魔族の王 2
「団長殿は、おられますか?」
領事館での服を纏い、門番に教えてもらった兵士の詰め所へと出向いていた。
「おられるが、そちらは?」
詰め所の入口で立ち番をしていた兵士。
「私はエルフ族族長テリオール殿の代理として罷り越した。ハイデル王国子爵のフリーデリケ・フォン・トリーアと申す」
「ご丁寧にありがとうございます。こちらで、しばしお待ちください」
そう言った兵士は、私を詰め所の中へと案内し、簡素ではあるが来客の待ち合い用の部屋に通した。
部屋の椅子に腰掛け、ぼおっと部屋の中を眺めていると、慌ただしく駆けてくる足音が聞こえてきた。
バンっ。
木の扉が開かれ、ふくよかな男が姿を現した。
「エルフの遣いとは、そなたか?」
椅子から立ち、一礼。
「エルフの代理。フリーデリケ・トリーアだ」
「名乗りもせずに失礼した。団長のヴァイダと申す。ここで話しもありませんな。付いてきてくだされ」
「分かりました」
ヴァイダの案内で、団長の執務室なのだろう部屋に通される。
創設セットのソファを勧められ、そこに腰を下ろした。
「早速で申し訳ないが、用件はエルフの郷の襲撃の件で間違いないか?」
「ヴリード殿から?」
「それもあるのだが、他の郷近くでも予兆があってな」
「予兆というと……。」
「近くの村や街の住人のなかで、急にエルフを嫌悪するような発言が広がっていると報告が上がってきていてな」
「なるほど」
アルベドの構成員が、同時多発的に、エルフへの感情を誘導しているようだ。
これは、早く手を打たなければ、国家間の問題となもなり得る状況、
「てきれば、魔族領の領主様を交えて話しがしたいが……早急に」
「何かあるのだな……分かった。馬は乗れるな?」
「もちろん」
「すぐにたとう。時間が惜しい」
「早くて助かる」
ヴァイダと共に馬を走らせ、王宮とも言える城へと急ぐ。
借りた馬は素直で頭も良く、このまま遠乗りでも行きたくなってしまう。
しかし、そうも言ってられず、城門前で速度を落とすがヴァイダに続いて、それをくぐった。
馬を降り、ヴァイダが駆け出す。
その見た目からは想像できないほどの速さで、城内を走る。
城内にいる人たちに、驚きの眼差しを向けられていた。
「王よ」
バンとドアを勢い良く開け、なかにいるであろう人物を呼んだ。
「なんだ。ヴァイダか……驚かせるな」
執務机についていた人物。
頭の脇から二本の角を伸ばし、黒の長い髪に色白の肌。
涼やかな目元も麗しい。
また、細身に見える体つきだが、居住まいを見るに、しっかりと鍛え抜かれた肉体ぎ、服の下に隠されているのだろう。
「陛下。大変ですぞ」
「ヴァイダ。まずは、後ろの御婦人を紹介してくれ」
「失礼しました。こちら、ハイデル王国のフリーデリケ・トリーア殿でございます」
ヴァイダの紹介に一礼して応える。
「ハイデル王国。また、どうしていらしたのだ?」
「突然の拝謁ではございましたが、火急の知らせがございまして、ヴァイダ殿に願い、こうして罷り越しました。まずは、こちらを」
手荷物から、テオドールから預かった書状を出し、魔族領の領主に渡す。
封蝋を解き、中の文章に目を通す。
文面は私が書いたものなので、内容は分かる。
先日の襲撃において、魔族領への不満を綴ったもので、今後の付き合いも考えなければならないと締めている。
「ふむ。これは確かに不味いな」
「しかし、エルフの郷はそこだけではございません」
「確かにそうだな」
「エルフの郷近くの街や村の住人の中に、突然、エルフ族を嫌悪するような発言をする者が増えていると、各地の兵士から報告もえります」
「手は打ってあるな」
「はい。街や村の出入りに、郷近くの森周辺の見回りを強化しております」
