第37話 はじめての日本食
「ごふ…はぁ…はぁ…。ちょ、ちょっと待って…。」
俺は汗だくだくのきったない顔面を晒したままその場にへたり込んだ。
前方を走っていたカイルさんがスタスタと戻ってきた。
なんで俺は汗でぐちゃぐちゃなのにカイルさんは汗かいてないの?
「どうしたんだい?」
「どうしたじゃないですよ!何処まで行くんですか!もう第4階層ですよ!」
当初は俺が転移させる前にみんながいた第2階層奥までの予定だったはずなのにコウモリに襲われないとわかるとカイルさんがドンドン走っていってしまい俺も追わざるを得なかった。
「すまない。山育ちだからか走るのが好きでね。」
「今そんなこと聞いてませんよ。そろそろ戻りましょう。もう良い時間だし飯食って風呂入って寝ますよ。」
―――
「あれー、お帰り。首尾はどうだった?」
風呂上がりの美少女に出迎えられたというのに俺のテンションは上がらなかった。
クソ疲れたからである。
「上々過ぎて大変だった。」
「うふふ、お疲れ様。カイルに付き合ってくれてありがとうコウさん。」
彼女というか保護者かな?
フランソワさん絶対なにがあったか分かってるよね。
「カイルは性格も行動も真っ直ぐだから。」
「付き合った俺はクタクタですよ。首輪でも着けておいてください。」
「あら、それはいいですね。」
すいません、冗談です。
なんか本気でやりそうで怖い。
「コウくん夕食にしようか。」
「俺は先に風呂入ります。ベッタベタで死にそう。」
「はは、それくらいならスライムにまとわりつかれるよりはマシだよ。」
そりゃそうでしょうね?
比べるものがスライムって。
しかもそれ粘液で溶かしてくるんじゃないの?
「でもそうか。なら俺も先に風呂に入ろうかな。」
カイルさんは2階の部屋に戻っていった。
どうやら着替えを取りに行くようだ。
「カイルったら本当にコウさんが気に入ったのね。」
「ねー。珍しいよね、フランソワ以外に懐くの。カイルって区別しないし特別扱いもほぼしないもんね。」
懐くってそんな犬じゃあるまいし。
…それなら美少女に懐かれたかったな(遠い目)
まあいいや。
同じパーティーの仲間だし仲良くなれるのならそれに越したことはない。
例えそれが異世界はじめての風呂イベントが美少女(美女も含め)では無かったとしても…。
―――
前より浴場の品質が上がったからなのか今日の風呂は薬湯だった。
「ふぅー。気持ちよかったな。」
頭からほこほこと湯気が上がっているカイルさんがご満悦で牛乳を飲んでいた。
「はー、やっとサッパリしたよ。これでやっと夕食に出来る。」
「今日の夕食は何かな?前の鳥肉が凄く美味しかったから期待してしまうよ。」
俺たちが席に座ると同時にリリーが食事を運ぶワゴンを押して厨房から出てきた。
「お待たせ致しました。本日のメニューは鶏南蛮定食です。こちら白米、ワカメと豆腐の味噌汁、茄子といんげんの白和え、鶏南蛮でございます。隣のタルタルソースを付けてお召し上がりください。」
「お!美味そう!」
俺は箸を持つといただきますと言って茶碗を持とうとした、のだが。
目の前にいるカイルさんが困っている。
「あれ?どうしました?」
「すまない。全て食べたことが無いものなのでどうしたらいいのかわからなくて。」
あ、確かに!
これ完全に日本食だ!
この世界で食べられてそうなものが一品もない!
というかいきなり箸も無理じゃないか?
「あれー?カイルたちの夕食ってあたしたちが食べたのと違う?」
「あら本当ですね?私たちはパンとステーキと野菜のスープでしたわ。」
やっぱりそうだよね。
フランソワさんたちが同じメニューを出されたらわからなかったろうし。
もしかして俺と一緒に食べようとしたからカイルさんのも俺用のメニューになっちゃったのか?
「はー!あがったあがった。なんだ、お前たちも今から夕食か?」
「ジェイクさん、俺たちより先に風呂に入ったのに今出たんです?」
「ああサウナが気に入ってしまってな。ところでどうした?」
カクカクシカジカとジェイクさんに説明していたらリリーが同じメニューをジェイクさんにも持ってきた。
とりあえず箸では食べ辛いだろうからとリリーに2本フォークを持ってくるように頼んだ。
「なるほど。確かに見たことが無いな。」
「俺のいた国の食事を再現したみたいで。ちょっとみんなには合わないかもですね。」
特に味噌汁が。
外国人に飲ませるようなもんだろう。
色といい臭いといいハードルが高いと思う。
米も家畜の餌だと思われそうだし。
「しかしこれは鳥肉だろう?俺は鳥肉が好きだから食べてみたい。」
「これは鶏南蛮っていうんですけど俺は大好きですよ。この白いソースをたっぷりつけて白米をかき込むんです。」
リリーがペコリと頭を下げカイルさんとジェイクさんにフォークを持ってきた。
「そうなのか、俺もそうやって食べてみる。」
カイルさんはフォークを持つと鶏南蛮を一切れ刺しタルタルソースをくぐらせる。
ぱくり。
もぐもぐと咀嚼していると何だがカイルさんの目がキラキラしはじめた。
「……美味しい…。」
ほぅ…、とついた溜息はまるで恋する乙女のようだ。
そんなにセンチメンタルな感情になるほどお気に召したようだ。
「おお、美味いな。これは冷たいビールが欲しいな。キールこっちにビールをくれ!」
「はい、畏まりました。」
「白米…、これは鳥肉に合うな。そしてこの味噌汁とやらは白米にあう。この緑のひらひらはなんだ?野菜?」
「この白和えってやつも酒にあうな。あとでこれをつまみに日本酒をもらうかな。」
ジェイクさん、いつの間にビールやら日本酒やら覚えたんです?
結局俺の心配など関係なくはじめての日本食は問題無く終わった。
むしろ白米や味噌汁なども気に入ったようで明日も同じものが食べたいとリクエストがあった。
フランソワさんとフィアさんにも食べさせてあげたいしちょうどいいかもしれないな。




