魔族の王 3
特に会話もなく、エレベーターから、部屋まで案内し、部屋へと招き入れた。
「皆。お客様だ」
リビングスペースで、リラックスしていた面々が、私の声に振り返るのだが、表情か変わったのはヴェーダとエンヴィの二人。
『ゼノ〜』
エンヴィはゼノに飛び込んで行った。
ヴェーダは、立ち上がったと思えば、前に出て膝をつく。
「そのイイ男は、どちら様?」
二人の様子に戸惑いながらも、マリアンヌか聞いてくれた。
「魔族領の主。皇龍のゼノだ」
「はぉっ?!ちょっと、スッピンよアタシ」
「あわわわ」
途端に慌てふためくマリアンヌとダレン。
「よいよい。楽にしていてくれ、こちらが気疲れしてしまう」
ゼノの言葉にヴェーダが立ち上がった。
「皇龍様も、そう仰っている。気にせずゆっくりしていてくれ」
「嫌よ!こんなイイ男の前でスッピンなんて、ちょっと整えてくるわ」
マリアンヌが浴室の方へと、小走りに駆けていった。
「さっきから、トゲがないか?」
ゼノは顔にエンヴィを張り付かせ、むくれたフリをしている私に問いかける。
しょうがないな。
「はいはい。ゼノも好きに過ごしてくれよ。城じゃ、堅苦しかろ?」
ニヤリと笑ってみせる。
私の表情にホッとしたようだ。
「それに、旧友もいるんだ」
『そうよ!ゼノったら、全然会いに来てくれないんだから』
「お前も来なかったじゃないか」
リビングのソファに移動しなから、エンヴィと話している姿は、風格こそあるものの、気のいい青年といった風体だ。
着ている服が違えば、気づかない者も多いだろう。
「妖精王女にも会えたことだ。少し話しをしようか」
「執務室での続きか?」
「お前の問うた。四百年前の話しに、この地のことを少しな」
「なぁに。オモシロイ話しなのかしら?」
整ったマリアンヌが浴室から出てきて、会話に加わった。
「面白いかどうかは、保証できんな……。」
ゼノはそう言うと、少し前かがみになり話を始めた。
星屑メモリーズのなかでも、フレーバーとして読むことのできるおとぎ話しである、封印の聖女の話しだ。
四百年前。
人族に、ドワーフ、魔族のなかの一部の種族は、それなりに交わり、多少の衝突はあるものの、それなりのは平和のなかで暮らしていた。
エルフは当時から、排他的であったようだ。
その均衡が崩れたのは、大きな戦乱がきっかけとなり、人族対魔族という対立構造が確立したそうで、その頃には、ドワーフたちも完全中立となり、エルフたち同様に、自分たちの郷にこもるようになる。
しかし、数に頼る人族の猛攻には、魔族たちも抗うのが難しくなると、一部の魔族の中で、より強い存在に頼るべきだという意見が出始めたそうだ。
向こうの世界でもそうであるが、劣勢となり、それを覆せる威力を持っていれば使いたくなる。状況によっては、使わざるを得ないとの意見が出ることだろう。
使った結果を世界が知っているから、今では使うことはないのだが……。
それが、魔族のなかで起こってしまった。
劣勢か強まるにつれて、その意見も大きくなり、ついに呼び出してしまった。
「厄災の魔王……。」
ダレンがボソリと呟く。
「そうだ……。アレにはほとほと困らされたよ」
それまで、無関心であった竜族であったが、厄災の魔王には関係がない。
魔族だろうが、人族であろうが、関係なく焼き尽くし、そもすれば、竜族の暮らす地域にすら、その牙を剥いたのだ。
「竜族の力を持ってしても、抑え込むので精一杯だったよ」
「そんなにか……凄まじいな」
ゼノの言葉に、ゴクリとツバを飲んだ。
「そして、呼び出された封印の聖女。それを護衛する勇者の話しは、お前たちの方が知っているだろう」
「では、おとぎ話しではなく、現実にあったことだと……。」
ダレンがゼノに、そう問いかけた。
「如何にも。アレは、厄災の魔王を風化させないため、人族が工夫を凝らした話しだ」
「なるほどな。だから、四百年経った今でも、語られるのか……。」
向こうの世界でも、エンターテイメント性を加えて、語り継がれている物語があり、読み物としても楽しめるものだが、出来事を風化させない、そこから学びを得る。
「今のところ、アレを復活させようとしている動きは、この地に生きる者の中にはないよ」
「そうなると、人族の方も気を付けておかないとだな」
「封印の聖女が、いない今。起こされては厄介だが……帰還していたのだな」
「私が帰したよ」
「あちらの世界と……つなげたのか……。」
ゼノが私の言葉に唖然とする。
人族の身で、異世界とつなぐゲートを開くなんて、そう思ったのだろう。
「アーラス様の御子だからな。その力をお借りしたよ」
「そうか!お前が御子なのか!!」
「アレが復活したとしても、任せておけ」
「ふふふ。それは最悪の時だ……だが、その手があると分かっただけでも、少しは気が楽になるというものよな」
◆
後日。
改めてゼノへの謁見のため、城へと招待される。
錚々たる魔族の重鎮、実力者が並ぶ中で、私たちは攫われた子供を助け、送り届けたこと、エルフの郷の襲撃を返り討ちにしたことへの謝辞を、謹んで受け、その褒賞も受け取ることとなる。
「フリーデリケよ。こちらへ」
ゼノに呼ばれ、私は片膝立ちから立ち上がると、ゼノの座る玉座へと歩み寄る。
事前には何も聞かされていない。
玉座への階段手前で立ち止まったが、ゼノも立ち上がり、手招きをした。
段に足をかけると、周囲にどよめきが広がる。
ゆっくりと階段を上がりゼノの正面に立つと、私の手を取り、私を振り返らせた。
「アーラス神に連なる御子。フリーデリケだ」
どよめきの中に、歓声が混じり、次第に大きくなる。
そして、何故か私の名前を何度も呼ぶようになった。
その様子に、眼下のマリアンヌやダレンも、困惑し、様子を眺めるしかないといった状況だ。
ゼノが手を挙げると、謁見の間が静まり返る。
「そして、私はここに宣言する」
ゼノの言葉に、衆目が集まった。
何か、嫌な予感がしてやまない。
「フリーデリケ・トリーアを、我が妻と……。」
その先は言わせないっ!
「こんのっ!ロリコンがぁっ!!」
意表を突いたとはいえ、ゼノの鳩尾にキレイにめり込む我が拳。
竜族なら、大丈夫だよね?
膝から崩れ落ちる皇龍。
その家臣たちに捕らえられる私。
この先、どうなることやら……。




