第三十六話-蠅の王♯2-
『ビィィィッ!!!!』
攻防、再び、
レオンの刀と、リヒトのナイフと、蠅の王の爪がぶつかり合い、金属音を奏でる
だが、
『ビィッ?』
蠅の王の爪が溶ける———いや、元のハエ達へと散らばる
そしてそれは、戻らない
「本能で感じたのか、それとも戻せないのか…どちらなのかは知らないが、再生は出来ないらしいな。」
そう言ったレオンは、更に二、三撃追加で加える
また、溶ける
それは勿論、毒である
除虫菊に似た成分の毒
それは、神経系を麻痺させ、殺す
それを塗りたくったレオンの刀と、リヒトのナイフによる攻撃は、ただの蠅の塊である蠅の王にとって、何よりもダメージとなる
斬り、斬り、斬り刻む
蠅の王の体が少しづつ小さくなってゆく
だが、やはり敵は蠅の王である
———ブブブブブ
「嘘だろ…?」
恐らく、隠れていたのだろう
湿地帯から、更に多くの蠅が飛んでくる
それはまるで、辺りを埋め尽くすように———
蠅の王の体に、蠅達が吸い込まれるように集まる
実質的な、身体機能の強化である
そして更に、蠅の王が配下達に残酷な命令を与える
『ギィィ…!』
蠅達が集まり、刀となる
レオンの刀を見て真似たのか、その形はそっくりだ
『ギィ———』
蠅の王の、加速
更に蠅の密度が高くなった蠅の王の力は、今までを遥かに凌駕する
猛攻が、リヒト達を襲う
レオンの動きを学習したのか、刀での動き方も真似ているようであった
だが、技巧を解禁したリヒトはそれを軽々と避け、蠅の王をぶった斬る
『ギィィィッ!』
リヒトのナイフの毒にやられた部位を、すぐさま蠅によって補給し、補強する
だが、リヒトの攻撃は止まらない
『ギィィ…』
壊死、補強、壊死
それが繰り返される
リヒトの勢いも、蠅の王の勢いも止まらない
そして
『ギィャァァァァァァァ!!!!』
リヒトの頭部に爪が伸ばされ、リヒトを斬り裂く…事はなかった
触れた先から、ボロボロと蠅が崩れていく
リヒトは、全身にナリアの毒を塗っている
それは、人間には効かない
「終わりです。」
四肢が全て叩き斬られる
そして、直ぐに補給がなされ———
ずどんと、矢が一閃
蠅の王の頭部の真ん中を貫く
そこには、蠅の王の本体があった
蠅の王の体が、崩れ去る
「あたしの出番、無かったな…」
レオンがそう呟く
———ところでだが、民が王を失った時、果たしてどのような行動を起こすのだろうか
喪に伏す?それは王を殺した犯人が、その場に居ない時だけであろう
王は、慕われていた そして、死んだ
ざわざわと、湿地帯が騒々しくなる
その殺意は、王を殺したものへとのみ注がれる
「何か湿地帯が騒がしいな………………………………っ!お前ら逃げる準備をしろ!!!」
その時見たもの、それは、山にも思える黒い大群
一千万匹はいるであろうその大群が、リヒト達を呑まんとする
「きゃっ何なんですか!?あれ!」
「怒り狂った蠅の大群だ!とにかく逃げるぞ!!」
湿地帯を駆け抜け、そのままアルディエストへと向かおうとする
だが、距離はまだまだ遠い
「途中で諦めてくれたらいいんだが…難しいだろうな…」
「師匠!何か無いんですか!?」
「無い、いいから走れ!!!」
三人が、湿地帯を駆け、蠅達がそれを追う
その光景は、遠くから見ると、山がひとりでに動いているようであった
——————
誰かが、野営をしていた。
「あ?何だありゃ?」
遠くに、黒い山それも、動いている
「ちょっくら見に行ってみるか…!」
その男の正体は…
——————
「はぁっはぁっ」
リヒトの息が、切れ始めている
「もう、走れませんよ…」
もう、黒い山は直ぐそこまで迫っている
もう、逃げる事は出来ない
「大丈夫か?あんたら。」
ドン、と後ろから音がした———
…… 黒沐死じゃない?これ




