魔族領 2
「警戒!左右は弓兵と思われる。そちらは私とマリアンヌで対処する」
「全体。停止」
ダレンが私の声で警戒パターンに移行するよう、声を上げた。
既に馬車左側の小麦畑に馬を走らせたマリアンヌ。
ならば、私は右か。
グリュックに踵を当て、一気に速度を上げる。
畑に潜伏していた弓兵との距離を詰める。
馬の突進にビビった相手が立ち上がり、狙いも定めず弓を引いた。
正面からだが、何の指示もなしにグリュックは矢を避けてみせる。
私も背中のハルバードを外し、両手でそれを持つと、タイミングよく振り抜いた。
ハルバードは相手の弓と腹を切り裂き、相手は馬の突進力も加わった一撃を受け、血しぶきを上げながら飛ばされていく。
だが、最後までは見ていられない。
グリュックの手綱を操作して、馬車正面の賊に迫る。
人影が視界に入ると、チャージ体制をとった。
弓が二人に、剣が三人。
馬の突進に気がついたようで、慌てたように獲物を構えるが、遅い。
グリュックの突進で、二人がハルバードの血祭りに上がった。
手綱を操作し、馬首を巡らせる。
残っているのは弓が一人に、剣が二人。
「お前らは何者だっ!」
大声を張り上げ、馬上から誰何してみる。
「お、俺たちは、雇われただけなんだ」
一人の男が剣を捨て、両手を上げた。
それを皮切りに、弓から矢を外し同じように手を挙げ、もう一人も剣を捨てた。
「誰に雇われた」
「そ、それは……。」
「言えないのか?」
「……はい」
男の受け答えに、賊であるのか疑問に思えてきた。
「もう一度聞く、お前達は何者だ?」
「俺たちは、この先のオリンズの街の冒険者です」
「冒険者?それが、馬車の隊列を襲うのか?」
「魔族を乗せた馬車が通るから、それをやらないと街が危ないって言われて」
「私たちはカメリアの国に代わって、この任に着いている。警察に聞いていないのか?」
「……。」
生き残った男たちは、互いに顔を見合わせていた。
「話しにならんな」
「ま、待ってください」
「何か?」
「お、俺たちはどうなっても構いません。ただ、街の人間にはどうか……。」
「何を言っているんだ?」
「あ、あんたら、街を焼いて回ってるって……。」
「国の指示でか?バカも休み休み言ってくれ」
「だって、アルベドの偉いさんが……むぅっ!?」
男の一人が、余計なことを喋りそうになった男の口を、手で塞いだが、私の耳には聞こえてしまった。
そう、アルベドと。
「アルベドか……面倒だな。お前達は街に戻れ」
それだけ言って馬車の方へと戻る。
やはり、アルベドは相当な大きさの組織で、ロバートはその一端だったのだ。
しかも、街の民意を操ることもする。
厄介この上ない。
ここから先、宿泊はおろか、補給もままならなくなりそうだ。
馬車の列に戻ると、男たちと話したことを伝えた。
マリアンヌも頭を抱えそうになる。
「ここは開け過ぎている。少し、隠れられそうな場所まで移動しよう」
街道を逸れて、左手の畑の奥に見える森を目指した。
「どうするの、リケちゃん」
「街道をそれるしかないが……恐らく、そちらも待ち伏せありだろうな」
「そう見るのが普通ね」
ポータルの魔法で移動できなくもないが、カメリアの入出国記録がつかなくなってしまう。
特に、今回は十四人の子供は、出国させたら戻らないのだから。
「厄介すぎる」
「……ねぇ」
少女が控えめな感じで、私に声をかけてきた。
「どうした?心配するな、必ず送り届けるから」
そう言って、美しい金色の髪を撫でてやる。
あれ?
この少女、耳が長いな。もしかして、エルフなのか!?
助けはしたが、大使業務に忙殺されて、子供たちとの時間が取れていなかった私は、一人ひとりの名前も種族も全員は把握していなかった。
「あのね。違うの。この森の奥にね。妖精の小道があるの」
「妖精の小道ってなぉに?」
マリアンヌが興味津々といった感じで、エルフの少女に聞いた。
妖精の小道。
ファンタジー作品にたまに出てくる、現世に開く妖精界の入口で、その道の先は現世の別の場所につながっているそうだが、妖精の道案内無しに通り抜けるには、魔女だったりと特殊な条件が必要だったはずだ。
「案内できるか?」
「うん。妖精が手伝ってくれるよ」
少女は満面の笑みで答えてくれた。
腹を括るか。
「よし。全員降車」
私の掛け声で、馬車から子供たちが降りてくる。
「どうしますか。大使」
「今日は、ここでの野営となる」
全員の表情が堅くなるのが分かった。
「この先、恐らくだが、敵の妨害工作を受けることが予想される。そこで、私たちは別の方法で目的地まで移動することになる」
「それは、さっきの子が言ってた」
マリアンヌが、そう聞き返してくる。
「賭けだが、妖精の小道を使う」
「それしかないわよね……街道を外れると言っても、待ち伏せはあるだろうし」
「だが、馬車移動の想定だったから、荷物がな」
最後まで馬車の予定であったため、徒歩移動の装備がほとんど無い。
「馬車の幌とかマントを使うしかないわね……歩くなら、リケは装備も考えないと」
そうなのだ。ハイデル王国の正式任務に当たるので、フルプレート装備なのだ。
ブーツと小手だけ着けて、後は鎧下で行くしかない。
「食料と水は最小限でいい。この先は、私、ダレン、マリアンヌ、ヴェーダの四人が付き添いになる」
「馬はどうしますか?」
「馬車と馬は帰す。荷物を降ろしたら出発してくれ。私たちが諦めたと見えるようにな」
馬車から必要な物資を降ろすと、他の武官に馬を預け帰らせた。
私の装備もブーツと小手とマントだけだ。
愛用のハルバードも馬車に乗せたので、武装はロングソードとダガー二本。
武官のダレンも私と同じ。
マリアンヌは自前の黒革装備なので、変更はない。
「さて、どうやって荷物を運ぶかだな」
「荷物を確認しましょう」
ダレンが、降ろした荷物を確認している。
「水袋は十分にありますね。食料も乾物だけになりますがいけるでしょう……バックパックがないのが痛いですね」
「馬からサイドバッグは降ろしたから、コレに詰め込むしかないな」
「寝具とテントはあきらめましょう」
「それが良いな」
干し肉とパン、乾燥させた果物をより分け、バッグに詰める。
後は必要なポーション類に、包帯などの医療品。
それに水。
寝袋も人数分あるが、流石に持ち運べない。
しかし、雨天用のコートがある。
これなら、着て歩けるので荷物にならないし、フードを被れば……なんとかなるだろう。
荷物は私、ダレン、マリアンヌの三人で受け持った。
妖精の小道がどこにあるかは、エルフの少女次第だが、無くとも三日で関門だ。
なんとか、しのぎきらなくてはな。




