第32話 お人好しなんだよなぁ
「いやー!はっはっは!ここの酒は美味くてつい飲み過ぎちまった!」
ガハハと大口開けて笑うこの人はラーシュさん。
32歳の騎士で大酒飲み、スヴェンさんの昔馴染みだそうだ。
元盗賊と騎士が昔馴染みねぇ…?
「なにもぶん殴る事はないじゃんか!スヴェンのケチー!!」
ぶーぶー文句言ってるこちらの金髪黒ギャルさんはミーシャさん。
20歳の拳闘士で大飯食らい、いつも1人で5人前くらい食べるらしい。
いやこんな小柄なのに食べたものはどこに消えてるんですかね?
「……痛い。スヴェンの、バカ…。」
こっちのピスピス泣いてる灰色のおかっぱ髪の幼女さんことシリカさんは魔導師。
サブ職で錬金術も齧っている天才らしい。
年齢は非公開とのこと。
どう見ても10代前半。
犯罪じゃないよね…?
「てめぇら、何日分の金を溶かしたか言ってみろや…!」
「あー!スヴェンだってなんか新しい装備買ってるクセに!魔石使ってるじゃんか!いくらしたんだよーそれ!!」
「…ズルい…。」
「俺は自分の金で買ったんだよ!文句あるか!馬鹿共!!」
たしかに飲んで食べてでこの金額は怒るだろうよ。
スヴェンさんって実は苦労人属性なのかも。
「まーまー、喧嘩しないでくださいよ。」
「そうだぞ!落ち着けお前さん方。」
ラーシュさんがジョッキを傾けながらカラカラ笑う。
いや貴方もう何杯目ですか?
「ったく!迷いの森の調査がまだあるってぇのに酒をガバガバ飲みやがって!」
「おー?そうだったか!すまんすまん!」
「あの、それでしたら今日はうちに泊まっていただいてまた明日にでも出発したらどうです?うちは《宿屋》もやってますよ!」
「えー!そうなの?泊まる泊まるー!」
「うん、…よろしく。」
「こらこら!何勝手に決めてんだ!」
「4名様、夕食と明日の朝食付きで金貨4枚と銀貨8枚になりまーす。」
「コウてめぇ。」
「銅貨5枚の追加でお風呂も入れまーす。」
「お風呂ー!入ってみたい!あたい入ったことないんだ!」
「…わたしも…入りたい…。」
「では合計で金貨5枚になりますね。」
「お前ら、この仕事金貨20枚で受けてるの忘れるんじゃねーぞ…!」
あらら、それじゃあ飲食代だけで赤字が見えてきちゃうね。スヴェンさん、ご愁傷さまです。
あ、それなら…
「スヴェンさん、あの魔石って持ってます?」
「あ?魔石?そう言えばお前は付呪もやるんだったか。ちょっと待て。おいお前らも魔石あったら出せ。」
各々がマジックバッグやポーチを漁っている。
やっぱり冒険者は荷物が多いから必須になるよなー。
うちの《雑貨屋》の品揃えや品質レベルがもっと上がったら高レベルの冒険者のお眼鏡にかなうマジックバッグも増えるかもしれないな。
4人の荷物を漁った結果思ったより魔石や欠片が出てきた。
ナビさん集計お願いします。
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火の魔石 35個
水の魔石 8個
大地の魔石 11個
闇の魔石 9個
火の魔石の欠片 14個
水の魔石の欠片 1個
月の魔石の欠片 1個
夜の魔石の欠片 1個
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「スヴェンさんこの魔石全部譲ってくれるのでしたら今回の飲食代はタダで良いですよ。」
「本当か?金貨12枚以上の価値は無いと思うがいいのか?」
「まあ、そこは初来店サービスってことで。」
今後とも良いお付き合いをしていきたいしね。
スヴェンさんがまた他の冒険者に紹介していってどんどんお客さんが増えれば収入も上がるだろうし。
施設増築にもレベル上げにも魔石は必要になるから先行投資ってやつだよ。
「悪いな。じゃあ魔石全部と宿泊費と入浴料合わせて金貨5枚な。」
「はい。毎度あり。そこの台帳に皆さんのフルネームをお願いします。」
実はそこの台帳、《フォロワーブック》なんだよね。
こっそり上客登録させてもらおう。
《スヴェン=ローラン 登録》
《ラーシュ=ノートン 登録》
《疾風のミーシャ 登録》
《シリカ=ローラン 登録》
んん?
