第20話
「おい、おい、なんでお前? ってか、とりあえず頑張れよ!」
私に防具を着けながら、アダムは私の背を叩いた。
「痛っ! もう馬鹿力なんだから!……頑張れって言われても……私もなんで自分が指名されたのか分からなくて戸惑ってるんだけど」
私はため息をついた。しかし、ここまできた以上はやるしかない。
私は最後に剣を腰に挿す。
準備を手伝ってくれたアダムに礼を告げると、令嬢にしては短い髪を一括りに縛った。
ゼイン殿下は闘技場の中央で待っている。私は小走りでそちらへ駆け寄った。
「構え!」
何故私なのか── そんなことを尋ねる暇もなく、審判から声がかかる。
ゼイン殿下の瞳が鋭く光る。私は大きく息を吐くと、剣を構えた。
「遠慮なく打ち込んでこい」
殿下の言葉と同時に試合開始の合図がかかる。
「始め!」
私は一気に間合いを詰めた。力では絶対に負ける。様子見などまどろっこしいことはすっ飛ばして、殿下の懐に目掛けて足を踏み出した。
カキン!
殿下はそれを読んでいたのか、余裕で私の剣先を弾く。
私は体勢を崩しながらも、剣を返して殿下の腕を下から打ち付ける── が、それも殿下に阻まれてしまった。
剣を合わせたまま、睨み合いが続くが力の差は歴然。私はどんどんと身体ごと、押しのけられる。
このままでは無理だと判断した私はひらりと身をかわし、殿下の剣が届かない場所まで間合いを取った。
「ほう……身軽だな」
殿下はそう呟いたが、それが余裕のある態度に見えて、私は思わずムッとしてしまった。つい力任せに打ち込んでしまう。
しかし、それは直ぐに弾き返された。
ダメだ……冷静にならないと。私は改めて殿下から離れて間合いを取る。
殿下もこれで五戦連続。疲れていることは間違いない。殿下の隙ができることを願って待つしかない。
私は殿下と間合いを保ちながら睨み合った。
攻撃してこない私を殿下はフッと鼻で笑う。── 挑発に乗ってはダメだ。
すると、急に殿下が素早く打ち込んで来た。私はそれをすんでのところで剣で受け止める。
直ぐに殿下は剣を離し間髪入れずにまた打ち込こんできた。それを何度も何度も剣で受け止める。殿下からの怒涛の攻撃に私は防戦一方。重い剣の攻撃に受け止める手が痺れて来た。
もう! 殿下っていつ疲れるの? いつ隙が出来るの?
イライラしそうな気持ちを抑えるが、自分の限界が近いことも気づいていた。
「そっちが攻撃しないなら、これが最後だ」
殿下が剣を構え直した瞬間、鋭い剣先が私に向かって来た。
ダメだ! そう思うと同時に私は無意識に地面へと転がっていた。
殿下の剣を辛うじて避ける。
その時── 殿下の足元が目に入った。型なんてどうでもいい。私は地面に寝転がったまま遠心力で思い切り剣を振った。
カスッ!
殿下の爪先に私の剣先が触れた。ほんの少し彼の靴に傷が入る。
その瞬間、ガシッという音と共に私の剣は殿下のブーツに踏みつけられていた。
「勝負あり!」
模造剣は力いっぱい踏みつけられたお陰で刃先が折れてしまった。
──完敗だ。
私は審判の声と同時に地面に手をつき、身体を起こした。
トラウザーについた砂をさっと払って私は殿下に向かい合う。
「ありがとうございました」
私は頭を下げた。悔しくないと言えば嘘になる。しかしこれが今の私の実力なのだと思い知ることが出来た。
── 下げた視線の先に傷の入った殿下の爪先があった。
「頭を上げろ」
殿下の声に私はゆっくりと顔を上げる。
「力では当然、男と女に差ができる。接近戦では不利になるだろう。だが、お前の素早さは目を見張るものがあった。……俺の体に傷をつけたのは今日の試合ではお前だけだ」
私はまた小さな傷がついた殿下の爪先に視線を落とす。
「靴に……ほんの少し触れただけです」
私はそう言って肩を落とした。その肩に殿下が優しく触れる。
「それでも……だ。自信を持て。そうだな……お前、弓を扱ってみるつもりはないか? 接近戦よりお前には向いているかもしれない。剣も弓も……両方扱うことが出来れば、お前の大きな武器になる」
弓── 考えたことも無かったが、それなら自分の弱点をカバー出来るかもしれない。
私はパッと顔を上げた。
「アドバイス、ありがとうございます。自分はまだまだだと知ることが出来ました。── 弓矢にも挑戦してみます」
「その意気だ」
殿下はそれだけ言うと、私に背を向けた。私はその背に改めて頭を下げる。
「剣は弁償する」
その声に顔を上げたが、殿下は振り返ることなく、そのまま闘技場を去っていった。




