探索団 その4
階段を登りきったところで、チリショーテの人間に見つかった。
「お前っ!どこから」
修羅場に慣れているのか、すぐにダガーを引き抜く男。
その男の声で部屋のドアが開かれ、外を覗く顔がいくつか見えた。
その中に案内してくれた男の顔も見つけ、目的地も把握するが、そこまでに障害がいくつもある。
まずは一つ目。
ダガーは引き抜いてはいるが、立ち尽くしている男。
自身に掛けている魔法の効果はまだ切れていない。
素早く相手の左脇へと回り込み、脇腹めがけて衝撃波を叩き込む。
この魔法。
本当に非殺傷なんだよな……。
打ち込んだ男は確認できない。
なにせ、前方に残敵複数を確認しているからだ。
各部屋のドアから出てきた男が四人。広くはない廊下に並んで立っているが、ダガーやショートソードを持つ手が見える。
一撃確殺で行くしかない。
トーマスやゲオルグとの修練の日々で培った、大きな男と戦う術を全て出す。
先頭の男がこちらに向かって来る。
身体も大きく、膂力もありそうだ。
片手で持つショートソードを、何のためらいもなく振り被るが、隙は大きい。
相手も一撃で仕留めようと、しているのだろう。
強く振り出すには、大きく振り被る。
そうなると、半身を捻る事になり、ウィークサイドがガラ空きとなってしまう。
背後に駆け抜け、持っていた錫杖の先を首と頭の境に突き込んだ。
尖った装飾が頭蓋の内側へと飲み込まれると、男の身体がダラリと力なく崩れ落ちる。
男の背を蹴り、引き抜いた錫杖の石突きを身体の捻りと共に突き出すと、それを避けようとバックステップした直後の男と目が合う。
錫杖を諦め手を離す。
ここで振り回すには長すぎる。
捻って踏み込んだ左足で床を蹴り、バックステップして宙を後ろに下がっていく男を追うように、低く強く跳んだ。
手には、腰から抜いたダガーを握る。
相手より先に着地し、男の着地と同時に足を払い転ばせた。
人間。転ぶと受け身を取るもので、前方の防御を忘れて、中心線がガラ空きになる。
その胸にダガーを埋めた。
後二人。
そう思った刹那。
トーマスが部屋から現れて、無警戒だった二人を背後から無力化している。
その動きは、今の私には全く見えず、まるで、一陣の風が吹き抜けたようだった。
「大丈夫か?」
「うん。何人か殺したな」
「悪ぃな。少し手間取った」
「目標は見つけたから、案ずるな」
オットーとトーマスが案内された部屋に入ると、案内をしてくれた男の他に三名の見知らぬ男が倒れていた。
その男らをオットーが縛り上げている。
逃走防止と言うわけだな。
「目標は見つけたが、残党を残すのも心許ないので、無力化するぞ」
「人使いが荒いこって」
トーマスは大きな溜息をついた。
「オットーも頼む」
「こりゃ、追加が欲しいぜ」
オットーは下に残って警戒と、一階を担当。
私とトーマスで上の階の残党探しと無力化を受け持った。
なかなか活きのいい抵抗もあったが、私とトーマスの敵ではない。
三階までの制圧を済ませ、トーマスへと寄せる。
「トーマス。エギーユたちと一緒に、大人の女もいたんだ」
「そりゃ、オレっちの出番だが……ほんとに大丈夫か?リケ」
しきりに私を心配するトーマス。
ケガもしていないし、多少、息は弾んでいるが疲れるほどの運動量でもない。
何なのだろう?