「今できることは、そのくらいだな」
「もう一つございます」
二人の会話に割って入る。
「それが火急の用件と言うやつだな」
「はい」
◆
私がカメリアで受けた襲撃を端に発し、エルフの郷の襲撃、その他の場所でも同じようなことが起ころうとしていると話し、その原因となるのがアルベドと言う、情報操作に長けた組織によるものであると伝えた。
「また、面倒そうな……搦め手は苦手だよ」
「エルフを嫌悪し始めた者には、解呪の魔法が効く事が分かっている」
「それは助かるな。ヴァイダ。直ぐに伝えよ」
「はいっ!」
飛び上がるように踵を返し、ヴァイダは執務室を飛び出していった。
「全く……。しかし、あなたも不運だったな」
「そうでもないさ。この土地に足を踏み入れる機会など、そうそうないからな。見識が広がったよ」
さすがに口調が戻る。
こちらに来てから、ずっと丁寧に話していたが、そろそろ限界であった。
「人族が来ることなど、ほとんどないからな」
陛下の方も、さして気にしてはいないようだ。
「そうだ、伝え忘れるところだった。アルベドの狙いだが、こちらの領内に眠る、魔石や魔鉱石の独占なのではないかとの予測もある」
「なるほどな……人族の土地では採れないと聞く、それは大いにあるか」
「どちらにしても搦め手だ、カメリアやハイデルと関係が悪化したあとに、何らかの取引を持ち出されるのだろう」
「武力でカタがついた方が、シンプルで楽なんだがなぁ」
そう言って、伸びをした。
「ハイデルにいた、封印の聖女も帰ったよ」
結城結奏の帰還を話した。
「だからといって、魔神を起こすなんて、バカがすることだ……あんなもの、二度とは見たくはない」
心の底から嫌がっているようだ。
「陛下は四百年前の?」
もしかしたらと思って聞いてみる。
「そうか、紹介が遅れたな。私は竜族、皇龍と呼ばれる古の生き物なのだよ。皆は、ゼノと呼ぶ」
「ゼノ陛下で、よろしいか?」
「ゼノでよい。人族に倣ってはいるが、ややこしくて適わん。して、フリーデリケよ」
「何か?」
「お前。妖精王女を連れているな」
「宿に待たせているが……なんで、分かった?」
「妖精の残り香とでも言うのだろうかね。そういうのが、お前から匂うんだよ」
ゼノに言われて、自分の匂いを嗅いでみる。
良く分からん。
「はっはっはっは。そうやったとして、人族には分からんよ」
「むっ」
「よし。久方ぶりに顔を見るか」
そう言って立ち上がったゼノ。
これは、宿に連れて行かないといけない感じだな。
「分かったよ。ここからなら、そこまで歩きはしないしな」
「ホテルエンプレスだろう。ヴリードが気に入っておるからな……そら」
ゼノが何かを言ったと思ったら、城の執務室に立っていたはずが、ホテルのロビーで直立している。
「ポータルの魔法?」
「便利よな。人族の作りし魔法だ……たよな?」
何故か疑問形。
「今の世では、使えるものはほとんどいない」
「寂しいものだな」
「陛下。何かございましたでしょうか?」
ロビーマネージャーのヴルムが、慌てた様子で駆け寄って来た。
それはそうだ。皇龍が先触れもなしにやってきたのだから、慌てもする。
「古い知人に会いに来たのだ。案内は不要だ、下がっておれ」
「畏まりました」
恭しく礼をして、ロビーカウンターへと下がっていく。
「では、陛下。こちらへどうぞ」
わざとらしく、バカ丁寧にご案内差し上げる。
「なんで、拗ねてるんだ?」
「ホテルロビー直行なんて、驚くだろうが」
エレベーターの操作をして、ゴンドラを待つ。
「お前……いや、まとめて話すか」
何やら言っていてが、気にしないことにする。




