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悪役に生まれたのなら、徹底的に悪の道を貫いてやる!  作者: 鈴木ハルカ


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開戦前夜 3

 その日から救護室は大盛況。


 「おい。二日酔いなら、修練場で走ってろ!次」


 「指を切ったの?痛かったでちゅねぇ……しゃぶってな。次」


 「この花は?私へのプレゼント?私へのプレゼントは、戦場から生きて帰ってくること!次」


 最前線で女が少なく、よしんばいたとしても同僚だ。

 違う立場で甘えられる女というものに、飢えているというか、枯渇しているのだろう。


 ロアやエギーユからは、ゴリラ姫だなんだと言われているが、ここでは花として扱われるらしい。

 私にできることは、夢を見せることはなく、ひたすら捌くことだけだ。


 「だぁ〜かぁ〜らぁ〜。部下の腕をへし折らんで下さい。ブルクハルト司令っ!ベッド空けて」


 三十路サラリーマンの時に見た、救急救命センター二十四時みたいな慌ただしさだ。

 ただ……なんでもない。尊敬すべき医師たちに、安寧をと祈るばかり。


 日も傾き始めて、患者も落ち着いた。

 治療師の机で不足品、それに、設備にも問題がある。


 「衛生関連がとにかく不足……誰か呼ぶか?とは言え、女はダメだなぁ」


 救護室も広く、重症者のベッドも六床。

 薬品も消耗品も足りない。

 全てを私の魔法で治すには、魔力ポーションが足りないし、使うまでもない軽症も多くでる。


 「男でそういったことが任せられるヤツら」

 

 背もたれに上体を預け、天井を仰いだ。


 「それに、自分の身も守れるヤツ……ジーンに相談してみるか」 


 ポータルの魔法は便利で、王都の口入屋から一人の人員を借り受けた。


 「おう。白狼、久しぶりだな」


 「ジーンも元気そうで良かった」


 「それで?」


 「何人か欲しいんだ。掃除が好きで、男の世話が好き。それでいて、己の身くらいは守れるヤツ」


 「いるぜ!傭兵上がりだが、荒くれもんじゃない」


 「何人だ」


 「一人だが、十分だと思うぜ?」


 「分かった。すぐに行けるやつか?」


 「あぁ。マリアンヌ。マリアンヌ。来てくれ」


 部屋の外に声をかけた。


 「なにかあった?ジーン」


 美しいブロンドのストレートの髪を長く伸ばし、顔は美しく、程よく化粧もしているようだ。

 背は高い方ではあるが、線は細い……私より細いだろう。


 しかし、声は男だ。


 「マリアンヌ。しばらく、こちらの白狼について仕事してみないか?」


 「内容によるかも」


 「仕事は、守備砦の救護室で、私の助手をして欲しい」


 「もしかして、騎士団の?」


 「あぁ、ぴっちぴちから、ナイスミドルまで」


 「いきましょ。さぁ、すぐにでも!」


 マリアンヌは私の腕を取って急かす。


 そんなやり取りを王都でこなし、治療院のラトーラから薬品と消耗品を受け取り、マリアンヌと合流する。

 そして、ポータルを使い砦へと戻った。


 ポータルの魔法を、私自身がちょっとした用事に使ってしまっている。

 反省。


 翌日からは、マリアンヌの活躍はすさまじく、救護室の衛生面が完璧になった。床の泥汚れはなくなり、ベッドのシーツもキレイなもの交換され、汚れたものは洗濯されている。

 薬品棚も整理され、薬品や消耗品も見やすくなっていた。

 だが、一番は無用な者たちの来訪が減ったことだな。


 「若い子たち、来なくなっちゃったわね」


 「マリアンヌは、傭兵だったんだろ?修練場で手合わせしてきたらいい」


 「あら。良いの?リケ先生」


 「つきっきりで面倒見なきゃならんヤツもなし。好きにしていいよ」


 「じゃ、お言葉に甘えて」


 修練場は、その日から若手騎士たちの地獄となった。

 マリアンヌが、あれほどの腕だったとはね。


 ブルクハルト司令やトロスト団長も舌を巻いていたが、マリアンヌがいる間は、修練場に近づかなくなっていた。


 私の救護室も、処置が必要な者しか来なくはなったが、数は増えるばかり。


 「墓穴を己で掘ってしまったな……次」


 ◆


 本隊到着まで、あと五日。

 その日の夕方。私を含めた十二人が、砦の詰め所に呼び出されていた。

 なぜか、マリアンヌの姿もある。


 「集まってもらったのは、これから遂行される作戦の説明を聞いてもらうためだ」


 トロスト団長が説明を始める。


 「夜間襲撃だが、今回はハラスメント行動ではない」


 壁に貼ってあった平原の地図へ向く。

 

 「我々は日暮れと同時に、平原北側の林を抜け……。」


 地図上を指でなぞり、西側諸国連盟の砦をバンと叩く。


 「砦を落とす」


 「幸い。西側諸国側も本隊は到着していないが、明らかな開戦日か分かっているので、砦の中も緩んでいるようだ」


 ブルクハルト司令が、続く言葉を引き取った。


 「質問は?」


 トロスト団長が全員を見渡す。

 

 「砦への侵入は?」


 ベテラン騎士が当然の疑問を口にする。

 

 「そこは、フリーデリケのポータルを使う」


 「ここから、直接は無理なんですか?」


 トロスト団長の言葉に、更なる質問を出した。

 

 「行ったことがないんでね」


 それには、私が答えた。

 

 「なるほど」


 ベテラン騎士は納得してくれたようだ。

 アーラス様のサポートがあれば、行ったことがなくてもゲートは開けるが、その力は戦争に使っていいものではない。

 

 「良し。集合は二時間後だ。解散」


 トロスト団長の号令で、詰め所にいた騎士たちが席を立って詰め所を後にした。

 私とマリアンヌは救護室に戻り、装備を整える。


 今夜の夜間襲撃については、事前にトロスト団長から相談があった。

 砦に入ってから、西側砦をずっと観察していたそうだ。

 こちらに動きがないことと、第二騎士団で人員が増員していることを知られていないこともあり、警備は緩みきっている。

 この数日で、その緩慢さが顕著になってきて、今日の出撃につながった。

 

 私の目的は裏切り者の特定だ。

 できれば、トロスト団長には知られたくない。

 マリアンヌには話しをして、協力してくれるとの言葉を取り付けていた。


 「だって、刺激的じゃない?それに、しー……屋内戦なら、数より質よね」


 だそうだ。

 

 鎧の上から濃紺のマントを羽織り、腰にダガーを四本。

 

 「あら?リケ先生。騎士団の鎧じゃないのね」


 目ざとい。

 私は普段遣いの革鎧だ。


 「だいぶ舐めたマネをされたんでな」

 

 そして、オオカミの仮面を着けた。


 「白狼ね」


 「マリアンヌも……二人で素敵な夜にしようじゃないか」


 「最高の夜。てしょ?白狼様」


 黒のタイトなレザーメイル。

 剣もロアのような双剣だが、ロアのものより少し長めに作られているショートソード二本。

 顔には黒のマスカレード。


 「参ろうか。漆黒の姫君」


 右手を差し出すと、マリアンヌは左手を乗せて、私のエスコートに身を委ねた。


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