大問題 1
学院に復帰はしてみたものの。
私はクラスBになっていた。
学院生全員が招集された遠征で、未実施となった一回目の試験に続き、ニューイヤーフェスティバル前の試験も受けていないのだから仕方ない。
それに、試験が受けられなかった原因である、砦での懲罰労働は、あくまでも私自身によるやらかしが原因であるので、文句は言えないよな。
慣れないクラスで、一人頬杖をついていた。
窓の外は色付いた葉も落ち、枝がむき出しとなった木々が、寂しさもあいまって、冬の寒さを助長させている。
「はぁっ……つまらんな」
座学に関しては変わりはないが、やはり実技はロアやソル、トロスト先生との立ち会いのようなヒリつく感覚は得られなかった。
むしろ、気を遣いすぎて、気疲れする。
「貴族の面汚しがいるぜ?」
そんな声も聞こえたりするが、気にする必要はない。
王国の命ではなく、己の利につながる行動をしたわけだからな、どんな誹りも受けようというものだ。
「おい。何か言えっての」
鬱陶しい。
「無視すんなよ」
そう言われると、肩を小突かれた。
どんな奴かと顔を上げるが、全く見覚えがない。
「はぁっ……なんて言って欲しいんだ?」
溜息と共に、そう言ってみたが、何の考えもなく絡んで来たことが分かる。
しかも、一人でないところが、小物臭がして関わりたくない。
「お前っ!」
無視すると決め席を立つと、再び声が掛けられた。
顎を振り、教室の外へ出るよう促す。
付いてくるならば、修練場。
来ないならば、食堂へ行こうと思った。
男子生徒を押しのけ、教室を出る。
どうやら付いて来るようだ。
面倒くさい。
「ようっ!クラス落ちの姫」
軽い挨拶。
こんな口を聞くのは一人しかいない。
「ロアか、元気そうだな。一本手合わせしないか?」
「あぁ〜……ま、そういうことなら」
後ろに付いてきた人間を値踏みして、私の隣に並ぶ。
「そういうことだ。それでもやるってんなら、相手せにゃならんがね」
「面倒くさいことになってんな」
「自分が撒いた種だ。しょうがあるまい」
連れ立って修練場に来た。
何も言わずに獲物を手に取る。
今回はハルバードを選ぶ。ロアはショートソード二本。
「始めよう」
そう声をかけると、同時にロアが低く飛び込んでくる。
ハルバードを右に薙ぎ払う。
止まるかと思ったのだが、ロアは私の左、ウィークサイドに回り込んで更に距離を詰めてきた。
私も振り抜いた勢いを使い、身体を回転させながらハルバードの柄を両手で持つ。
距離を詰めるロアの頭を狙い、着地に合わせて袈裟懸けに切り下ろした。
「ちぃっ!馬鹿力がっ!!」
憎まれ口を叩き、ロアは距離を取る。
しかし、振り下ろしの勢いで、再び身体を回転させると、更にもう一回、ハルバードを振り下ろす。
回転斬りとでも言うのだろうか、距離を取ったロアへの追撃だ。
更に距離を取るかと思ったが、その軌道を見切り、私の右側に突っ込んできた。
「やるな」
振り下ろしたハルバードを引き寄せ、右手で立てる。
右側への斬撃に対する盾にするつもりだったが、私の左側へステップしてその剣を振った。
「残念」
軽い石突側で剣を払い、更に身体を回転させ、身体の流れたロアに打ち込んだ。
「だぁっ!……痛ってぇ」
脇腹に、綺麗に決まってしまった。
「すまん。今、癒やす」
脇腹を押さえて、座り込んだロアに癒しを与える。
「お前ら。どうせ、実技のリケを見て、やれそうだと思ってたんだろ」
ロアが、入口で何をするわけでもなく、私たちの打ち合いを見ていた生徒たちに言った。
「手加減されてるのも分かんねぇで、やりあったら、こんなもんじゃ済まないぜ」
「ど、ど、どうなるってんだよ」
「命が残ってりゃ、御の字ってところだろうな」
「私だって、加減はするぞ!」
「腕か、脚はなくなる覚悟はしとくんだな」
「癒しの魔法があるから、生きてさえいれば、何とかしてやれるのだがな」
「トラウマになるわっ!」