シリカ=ローラン?
スヴェンさんと同じファミリーネーム?
え、ここも身内?
歳が離れてるけど兄妹か?
「シリカさんってスヴェンさんの妹?歳が離れてるんですね?」
「…ううん…、違う…。…わたしが姉…。」
「姉…。……姉ぇ!!?」
「おい、煩いぞ。コウ。」
え、いや待って。
この世界来てから一番の衝撃だったかもしれない。
この目付き悪いイケメン(28歳)の姉がおかっぱロリだとぉ!!?
「えっ?えっ?マジですか?」
「うん…、マジだよ…。【鑑定】して、みる…?」
「おい、お前【鑑定】なんてできるのか!」
「さっき…スヴェン、【鑑定】されて…たよ…?」
やっば!バレてた!
っていうかバレるもんなの!?
『スヴェンが【鑑定】してるのがバレてんだからマスターがやったってバレる時はバレるぞ。』
はーん、たしかにですねぇ…。
「あの…スヴェンさんが俺のこと【鑑定】しようとしてたから嫌がらせしてこっちもやってやろうと思って…。」
「ちっ…。」
スヴェンさんは舌打ちしただけでそれ以上はなにも言わなかった。
仕返しされても文句は言えないと自覚があったようだ。
「でもシリカさん本当に【鑑定】していいんですか?」
「うん、…別に…困らない、から…。」
普通に考えたらプライバシーの侵害だよな。
でも気にはなるんだ、シリカさんのステータス画面。
ちょっと見てヤバかったら閉じよう、そうしよう。
銀貨1枚を消費して、シリカさんを【鑑定】。
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シリカ=ローラン
職業 魔導師(サブ錬金術師)
年齢 32(肉体年齢12歳)
レベル 23
状態異常 〈不可逆の呪い〉
スキル 【風属性魔術中級】(マイナス補正)、【闇属性魔術中級】(マイナス補正)、【薬学の心得】
カルマ 4 [神獣への冒涜]
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なんだ、このステータス…。
俺が【鑑定】する人みんなこんなのばっかり…。
やっぱり人のプライバシーを侵害するのは良くないよな、うん。
「ね?…わたしが姉…。」
「そういうことな。俺が弟、このちんちくりんが姉貴。」
「ちんちくりん、言うな…。」
シリカさんの肘がスヴェンさんの脇腹にクリーンヒットする。
凸凹な姉弟だなぁー。この場合は凹凸か?
ところで〈不可逆の呪い〉って何かな、ナビさん。
『はい。〈不可逆の呪い〉は成長を後退させる事です。簡単に言えば歳をとるはずが若返ってしまうということになります。』
『この呪いはなー、徐々にガキの姿になっていく上に経験も失っていくから時間が経つにつれてヤバくなる呪いなんだよ。』
『たちの悪い呪いを好む類のものの仕業でしょう。』
うわー、最悪じゃん。
なんて言おうか知ってしまった以上俺も何とかしてあげたい。
このままじゃシリカさんは呪いで…え、赤ちゃんまで退行したらどうなるんだ?
『消えます』『消える』
ひぇー!!
何とかしなきゃじゃないか!
『お前もお人好しだなぁ。自分のことより他人の事か。』
いやそう言うことじゃなくて!
今の俺の状況よりヤバい人が連続してるんだって!
カイルさんとかシリカさんとか!
『だからそれがお人好しだって言うんだよなぁー。』




