エルフの郷 4
族長の邸に戻り、牢であったことをテリオールに伝えた。
エルフの郷の襲撃は、私たちがカメリアで受けたものとは、意味合いが違ってくる。
僅かではあるが、交流が残っていた魔族領との間に、溝を作りかねる事態だ。
そうなれば、魔族領は完全に国家、種族間の行き来がなくなり孤立することになるだろう。
「まぁ、そういうわけだが、事実確認のためにも、魔族領を治める者との話し合いは必要だと思うがね」
「うぅむ……。我々、エルフの民は、我々の生きるこの森に干渉されなければ、それで良いのだよ」
「とは言っても、エルフの郷はここだけではあるまい」
「ほかの郷も同じ見解であろう」
「エルフにはエルフのやり方があるのは分かる。だが、これがきっかけで、何が起こるかは想像もしたくない。せめて、全ての郷に、今回の出来事を知らせるくらいはできないか?」
「そのくらいなら、郷長の集まりで話せるな」
「魔族領の長との会合は、私を代理で遣わせば良い」
「そうしてもらえるなら、我らも拒否することもない。むしろ、お願いしたいくらいだ」
「良し、決まりだ。親書になるようなものは、私の方で書いておく。後で見せに来るから、納得いく内容なら、封書に入れて、蜜蝋で封印してくれればよい」
「分かった。そうさせてもらうよ」
テリオールとの会合を終え、宿代わりの戦士の宿舎に向かった。
宿舎には、ダレンたちが先に入っており、各々が割り当ての部屋で過ごしている。
私もエルフの戦士に案内され、部屋に入り鎧を外す。
「風呂が恋しいな……。」
鎧下から立ち上った汗の匂いに、思わず顔をしかめた。
「そうも言ってられんか」
荷物から紙とペンを取り出し、魔族領の長宛の親書をしたためる。
あくまでも、エルフの視点を考慮するものだが、少しくらいは、抗議の意味合いを込めておいても問題なかろう。
手紙を書き上げ、窓から外を見る。
カメリアやハイデルと違い、日が暮れれば郷は真っ暗だ。
時折、妖精でも飛んだのか、景色のなかに光の粒が鱗粉のように舞う様子が見れる。
「自然と共に生きる。そんな生き方も良いな」
一人、呟いた。
◆
テリオールからの親書も預かり、魔族領の首都と呼べる大きな街へと向かう。
エルフ領からは歩きで二週間ということを聞いたので、一度、ヴリードの街へと戻り、馬車を借りることにした。
「リケ。そろそろ代わろうか?」
御者台に座って、馬の尻を眺めている私に、ヴェーダが声をかけた。
「そんなに見てたら、馬のお尻に穴が開いちゃうわよ」
「そんなに見てたか?」
「御者台に座ってからずっと見てるじゃないの」
「尻の筋肉がムニュンムニュンと動くのが面白くてな」
「物好きね」
「おっ。小川があるな」
「少し、馬も休ませようか」
「そうだな」
馬車を街道の端に寄せ、荷車から馬を外してやり川につれて行く。
マリアンヌは言わずとも、周囲警戒のための散策を始め、ダレンとヴェーダは湯を沸かす準備。
エンヴィがその周囲をフラフラと飛び回る。
なんとも、長閑な旅路だ。
トラブルだらけで、全く予定通りに行っていない旅だったが、こんな感じで進みたい。
小川で水を飲んでいた馬が頭を上げ、私の身体にそれを擦って、私の気持ちに同意しているようだ。
「トラブルはこりごりだよな」
馬の首筋を掻いてやりながら、目の前に広がる景色を、ただ、眺めていた。




