05.金ケ崎の退き口
事件は、いつだって会議室で起こる。
「止血は済んでるのか!」
「もうダメです、死んでます」
「いちかばちか蘇生するか?」
不穏な言葉が飛び交うここは。
情シスの運用保守定例だ。
「メインサーバのプロセス死んでませんか?」
「ゾンビ化してんのか?」
「殺すか?」
「手順書レビュー通らないぞソレ」
「緊急時対処マニュアルに、キルコマンドをコッソリ入れておきました」
「こんな事もあろうかと、ってか」
「お前マジ真田さん」
ここでの会話が、議事録に残っていない謎はすべて解けた。
こんな物騒な会話は残せない。
「見て分かったと思うけど、実態はこんなよ」
情シスの課長とは、飲み友達でもあるので、話が早い。
ざっくばらんに情報交換が出来る。
「ああ、想定通りだ。上には、そう報告しておくさ」
「で? どうせ他にもなんかあんでしょ」
「広報誌のための取材だよ」
私の所属は、特別調査室の広報課だ。
こういう業務だってあるのだ。
それが、表向きの私達の姿だ。
「サーバって、まだ社内にあんの?」
「いや。10年前にすべてクラウドに移転したよ」
「金ケ崎の退き口事件か」
「そんな呼ばれ方してんのか? その取材に来たってか、今更」
「そうだ。でも、それは本題じゃない」
「じゃあ何さ。本能寺の炎上なら触らん方がいいぞ」
「何か知っているのか?」
「そうだな。企画七課なら知ってるかもな」
何かを、はぐらかされた気もする。
しかし、企画七課か。
桶狭間事件。
株式会社らくいちらくざが、躍進したあの事件。
黒幕が、当時の企画七課課長だった黒田だと噂されている。
本能寺炎上事件と、無関係なはずが無い。




