第14話
「もういい加減にしてくれ!」
ロバートの大声で会場は一瞬にして静寂に包まれた。
私がその声に振り向くと、顔を青ざめさせたジェーンがオロオロとしながらロバートに手を伸ばす。
「ロバート、私はただ── 」
「……ごめん。今日はもう失礼するよ」
すがるよう伸ばされたジェーンの手を、ロバートは振り払うようにはねのけた。
そのままロバートは振り返らずに会場となったホールを後にする。
「ロバート!」
追いすがろうとするジェーンの肩に、ジェームズが手を置いてそれを止めた。
「ジェーン、今日は諦めろ」
「ジェームズ! だって── 」
そのやり取りを皮切りに、会場にいる招待客があちこちでコソコソと何かを話し始めた。先ほどの顛末について、皆が勝手な憶測を始めたことがわかる。
今日はジェームズとジェーンの誕生日パーティー。
ものの一時間程前まで、ジェーンは上機嫌だったはずなのだが……。
ロバートが閉じた扉の音がやけに大きく響く。その瞬間、ジェーンは少し離れた場所に居た私をキッと睨んだ。
それと同時にツカツカとジェーンが私に近寄って来る。
バシン!──
私の頬に痛みが走る。思わず私は熱くなった頬に手を当てた。
「ジェーン! お前、何してるんだ!」
ジェームズが走り寄りジェーンの肩を強く掴んで自分の方へと向かせる。
「こいつのせいよ! こいつがロバートに何かを吹き込んだに違いないわ!」
「ジェーン! 何があったの?」
リンダもまたジェーンに駆け寄ると彼女を優しく抱き寄せた。
「ロバートが……」
そう言ったジェーンは肩を震わせて泣き出した。まぁ……いつもの嘘泣きだろうが。
リンダがジェーンを胸に抱きながら、私を睨む。頬を打たれたのは私なのに、何故ジェーンが庇われているのか……全く意味が分からない。
そして、ロバートが怒って出て行った理由も、ジェーンが癇癪を起こしている訳も全く分からない。困惑しているのは、私の方だ。
私は何故今こんなことになってしまったのか、今日のパーティーでの出来事を振り返った。
派手に飾られたパーティー会場。見栄っ張りのリンダらしい。
実はこの場に父はいない。何故なら領地で問題が起きたからなのだが、ここまでは一度目の人生と同じだ。
だが── そこからが違っていた。
◇◆◇◆
「俺と踊ってくれないか?」
ジェーンとロバートが音楽に合わせて踊っているのを横目に、私は必死にローストチキンを食べていた。鶏肉にはタンパク質という物質が多いらしく、筋肉を作るのに適しているのだとレイから聞いたからだ。
ローストチキンを頬張った私の目の前に、少し照れた表情でジェームズが手を差し伸べている。
私は慌てて近くのグラスに水を注いで、口の中のローストチキンを流し込んだ。
「わ、私と?」
何とか喋れるようになった私だが、ジェームズからダンスに誘われるなど夢にも思っていなかったせいで、素っ頓狂な声を出してしまった。
「ほ、他に誰がいるんだよ」
ジェームズはそう言って口を尖らせた。
確かに。ジェームズにはまだ婚約者がいない。リンダが色々と条件を付けているせいで相手選びが難航していると聞いたのはつい最近のことだ。
ジェームズが顔を赤くしながら、私の様子を伺っている。── 本気で私をダンスに誘っているようだ。
私は思い切ってジェームズの手を取ることにした。
「私で良ければ喜んで」
ジェームズにはお古の洋服を貰った恩もある。それに私には一度目の人生とは違うことに挑戦するという行動理念があった。
ジェームズにエスコートされながら、ロバートとジェーンの二人が踊るホールの中央に向かう。
私とジェームズの姿を見たジェーンはギョッとしたように目を丸くした。それはロバートも同じで、驚いたような表情で私たちをジッと見つめていた。彼の表情はどことなく覇気がない。それはこの会場に到着した時からで、私はそのことが少し気になっていた。




