02.10人の容疑者
私の調査班としての仕事は、もうすぐ終わる。
飲みに行けば、愚痴しかなかった職場だが、終わるとなると寂しいものだな。
家を出た時に目を焼く太陽にも、少しだけ寛容になれる。
眩しい太陽を見る度に、こんな日に仕事なんてなあ、と思うのだが。
空が青ければ青い程、恨めしくなる。
私は、そういうケチな性分なのだ。
だから、老害などと言われるのだろう。
そして、今日も私は事件の起きた会議室へ向かう。
「容疑者は、これで全員か?」
「はい、本能寺は役員会議室なので、容疑者は役員の10人に限定されます」
最後の難事件かと思ったが。
これは、既に解決の糸口が掴めたんじゃないか?
事件の現場で不謹慎だとは分かっちゃいるが、にやけそうになって止まらない。
自販機で買った薄ら不味い安いだけの紙コップのコーヒーを煽って誤魔化す。
昭和の頃なら、ここでタバコを取り出して火を付けるところだ。
私は、幻想の紫煙の向こうに、容疑者達を見つめる。
「情シス部長の明智です」
「副社長の豊臣じゃ」
「専務の柴田」
「子会社の江戸ファイナンスの社長徳川だ」
「営業本部の丹羽です」
「海外事業部の滝川っす」
「戦略担当の黒田や」
「社長秘書の森でございます」
「茶道部の千やで」
「会長の足利だっちゃ」
「わしぁあ藤吉郎だぎゃあ」
……ちょっと待て、11人居る?
1人多いだろ。
「役員は10人じゃないのか?」
「はあ、森さんは秘書なんで違うでしょ」
「徳川のおっさんも子会社の社長ですねえ」
「いや、藤吉郎って誰っすか?」
……こいつら、再教育が必要だな?
そんな事は、集めた時に確認しろよ。
私にとっては去り行く職場だが、先行きが不安になるな。
しかし、私の不安はもっと別のところにある。
こいつら、全員クロじゃねえか?




