07.真実は風の中
「今まで、お世話になりました」
ついに、私の派遣契約が終了してしまった。
「でも、企画七課に異動みたいなもんでしょ?」
「また一緒に、昼飯行きましょう!」
「飲みに行く時は、声かけるぜ!」
「あ、冷蔵庫の中片付けて行って下さいね」
調査室広報課のみんなとも長い付き合いだった。
ツブアンの言う通り、次の所属は企画七課、同じ社内だ。
コシアンは、未だに私が昼食をとらない事を理解していない。
桜餅は、飲んでばかりだな。
事務担当のニャアは、最後まで事務的だな。
しかし、なんでこの部署は全員コードネームなんだ?
室長が、太陽にほえろのファンなのだろうか。
その気持ちは、私にもよく分かるんだが。
一部上場企業で、やる事だろうか?
……いや、こんなものなのだろう。
巨大企業が、閉塞的かといえば、そうではないのだ。
重要なのは、人だ。
規模の大小ではない。
そんな事は、派遣で大企業を渡り歩いて来て、よく分かっているじゃないか。
最後に、冷蔵庫の中を片付ける。
「えーっと、確かプリンを入れてたはず」
何度買って来ても、誰かが勝手に食べてしまう。
ちゃんと名前を書いているのにだ。
しかも、誰もがまったく悪いとは思ってない。
よくある事ではあるが、これこそが、この会社最大のミステリーだったのかも知れぬ。
「ん? これは?」
どういう事だ。
飲みかけのコーヒー、いつからあるのか分からないなめこの瓶。
全てに、
多恵子
と、書いてある。
「まったく、広報課のおふざけにも困ったもんですよ」
「そう言ってやるなよ。うちの会社は、どこでもそんなさ」
翌日、企画七課に行くと、黒田が出迎えてくれた。
「それはちょっと、おおらか過ぎやしませんかね?」
「まさか、お前さん、うちの社長の名前知らんのか?」
「信長ですよね?」
「フルネームだよ」
「フルネーム?」
「織田上総之介多恵子信長、だよ」
まさかとは思うが。
「黒田さん、下の名前は?」
「もちろん多恵子さ」
「私も、多恵子なんですが」
「だから言ってるじゃないか、お前さんもうちの社員になるべきだって」
広報課が全員コードネームで呼び合っていた事。
冷蔵庫の中にあったものに書かれた名前。
3年追って来た事件簿を埋め尽くす多恵子。
すべてが今、繋がった。
そうか、そういうことか。
多恵子が、風の中にひらひらと飛んで行くのが見えた。