「大丈夫だ。それより、エギーユたちを迎えに行こう」
屋内の残党で生きているものは、オットーに縛り上げて転がして置くよう頼んだ。
地下への階段をトーマスと降りる。
そう言えば、階段下の奴を拘束していなかったことを思い出す。
「トーマス。階段下に一人いたんだ」
「分かった。気をつけておく」
階段下が見える位置まで来たが、倒れているはずの男が見えない。
慎重に階段から地下室に入ると、昏倒させた男は縛られ、床に転がされていた。
「お前がエギーユか?」
エギーユを見たことのないトーマスは、ロニの頭に手を置いていた。
「エギーユは俺だよ。おじさん」
「ぐぉ……」
胸を押さえて呻き声を上げるトーマス。
三十路の私もその経験があったので、気持ちは痛いほど分かってしまう。
トーマスの背中をボンボンと叩き、軽く慰める。
部屋を見渡すと、女性はまだ目覚めていないようだった。
衣服のせいで確認はできないが、顔などをみる限り痣や軽い出血の跡が見られる。
「ハイレンデス・リヒト(癒しの光)」
これで回復して目覚めてくれればとも思ったが、そうはならなかった。
「オレっちが運ぶぜ?」
「こんなところよりも、もっとマシな場所に移したほうがいいな」
女性はトーマスに任せてエギーユたちを見るが、こちらは放っておいても大丈夫そうだ。
「無茶をしたな。でも、よく生きていてくれたよ」
「うん」
バツが悪いのだろう。
エギーユは目を逸らして、小さく呟いたたけだった。
全員で地上階にあがる。
「そういえば、チリショーテの幹部らしいのは全員いたのか?」
「昼間に聞いた特徴のヤツラはいたな」
「そうか」
これで、ほぼ、組織は壊滅に至ったようだ。
トーマスたちが始めに通された部屋まで戻ると、オットーも部屋に戻って来ていた。
女性をソファに横たえ、肩を回す。
さて、今夜のメインだ。
縛り上げたマチューに癒しを与える。
「ハイレンデス・リヒト(癒しの光)」
「うっ……あ……。オットー、てめぇ」
傷が回復していくと混濁した意識も戻ってきたようで、昔なじみのオットーを睨みつけた。
「悪ぃな」
悪びれもせずに言うオットー。
「用事があるのは私だ」
「けっ……。こんなガキにやられたってのか」
「まぁ、そうだ」
「ヤキが回ったな」
オットーがかつての盟友を嘲笑う。
「でだ、この地はお前のものではない。それは、分かっているな」
「へっ。この街は俺のもんだぜ?」
不敵に笑うマチュー。
窮地でこの余裕とは。
考えられるとすれば、街の代官配下の警邏隊に引き渡されるとでも思っているのだろう。
「ふむ。代官、あやつも背信者か」
「だったらどうする?ひひひ」
「まとめて処断するだけだ」
「は?ガ、ガキにそんなことが……。」
「できる。私がアスカニアだからな」
「なぁっ!?」
オットーが驚きの声を上げる。
私の身分については、オットーに明かすのを忘れていたな。
「嘘だっ!そんなわけ」
私のことを、ただのガキだと思いこんでいたマチューの顔が、驚愕に歪む。
「それがホントなんだよね。諦めな、マチュー。お前はやりすぎたんだよ」
トーマスが呆れてはいるが、憐憫の溜息を大きく吐いた。
「先に逝っておれ」
腰から引き抜いたダガーを、無精髭の残る顎下から突き刺し、刃を捻じる。
マチューの目から光が失われた。
「おっ……。おい、リケ!」
トーマスが慌てて、私の手からダガーを引き離した。
「お前が手を汚すなんて……。」
「トーマス。これは私がやらなくてはならないんだ」
何故だかは知らないが、私の胸の内にある使命感のようなものが、そう突き動かしたのだ。
「お前みたいな子供がっ……。」
トーマスは私の前に膝をつき、私を抱きしめた。
泣いているのだろうか?
時折、嗚咽と震えが感じられた。
しかし、不思議なほどに、躊躇なく自分の手を汚せたことに驚いてもいる。
それに、頬を伝う冷たいもの。
私の意思とは関係なく、何かが、そう動かしたのだろうか?