ロアの指摘を流して、立ち上がる。
「これで引いてくれると、私も助かるのだが……。」
「ちっ……覚えとけよ」
ありきたりな捨て台詞だったが、私の琴線に触れた。
立ち去ろうとした男子学院生に、一瞬で肉迫し、その襟首を掴んだ。
「覚えるのが面倒でね、今やってしまおう」
そのまま、修練場へと放り投げる。
「剣を取れ」
尻もちをついて、こちらを引きつった顔で見る男子学院生に言った。
そして、ゆったりとした足取りで、その者に近づいていく。
男子学院生は、私の一歩に合わせて後ずさるが、それが続けば、最後は壁に阻まれるのだ。
ごめん。
その一言で済む問題を、引き延ばすから大ごとになる。
「フリーデリケ。そこまでだ」
ほらね。
トロスト先生の制止の声。
「はい。終わり」
口の中で呟き、踵を返す。
壁のラックにハルバードを掛けると、トロスト先生の前に直立する。
「フリーデリケ。やりすぎだ」
「クラス落ちしてから、面倒に絡まれ続けてましてね」
「そりゃ、ご愁傷さま」
横からロアが茶々を入れる。
「もともと、学院で学ぶレベルじゃないんだよな。フリーデリケ……それに、ロア」
「オレもですか?!」
「少し、時間をくれ。悪いようにはせんから」
トロスト先生が頭を掻いた。
何か考えはあるようだが、それをどうしたら実現できるのかと、悩ましているのだろう。
「私は治療院もあるので、しばらく謹慎でも構わない」
「それは、謹慎にならんだろう?」
何を言っているのだと、トロスト先生に呆れた顔で見られてしまう。
「ほんと、そういうとこが抜けてるよな。リケはさ」
ロアにまで呆れられてしまったようだ。
こんなことなら、教会に治療師の派遣を依頼しないで、ブルクハルト司令と、砦にいればよかったよ。
そう思い、溜息をつく。
◆
なんとか学院の授業を最後までこなし、帰宅した。
「お嬢様」
珍しく、マッテオが出迎えてくれた。
「マッテオ。何かあったか?」
「旦那様が執務室でお待ちでございます」
「そうか」
内階段で自室に戻り、手荷物を置く。
なんとなく、用件は分かっているのだが、気乗りがしない。
「そうも言ってられんな」
渋々、足取りも重く、お父様の執務室に向かった。
コンコンコン。
「入れ」
返答を待ってドアを開けた。
正面の執務机にお父様の姿は無く、手前の応接セットに、ニコラウス王と向かい合って座っていた。
そう言えばエントランスに、見慣れない馬車があったなと思い出す。
「ご無沙汰しています。ニコラウス叔父様」
「よいよい。掛けてくれ」
席を勧められ、お父様の隣に腰を下ろした。
「此度は済まなかったな」
「砦の件ですね。あれは、王国騎士として陥落させたわけではございませんから」
「とは言えだ。陥落は別にしても、議会の裏切り者も挙げてくれたのだ」
「私の邪魔になりそうでしたので」
「そこでな。アダルガーとも話したのだが、お前、外交武官として西側のカメリアに赴任する気はないか?」
即答はできなかった。
何せ、王国での地盤が、ようやく固まってきたところなのに、この地盤を投げ出してカメリアに行く、そんな事はしたくはない。
カニアの街で、彼らを放り出したように、再び、王都でも彼らを放り出す?
しかも、前よりも大きくなった組織をだ。
「叔父様。少し時間をいただけませんか?」
「そうか……いや、ダメならダメで良いのだ」
少し残念そうなニコラウス王。
「ニコラウス。そう、焦るな。フリーデリケにだって都合がある。それに、何よりも、まだ学院生なのだ」
「そうであったな。否、少し焦りすぎたか」
「学院に未練はございませんが、街の仲間と色々とありますので……それが、落ち着くまでは」
「分かった。待っているよ」
「疲れているのだろう。下がってよいぞ」
「ありがとうございます」
お父様の言葉に甘えることにした。
連日の鬱陶しい絡まれ方で、精神的に疲れていたのだ。
明日もやられるなら、Bクラスを殲滅してしまいそうだよ。全く。




