第三十一話-愛の小鳥-
遠い昔、とある街に、貴族の娘がいた
その娘は、とある青年を愛していた
しかし、その青年の身分はただの平民、到底釣り合う者ではない
さらに運の悪いことに、娘の家は、身分差別が激しかった
だが、二人は互いを狂気の程に愛し合っていた
そして、青年は二人ともに予定がない毎週金曜日の夜に、貴族の娘に会いに来ていたのであった———
窓をトントントンと、三回、独特なリズムで叩く
それが来訪の合図だ
『会いに来たよ、◼︎◼︎◼︎◼︎。』
『イェイル!今日も来てくれて、ありがとう!』
◼︎◼︎◼︎◼︎が勢いよく開け放った窓から身を乗り出す
『今週は、どうだった?』
『最近は、ずっと貴族のマナーやルールのことばっかり、もう…嫌になっちゃうよ……イェイルは?』
『僕も、あんまり良いことはないかな。一昨日は、嵐が来て大変だったんだよ。』
『そうなんだ…嵐って、とても危険でしょ?作物は大丈夫だったの?』
『うん、本当にギリギリだったけどね、お父さんが近くの人を集めてくれて、何とか守れたんだ。』
『それは良かったね…』
二人は、談笑を続ける
だが、楽しいひとときはそう長くない
『あ、もうすぐ時間だ…あれをお願いできる?』
『もちろん良いよ!』
◼︎◼︎◼︎◼︎が小さな声で歌い始める
それは、切ない恋の歌
だが青年は、その歌が大好きであった
そうして◼︎◼︎◼︎◼︎が歌い終える
『それじゃあ、またね…!』
『うん、また来週。』
そうして、月日が過ぎてゆく
辛くとも楽しい日常を歩んでゆく
そして、◼︎◼︎◼︎◼︎が今日、成人を迎え、独り立ちが出来るようになるころ、
パーティーの後に、自室に戻る
今日は、金曜日である
だが青年は来なかった
どうしたのだろうか、
———ガチャ、
滅多に◼︎◼︎◼︎◼︎の部屋に入って来ないはずの母が、入ってくる
『———言い忘れていましたが、あの薄汚い平民は、始末してあげました。
付き纏われていて辛かったでしょう?
今日はお眠りなさい。』
嘘、だ
そんな筈はない、だって、今までに一度も見つからなかった
今日に限って、そんな
『お母様…?一体何を…』
母が振り向きこちらを睨みつける
あぁ、そうか、気づいていたんだ
気づいてたうえで、泳がせてたんだ
今日、殺すことで
私にもう二度とこういうことをするな、と釘を刺すために
怒り、悲しみ、そして絶望
『お母様、一つだけ宜しいでしょうか。』
『はい、なんでしょう?』
『この事は、お父様も知っていたのですか?』
『勿論、当たり前でしょう。それに、使用人どもも全員知っていましたよ。』
ああ、やっぱり。
この世界は理不尽だなあ
母が部屋を出ようと、扉に手を掛ける
開かない
『えっ?きゃあっ!』
ポタポタと、腕の先から何かが流れ落ちる
無論、血である
『————————♪』
歌が聞こえる
『◼︎◼︎◼︎◼︎!いったい私に何をしたのですか!!さっさと治しなさい!!!』
状況が、理解できてないみたいだね
歌う、歌う
『ひぃっ、誰か!誰か来て、私を守りなさ——』
———ピッ
血飛沫が飛ぶ
扉を、開ける
周りが私を見て騒いでいる
君たちも、同罪だよ?
歌う、斬る、殺す、歌う、歌う
いっぱい殺した
扉を開ける
『どうした?もう寝る時間だぞ、◼︎◼︎◼︎◼︎———』
父が私を見て動きを止める
次第に顔が青ざめていき、汗が吹き出ている
『———♪——————さようなら。』
◻︎翌日
「えっと、ここか。」
一人の男が、大きな屋敷に辿り着く
「すみません、私は騎士団の者なのですが、近辺で死体が見つかりまして、それの調査にまいりました。
どなたか、いらっしゃいませんか?」
屋敷の前で叫ぶも、誰も来ない
「…留守って事はないと思うんだがな」
門が空いていたので、中に入る
「入りますよ?」
扉に手を掛け、開ける
「は?」
血、血、血。地面には血と死体しかない
それと歌声
廊下の奥の方から聞こえる
「いったい、何があったって言うんだ…」
歌声が聞こえる、部屋の扉を開ける
そこには血で染まったナイフを持つ少女が華麗に歌っていた
そのドレスは赤色に血塗れ、元の色は想像もつかない
騎士団に、連行される
——————
「判決を言い渡す。今事件の犯人、◼︎◼︎◼︎◼︎を、服毒刑に処す。」
少女は、死刑となった
『————♪——♪——————♪』
まだ、歌う
それは、死刑の直前まで
毒が体に回る
そして、最期に
『———いつか絶対、見つけるからね———』
そうして◼︎◼︎◼︎◼︎は哀しき愛の物語を終えた
◼︎そして現在———
鋭い毒の苦痛で、昔を思い出す
一度同じ毒をくらっているので、抗体ができてはいる
だが、もうじき体に毒が回り、今度こそ死に至るであろう
だが、それまでは
死ぬまで、絶対に彼を諦めない
最期の歌が、墓を震わせる———
悲しい過去