◆
チリショーテ壊滅の噂は瞬く間に広がった。
あからさまに喜ぶ者、何かに追われているのかビクビクと背後を恐れている者、何も変わらずいつも通りの日常を過ごす者と様々だが、そんな噂も暫くすれば忘れ去られるのだろう。
新たな組織が立ち上がるからな。
「良し。これで完成じゃな」
親方が建物の入り口脇に一枚板の看板を取り付けて、こちらを振り返った。
「治療院ができたな!」
なんと、王都で執務中たったお父様も駆けつけて、治療院の完成に立ち会ってくださっている。
となれば、周囲は領民でいっぱいだ。
「お父様。これで、身分に関わらず、治療を受けることができますね」
「お前の第一歩か……。なんだか、一足飛びに大人となってしまったようで、寂しいぞ……。」
「わわっ」
お父様が私を抱き上げた。
普段はクールに努めていたようだけど、こんなにも子煩悩だったとはね。
「リケ。ここが新しい家なのか?」
エギーユが私たち親子の触れ合いに遠慮してか、おずおずと尋ねてきた。
「ん。フリーデリケ。この子たちは?」
エギーユの後ろにガラハウとアナベルが並んでいた。
「この治療院を手伝ってくれる子たちですよ。お父様」
「もう、そんなことまで……。」
「それと、私の代わりにこの治療院へ住み込んで、維持と管理を任せる者です」
エギーユたちの後ろに立つ女性。
チリショーテのアジトの地下で倒れていた人だ。
肩までの黒髪に黒い瞳。肌は白く、優しさと子供を守る強い意思を持つラトーラ。
「お初にお目にかかります。ラトーラと申します」
領主であるお父様への挨拶も上々だ。
◆
「うぅん……。」
ベッドに横たわる女性が目を覚ました。
「ここは?」
自身の状況を瞬時に理解したようだ。
何か特殊な職業にでも就いていたような、そんな経験があるのだろうか?
「カニアの街の宿だ。確か……焚火亭だったかな?」
「あなたが助けてくれたの?」
「私たちだな」
夜通し様子を見ていてくれたトーマスは、私の後ろで、椅子に座って寝こけている。
「どうだ、どこか痛むか?」
「いいえ。なんとも」
「そうか」
座る椅子もないので、ベッドに腰を掛ける。
「少し、話しを聞かせてくれ」
「あんなところに、なんでいたのかってことですか?」
「まずは名前じゃないかな?」
「あっ!?」
「私はフリーデリケ・アスカニア。アスカニア家の息女になる」
「このままでは……。」
「よいよい」
「では、失礼しまして……。私はラトーラと申します。あいつらに食い物にされたチャプラ家のものです」
チャプラ家。
少し前まで噂になっていた商家のことだ。
「なるほど。なんかしらの仕返しってところか」
「はい」
「色々と物騒なものもあったが、それは?」
「叔父が冒険者だったもので、物心つく頃には剣を振らされていました」
それで、隠し持てる武器などを持っていたってわけか。
だが、これからのことに丁度良い。
「ラトーラ。お前、私の治療院で、住み込みの護衛を頼まれてくれないか?」
「住み込みの?」
「頼みたい」
「分かりました。助けられたこの身です」
そう言って胸に手を当て、私を真っ直ぐに見つめていた。
◆
こうして必要な人員の手配を済ませていることが、そんなにも感動することなのだろうか?
「なんと……なんと……。」
目を潤ませ、感動を露わにしているお父様。
「旦那。子供の成長に感動してるところ悪いんじゃかの」
「おぉ。悪い」
お父様は私を降ろして、親方と修繕を手伝ってくれた人足たちの方へと向かっていった。
「エギーユ」
「リケはお嬢様だったのかよ」
会うときはいつも農家の少年に偽装していたから、ドレス姿で髪型もしっかりとセットしている私に驚いていた。
「あの小汚いのがねぇ……でも、こっちもいいね」
「ガラハウにも服を用意してある」
「新しいお家!」
アナベルは治療院に目を輝かせている。
早く入りたくて仕方ないのであろう。
「では、我らがアジトに入ろうじゃないか」
なんというか、悪の組織っぽさはまるでないが、この四人にトーマスやオットーの力も借りて、私の第一歩が始まったのだ。




