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復讐なんていたしません!死に戻り令嬢は長生きだけが目標です〜愛だの恋だのに興味はないと言っているじゃありませんか!〜  作者: 初瀬 叶
第2章

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第7話

「アダムから?」


「ええ。もちろんレイバン侯爵を通じてでしたが……それから彼が毎日うちの屋敷に花束を持って訪れて来るの」


ミルナ様は苦笑いしながらカップをソーサーに戻す。


「毎日……」


「ええ、毎日。飽きもせずに」


あの大柄なアダムが花束を抱えてミルナ様を訪ねている姿を想像して……思わず吹き出しそうになる。花束が世界一似合わない男だ。


「それで……ミルナ様はどうするおつもりで?」


「うちは伯爵、あちらは侯爵。断ることはできませんし、私は婚約解消した身。父も手放しで喜んでいますし、その流れに乗ってしまうしかないのだろうと……そう思っておりました」


『そう思っておりました』

その言葉に続くのは『だがしかし── 』しかないんじゃないかしら。もしや断った?


「では……お断りに……?」


私の言葉にミルナ様は緩く首を横に振った。


「アダム様はこう仰っしゃいました『うちが侯爵だからとか、婚約者に浮気されて婚約解消したからとか、全く考えないでいい。俺と生涯を共にしたいと本気で思ったらその時は俺を受け入れてほしい。それまで俺は諦めない』と。── 普通言います? 浮気されて婚約解消したって……された相手に」


そう言いながらもミルナ様はクスクス笑った。


「あの……すみません。ちょっとデリカシーのない男でして」


私が謝ることではないがアダムのことは今までの付き合いで分かってきた。アダムらしいと言えばらしいのだが……ミルナ様に申し訳ない。


「フフフ。最初は少し頭に来ましたけど……それならば時間をくださいと申しましたの。家柄ではなく人柄で選ばせていただきます……と」


「では、アダムはフラれたわけでは……」


「今は彼の為人を知る時間です。そこで彼のことを良く知っていそうなアンジェリカ様に意見を聞いてみたくて」


そう言ったミルナ様は先ほどとは違い楽しそうに笑っていた。これは脈あり? いやいや、ミルナ様は賢い女性だ。簡単には絆されないだろう。


「意見と言われましても……。では逆にミルナ様はアダムのこと、どう思っています?」


「……情熱的な男性だと思いますけど……こんな風に熱烈にアプローチされることに慣れていなくて、少し困惑しているのが本音」


ミルナ様の美しさにアダムは一目惚れしたようだ。分かる。ミルナ様は女の私から見てもうっとりするほど美しい。例えるなら凛とした大輪のカサブランカのような美しさだ。


「……ミルナ様、ミルナ様が結婚相手に望むものは?」


私の質問にミルナ様は少し考えたあと答えた。


「伯爵位を継いでも領地経営は私に任せてくれる寛容な人……かしら。普通の男性はプライドが許さないかもしれないけど、実権は私が握る。それを許してくれる人ね」


前の婚約者はそれでミルナ様に見限られた。

そう考えるとアダムは次男でクラエス家に婿入りすることは可能。それに彼は近衛騎士になることが目標だ。……ミルナ様にうってつけなのでは? そう思うがそれを私が口にして良いものか。


