第17話
「一ヶ月ぶりですね。何だが色々あったみたいだけど」
ミルナ様とのお茶会。まるで婚約者同士のように定例化しているが、今日は一ヶ月ぶりだ。
しかも今日の彼女はいつにもまして美しかった。それに引き換え……いや、比べても仕方ないが、私の冴えないこと……。
「何か聞いていますか?」
「うふふふ。緘口令が敷かれてるわ。下手に喋れば私にもお咎めがあるかも」
そう言いながら悪戯っぽく笑うミルナ様。
「緘口令?」
「ええ。先日のデビュタントで珍しくゼイン殿下が踊った相手の名はね。しかもその相手がほぼ白いドレスだったなんて、私は聞いていないわ」
ミルナ様はまだクスクスと笑っている。
「誰からそれを── 」
アークロイド卿が言った通り、誰も私に何かを尋ねてくることはなかった。学園は逆に静かすぎるぐらいで、居心地が悪い。
「それは……まぁ。でも、本当にその白いドレスの相手の名は広まっていないわ。デビュタントの会場に居た皆様は真面目にお約束を守っているようよ」
「でもミルナ様は知っているじゃないですか……」
私が情けない声でそう言うとミルナ様は我慢できなくなったように吹き出した。
「プッ! そんな顔しないで。今回のことは中々婚約者を決めないゼイン殿下にしつこく自国の姫との縁談を持ち込む他国の王族への牽制のパフォーマンスだった── ってことで収まっているから。皆様もそれで納得しているし」
「そ、そうなんですか?」
私の耳には全く届いていない話に私は驚いた。
「ええ。フロスト家には伝わっていない? ──あぁ、それを言うと貴女を蔑む人がご実家には居そうだものね」
そう言ってミルナ様は小さく頷いた。確かに……『調子に乗るな、お前は使われてだけだ』と喜ぶリンダとジェーン、二人の顔が目に浮かぶ。
「でも……それを聞いて安心しました! この一件は私も何が何だかわけが分からなくて……でもその理由なら納得です。私が選ばれた基準は分かりませんが……」
私は少し肩の荷が降りた気がしてお茶を一口飲んだ。
「……貴女って……鈍いのね。まぁ、いいわ。私も確信を持っているわけじゃないし……」
何やらミルナ様がブツブツ言っているが、私はそれより気になったことがある。
「緘口令が敷かれているのに、ミルナ様は何故……その白いドレス……ではなく薄水色のドレスの人物が私だと── 」
ドレスの色は強調しておかなければならない。あれは白じゃない!
「あぁ、それね。今日はそれも含めてアンジェリカ様にお話がしたかったの」
ミルナ様が美しく微笑む。女の私ですらうっとりしてしまう。
「何かありましたか?」
「私、アダム様と婚約しようと思いまして」
ミルナ様のその言葉に私は驚いて思わず声を上げた。
「え! 本当ですか?」
アダムからもミルナ様に求婚していることを聞いていた。彼は朝から晩までミルナ様のことを想っているようだったが、自分がどれほどミルナ様に想いを寄せているかは語っても、ミルナ様とどうなっているのかについては固く口を閉ざしていた。
てっきりアダムの片想いに終わってしまうのだとばかり思っていたのだが── 。
「前回のお茶会でアンジェリカ様が仰ってくださったでしょう? 腹を割って話してみてはどうかって。私、自分の考えをアダム様にお話したの。そうしたらアッサリと『俺は近衛騎士になるのでその方が有難い』と言ってくれたわ」
やはり、アダムはミルナ様にとって『丁度良い相手』だったようだ。
「それで── 」
「でも……それだけで決めないでくれって言われたの。条件だけで俺を選ばないで欲しいって。だから今まで彼と過ごして彼を知る時間を設けてもらった。一緒に過ごす中でこの人となら、人生を共に歩んでいけると確信したの」
そう言って微笑むミルナ様の頬は少し紅く染まっていた。── アダムの粘り勝ちだ。彼はミルナ様の心を手に入れたようだ。
「ならばミルナ様も──」
「ええ、こんな気持ちは初めてよ。今まで……私を邪魔しない人なら誰でも良いって思っていたけど……誰かに自分を大切に想ってもらえることがこんなにも心が温かくなるものなんだって初めて知ったわ」
はにかむように微笑むミルナ様が可愛らしい。『男は裏切る生き物だ。男に頼るなんて真っ平御免』と言い切っていたミルナ様の心を柔らかく解したのは他でもない、アダムの頑張りだ。
「良かった! 改めておめでとうございます」
「ええ。今日この後、アダム様に会ってお話しようと思って」
私は思わず立ち上がる。ガタン! と椅子が大きな音を立てた。
「え! まだアダムには何も── ?」
目を丸くしてミルナ様が私を見上げている。
「え、えぇ……夕方に返事をするお約束を……」
私は体を曲げミルナ様の手を握る。
「早くアダムを安心させてやってください! 私のことは構わず! さぁ!」
「え、ええ……? でもまだ時間が……」
「アダムはドキドキしながら待っていると思うんです。彼のことだから朝からソワソワして……。きっと早ければ早いほど喜びます」
ミルナ様は私に報告することを優先してくださったのだろう。彼女はそういう人だ。
だけど私はアダムがミルナ様を想う気持ちの強さを知っている。毎日ミルナ様のどんな所が好きなのかを聞かされていた身としては、早く彼を安心させてあげたかった。
「そ、そうかしら? 実は……私も少し緊張していて……」
そう恥じらうミルナ様は抱きしめたくなるほど可愛らしかった。




