第13話
ジェームズに貰った洋服はぴったりで、私は格段に動きやすくなった。
いつの間にか出来る腹筋の回数は五十回を超える。
「── ごーじゅう!」
五十回目の腹筋で起き上がった私にレイが満足そうにウンウンと頷いた。
「ではそろそろ剣を握ってみましょうか」
私は逸る心を抑えつつ、レイから手渡された模造剣を握った。剣先を潰しているものの、やはり重みがある。
「それでは少し振ってみましょうか」
そう言われ恐る恐る私は剣を上から下へと振るった。
その時に気づく。店の中て持った時より、剣が少し軽く感じた。剣の重さに振り回されることなく、私は剣を操れている。
「うん。良さそうですね」
レイの言葉に私はパッと顔を上げた。
「軽く感じるわ……いや、重いのは重いんだけど……」
「体力と筋力がついたからですよ。でなければ、剣に弄ばれてしまいますからね」
レイがまず体力作りが先決と言った意味を私は今、身をもって理解していた。
とりあえずレイには剣の握り方から教えて貰った。
新しい経験というものは、案外と楽しいものだ。
私は時間も忘れて剣を振ることに没頭した。
一度目の人生は間違いだらけだった。
せっかく神様に貰ったやり直しのチャンス。とにかく前の人生をなぞらえないようにすることが今の私の最優先事項だ。
「剣なんか……女のくせに野蛮ね」
汗を拭いながら屋敷へ入った私にジェーンが声をかける。
「需要と供給だと思いますけど」
言い返した私にジェーンは明らかにムッとした。
「婚約解消された人間って哀れよね。嫁ぎ先もないなんて。あぁ、そうだ。明後日の誕生日パーティー、あなた欠席でいいわよ? ロバートも来るんだもん。顔合わせ難いでしょう?」
ニヤニヤと笑うジェーンには悪意しかない。
「いいえ。お父様からは出席するように言いつけられていますので」
自分が私も出席させるように父にお願いしているくせに白々しい。
「そう? ならば仕方ないわね……ごめんなさいね、惨めな思いをするだけだろうけど我慢して?」
首を可愛らしく傾げるジェーン。顔の可愛らしさとは裏腹に、言葉には毒しかない。
「惨めだなんて思ったことはありませんよ。お気になさらずに」
そう言って、私がジェーンの横を通り過ぎようとした瞬間、ジェーンからガッと腕をつかまれた。
「いつまで強がれるのかしらね。……これからもあなたには何一つ手に入れられるものなんてないのよ。お父様の愛もロバートの隣も」
ジェーンは私の耳元に口を寄せて、低い声でそう囁いた。私はゆっくりと彼女の方へと顔を向ける。
「貴女が何故そんなに私と張り合おうとしているのか分からないけど……私にとってはどうでもいいわ」
心の底からジェーンのことはどうでもいいが、私の長生きのチャンスを潰そうとするのなら、彼女は私にとって邪魔者でしかない。
私は彼女の手を振りほどく。そしてそのまま歩き始めた。
「私にそんな口をきいたことを、絶対後悔させてやるから!」
ジェーンの捨て台詞など、私の耳には届かない。私はまっすぐに自分の部屋へと向かって行った。