「ならばその考え、アダムに話してみては?」


私の提案にミルナ様は少し考え込む。


「気を悪くされないかしら?」


「それを聞いてアダムがどう答えるかは分かりませんが……そんなことで気を悪くする男ではないことは確かです。この際腹を割って話してみてはいかがでしょう」


私の言葉にミルナ様は小さく頷いた。


「相手が侯爵だからと少し遠慮していたけれど……そうね、こんな私を受け入れてくれるか分からないもの。……うん、一度ゆっくりとお話してみるわ」


ミルナ様は少しだけ吹っ切れたように微笑んだ。


立場もあるしミルナ様にも色々と考えがあったのだろうが……アダムならきっと、ミルナ様の本心を知ってもブレないのではないか……私にはそう確信めいたものがあった。






ミルナ様と別れ、私は屋敷に戻る。


しかし玄関ホールに入った途端、ジェームズの怒鳴り声が聞こえた。


「ジェーン! お前いい加減にしろよ!」


「私は知らないって言ってるでしょう! 部屋の窓が開いていたのはメイドの責任。マチルダをクビにしたら?」


ジェームズと話しているのはジェーンのようだ。

ジェーンも大声で言い返している。


こんな風にジェーンを怒るジェームズの声を初めて聞いた気がした。


ここから重複


「だから、私は知らないって言ってるでしょう! 部屋の窓が開いていたのはメイドの責任。マチルダをクビにしたら?」


ジェームズと話しているのはジェーンのようだ。

ジェーンも大声で言い返している。


ここまで




玄関ホールで呆気にとられていると、血相を変えたマチルダが私の元へ飛ぶようにやって来た。


「お嬢様、直ぐにお部屋に戻られてください。ここに居ては、とばっちりを── 」


「そんなことよりマチルダ、貴女をクビになんて話が聞こえたのに、黙っていられないわ」


私は声が聞こえた二階を見上げる。ジェーンと相対するのは面倒極まりないが、マチルダをクビにしろなんて、聞き捨てならない言葉だ。


「私のことなど今はどうでも良いのです! 」

マチルダは強引に私の腕を引く。


「待って、マチルダ。一体何が── 」

困惑しながらも二階から視線を逸らさずにいると、その先の扉からジェーンが出てくるのが見えた。


「あら、おかえりなさい。残念だったわね、ドレスが台無しになって」


ジェーンは私の姿を見つけると、鼻で馬鹿にしたように笑いながら階段を降りてきた。


しかし── 。

ドレスとは何のことだろう? 私は彼女の言葉の意味が分からず、無意識に眉を顰めた。


「ウフフ、不機嫌そうな顔しちゃって……。仕方ないから私のドレスを貸してあげましょうか? あ! でも貴女って随分と逞しくなったから、華奢な私のドレスではサイズが合わないかも」


ジェーンは結局私の目の前までやって来て、可愛らしく首を傾げた。


「何を言っているのか分から── 」


「アンジェリカ、帰ってたのか」


私は名を呼ばれ再度二階を見上げる。次は険しい顔のジェームズが私を見下ろしていた。

ジェームズは怖い顔のまま階段を降りてくる。それを見ていた私にジェーンが耳元で囁いた。


「ジェームズが貴女に同情してるからって、いい気にならない方がいいわ。所詮貴女はこの家に必要ない人間なんだもの」


私はサッとジェーンから一歩引いて彼女の意地悪そうに微笑む顔を見つめた。


「貴女が何を言いたいのか本当に分からないけど……別にここで必要とされたいなんて思ってもないわ」


私の言葉にジェーンはあからさまに馬鹿にしたような表情を見せた。


「まぁ、せいぜい強がっていればいいわ。そうだ! 自分の部屋に戻る前に、あの部屋に行ってみて? ── 面白いものが見れるから」


彼女はそう言って自分が先ほど出てきた扉を指さした。既にジェームズが私たちの側に近寄って来ている。


「ジェーン、アンジェリカに構うな」


「何故? だってアンジェリカは食事も私たちと別々にとっているし、こうして私から歩み寄らないと仲良くなれないんですもの。私は仲良くしたいだけよ?」


「……もうお前は部屋へ戻れ」


ジェームズは低い声てジェーンにそう言い放つと、私の隣に立った。


「すまない」


何故かジェームズが私に頭を下げる。


「え? どうして貴方が私に謝るの?」


「ジェームズ、簡単に頭を下げるのは格好悪いわ」


戸惑う私とジェーンの不機嫌そうな声が重なる。


弾かれたように顔を上げたジェームズがジェーンを睨んだ。


「俺の声が聞こえなかったのか? 部屋へ戻れ」


ジェームズが本気で怒っている。その気配にさすがのジェーンも気づいたようだ。


「わ、分かったわよ」


ジェーンはそう短く答えると、プイッと顔を背けてまた階段へと戻って行った。


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