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悪役に生まれたのなら、徹底的に悪の道を貫いてやる!  作者: 鈴木ハルカ


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8/40

優しさは枯渇する

 人間。誰かに尽くそうと生きていくと、ふとした瞬間に、自身の存在意義を見失うことがある。

 

 それは、往々にして、尽くす相手が成り果てた時。


 冷静さを取り戻すと、今度はそれまでの時間やお金を無駄にしたことに対し、絶望といえるほどの後悔が生まれ、自身のアイデンティティと、生活が崩れ去って行き、生きることを雑にしてしまう。

 もう、そうなれば誰かに優しくしようなんて、思わなくなる。

 そう、自分にさえも。


 だって、そうだろ?

 心の中の優しさが、枯渇しちゃったんだからさ。


 「や、やめろ…な。そんなの降ろせって」


 腰を抜かし尻をついて後ずさる男。

 その前に立つのは、片手に包丁を持った女。

 女の目は冷たく、何の感情も映していない。

 

 「も、もう一度、チャンスをくれ!なっ…なっ?」


 命乞いを続ける男。


 チャンスなんて腐るほどあったじゃないか…。


 「あげるわよ。上手く行けば、大好きな異世界転生できるかもね」


 包丁を逆手に持ち替え、男の腹を目掛けて突き刺した。

 逃げられないように、足の上に座り込み、腹を手で庇えば胸や、庇うその腕に包丁を下ろす。


 気がつけば男は動かない、床は男を真ん中にして黒ずんだ赤い液体が広がっている。


 「はぁ〜っ!終わった」


 立ち上がって伸びをする。

 だけど、胸に空いた隙間は埋まっていない。


 「さてと、仕上げていきますかね」


 予め明け放っておいた窓からベランダへ出る。

 有名な夜景ではないけれど、少しだけ綺麗に見えた。


 ここはマンションの九階。

 上手く行けば、私も異世界に旅立てるのかな?


 ◆


 なんで、忘れていたのだろう。

 私の最期は過労なんかじゃなかったんだ。


 「いけないね。封印が緩んでしまったかな?」


 優しい男性の声音。

 暖かく大きな手が私の目元に当てられる。


 「もう少し、この記憶は眠らせておくよ。大丈夫」


 声が遠くなっていく。

  

 ◆


 「んぁっ!」


 衝撃的な夢を見ていたような気がする。

 寝間着のパジャマが、汗でぐっしょりと濡れていて、気持ちが悪い。


 ここは、自室のベッドの上。

 私はフリーデリケ・アスカニア。

 アスカニア侯爵家の息女である。


 「大丈夫……か」


 ベッドを抜け出して、汗に濡れたパジャマと下着を脱ぎ捨てる。

 湯で濡らしたタオルで身体を拭きたいが、外はまだ暗いこんな時間に、ハンネを起こしたくはない。


 衣装クローゼットの中の引き出しから、新しい下着をつけ、こちらも洗ってしまってあったパジャマをその上から着る。

 

 これだけでも違うな。


 再び、ベッドに潜り込み目を閉じた。

 夜が明ければ、また、優しさの大安売りだ。


 ◆


  治療院を始めて、一年が経っていた。


 星メモの世界には病気を治す魔法がない。

 なので、病気に関しては各種薬草だよりなのが現実だが、診断できる知識もない。

 せめて、鑑定スキルが医学にも使えればと、そう思えたシーンを何度も見、知人の命を看取ったこともある。


 ケガについては、腕がなかろうが直してみせるので、相当の評判だ。


 「あぁ〜っ!今ので最後だな」


 椅子の上で伸びをする。

 

 「おつかれさん。今日はもう来てないね」


 治療院の制服を着たガラハウが、お茶を淹れて持ってきていた。

 それを、私の机の上に置く。


 「ありがたい」


 「もう、一年なんだよね」


 お盆を胸に抱き、窓の外を見ているガラハウ。

 視線の先には木剣を振っているエギーユだ。


 うぉ〜っ!あまずっぺぇ〜。

 恋ですか?恋ですよね!


 「筋は良いって、オットーが言ってたな」


 「ふえっ?!な、なんだよいきなり」


 年増な雰囲気を出してはいるが、こういったところは乙女なんだなと思う。

 

 「ん?エギーユの剣の腕だが?」


 「はぁ〜…そうだった、そういうヤツだったね。アンタは」

 

 今日の治療記録を、お茶を片手に読み返す。

 ここへ足を運ぶのは怪我よりも病気が多い。

 セキ、くしゃみ、発疹、腹痛、頭痛と愁訴は多種多様。


 医療の知識なんて、三十路時代に見ていた医療ドラマからの知識しかないうえに、レントゲンもMRIやCTもない。


 なのて、古から口伝のみで伝わる、民間薬草学(?)をノートにまとめているのだが、兎に角、体系化が雑で同じ症状に、別の薬草を使うこともザラだ。

 症状が同じでも、根本が違うことがあるのは分かっているのだが、その見極めについては曖昧でみな違うようだ。


 正直。十一歳の私がやることではない。


 しかし、これが『星屑の御子』の制約だ。

 無償の愛を大盤振る舞いする。


 「なんだい?ちょっと顔が赤いね」


 「そん…な。」


 自身の額に手を当てると、熱い。


 「ガラハウ。マスクを着けて、私から離れるんだ」


 「熱があるのかい?」


 ガラハウの問いに頷く。


 「分かった。ラトーラにも言っておくよ」


 ラトーラならば薬草の手配もしてくれるだろう。

 さて、屋敷へはどうやって帰ろうか?


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