、立花氏はいません》
「その時間にビルにいた人間は?」
《社長、一人です》
全員の目が社長に向く。
「ログが立花光太郎になっていたのは、なぜだろう?」
《社長がログの書き換え指示を小竹課長に出しています》
小竹課長が真っ青になっている。
大藤久美子の頭の中を、電子計算機損壊等業務妨害罪とか、虚偽告訴等罪とか難しい言葉が巡る。
いや、名誉毀損罪という線もあり得るのか?
「社長、なんて稚拙な事、やっているんですか」と役員も頭を抱えている。
「社長」と言いながら立花光太郎が社長に近づく。
「な、なんだ」と動揺しながらも強がる社長。しかし、額に汗がにじんでいる。
「社長、僕が大藤さんと仲良くしているので、ヤキモチを焼いたんですね。小学生ですか」
「な、、なにを、、、」
「でも、僕は引きません。最近、大藤さんが気になって仕方がないのです」
「そ、そうか。うん、彼女はできるもんな」
おーーい、この真面目な場で何を言っているんだね君たちは。大藤久美子は心の中で叫んでいた。
会議室の全員が何を見せられているのか分からず困惑していたが、そこに立花光太郎が追い打ちをかけた。
「大藤久美子さん。僕は貴方の事をもう少し知りたい」
おい、やめろ。何を言い出すんだ。
「このAIの名前を、クロード・クミコと付けました」
オーーっ、と謎のどよめきが会議室の中に起こる。
わかったから、もうやめてくれ。そう祈る大藤久美子の心を無視して、立花光太郎は近付いて来て言った。
「好きです。僕と付き合ってください。」
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社長の暴走は笑い話として片付けられてしまった。真面目な久美子としては釈然としないが、立花光太郎本人が全く気にしてないので、それで良いのだろう。
社長は最近会うたびに「彼氏は元気かね」などと言ってくる。
きっと元気なのだろうなと目の前でコーヒーを飲んでいる立花光太郎を見て思う。最近では2人で出かけることも増えた。まぁ、もうしばらくこの珍獣みたいな奴を眺めているのも面白いかもしれないな、と久美子は思った。
立花光太郎は最近ではよく笑顔を見せるような気もする。




