表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役に生まれたのなら、徹底的に悪の道を貫いてやる!  作者: 鈴木ハルカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
72/103

開戦前夜 1


 八月。

 第に騎士団に合流し、トロスト団長や先任の諸先輩方、先に合流していた学院生達との連動訓練に参加する。


 装備は支給されるプレートメイル。

 兜もフルフェイス型のもので、視界が悪い。


 騎乗してのチャージや、馬上での武器の使い方等を軽く手ほどきを受けるが、カニアにいる頃に教練は済ませていたので、忘れていないかの確認程度だ。

 ソルはやはり器用なもので、馬の扱いは、私よりも上手にこなしていたし、馬上での剣の振りも目を見張るものがある。


 「良し。今日はこのくらいにしておこう。各自、馬を厩舎につないだら解散だ」


 副団長の号令で、馬を厩舎に戻す。


 私の乗る芦毛の馬は、負けず嫌いな性格なのか、兎に角、隊列の先頭になりたがる。

 その気配を察知し素早く手綱を引くのだが、たまにフェイントだったりもして、こちらを少し馬鹿にしているのか、振り返ったりもした。


 厩舎の馬房につなぐと、水桶を鼻でつついてみせた。


 水をご所望のようだ。


 「グリュック。待っててくれ、すぐに持ってくる」


 水桶を外し井戸に向かう。

 従騎士のフィッツにやらせてもよいのだが、戦場を共にする馬だ、しばらくは自分の手で世話をしたい。


 厩舎近くの井戸で水を汲み、グリュックのもとへと戻る。

 馬房に水桶をセットすると、すぐに鼻先を突っ込み、吸い込むように飲んでいた。


 「なんだ、飲みたかったのか……良し、お代わりも持ってくるぞ」


 「リケも馬に話しかけるんだね」


 隣の馬房から、ソルの声がした。


 「聞かれていたか。ソルは何をしているんだ?」


 「足元を見てるんだよ。蹄鉄は落ちてないか、蹄は割れてないかとかかな」


 「もしかして、削蹄なんかもできたりするのか?」


 「そうだね。蹄鉄の付け替えもやってたから、できるよ」


 驚いた。

 ここまで、できるとは思っていなかったからだ。


 「良し。私も自分で見てみるかな」


 柵を潜って馬房に入ると、グリュックが私の後ろで束ねた髪を鼻先で弄んでいる。


 「ほんとにこの髪が好きなんだな」


 多少、尊大な態度ではあるが、兜を脱ぐと機嫌が良くなるのだ。

 もしかしたら、騎乗中は兜を脱げと言っているのかもしれないな。


 左の前足を軽く叩くと、上機嫌だからかすんなりと上げてくれる。

 蹄鉄は落ちてはいなかったが、すり減りと、蹄にゴミが溜まっていた。このままでは、蹄が割れたり、病気になったりしてしまうな。


 グリュックの四本の脚をチェックしたが、やはり、蹄鉄の打ち替えと、削蹄が必要そうだった。


 「うむ。どうしたものか」


 「どうしたの?」


 「グリュックの蹄鉄が、だいぶ減っていてな」


 「練習場は良いけど、外は怖いね……ブリッツは大丈夫だから、僕が見てあげようか?」


 「道具は私が取ってこよう」


 そう言って、柵の中から出ようとすると、グリュックに引っ張られる。

 こやつ。存外、小心者だな。


 「大丈夫だ。すぐ戻ってくるから、ソルと仲良くな」


 そう言って首筋を掻いてやる。

 不服そうに鼻を鳴らしたが、柵から出てソルと交代した。


 蹄の道具を取って戻ると、ソルが難しい顔をしてグリュックの隣に立っていた。


 「どうした?ケガでも見つかったか?」


 声をかけると、こちらを見て肩をすくめてみせる。

 

 「グリュックは、リケじゃないと嫌みたいなんだよね。全然、脚を上げてくれないよ」


 「グリュック、お前……はははっ。なんだ、ママじゃないとイヤなのか?」


 つい、笑ってしまう。


 「ボクが付いて教えるから、リケがやってみなよ。戦場に出るなら、自分でできないと困るんじゃない?」


 ソルの言うことも確かにそうだ。

 家の馬ならば、戦場でも馬番がやってくれるが、騎士団となると馬番もそう多くはいない。


 「いい機会だ。ソル。教えてくれないか?」


 「そうこなくっちゃね」


 ソルの指導の元で、グリュックの蹄鉄交換をやってみた。

 蹄鉄の釘を抜き、蹄から外す。

 そうしたら蹄の掃除をして、ついでに傷や病気を確認する。

 蹄の当たりを確認しながら、削蹄して整える。

 左右で高さに差が出ないようにしてあげないと、馬の走りに違和感が出たりするらしい。

 ここからが大変で、蹄鉄を馬の蹄に合わせて調整する。

 蹄に合わせては、どこが大きいのかを把握して、金床で叩いて蹄鉄の形を調整するのだ。

 調整が終わったら、釘打ちし、蹄の表側に飛び出たところを切って、ヤスリでならしたら交換は終わりだ。


 「初めてだと、時間がかかるな」


 馬房のランタンが灯されていた。

 外はすっかり日も暮れて、しまっているのだろう。


 「お疲れ様。なんか、グリュックも満足そうだよ」


 グリュックは、ソルにブラシをかけられながら、カチャカチャと脚を踏み鳴らして、新しい蹄鉄の感触を楽しんでいるようだった。


 「全く、私がいないときは、どうしていてのだ?」


 「よっぽど、馬があったんじゃない?馬だけに」


 「ふふふ。ソルも言うようになったな」


 「ご飯に行こうよ」


 「先に鎧を脱ぎたいな……あと、風呂」


 「確かに……男の方は、もう少ししてからだなぁ」


 一時的に騎士団の宿舎に身を寄せているので、風呂も食堂も共同だ。

 騎士団はその性質上男が多いので、風呂は時間をずらさないと大変らしい。


 「どちらにしても、鎧だけは脱がせてくれ」


 ◆


 騎士団に合流して三週間。

 騎士団宿舎に身を寄せていても、解読したポータルの魔法の練習をしていた。

 今では、ゲートの大きさに継続時間も伸びている。

 ゲートの通過実験も済んで、ゲートを開く先に関しても人間の近くの外であったとしても、記憶を元に開くことが可能であることも確認した。

 支給された鎧がガタついていたので、カニアの本邸でオルグに直してもらうついでに、ポータルを使ってみたのだ。


 「お嬢っ!今、どっから現れた?!」


 ポータルのゲートから現れた私を見たオルグは、顎が外れそうなほどに驚いていた。


 「ポータルの魔法を習得したんだ。それより……。」


 「ポータル?ポータルといったか?」


 「親方。何を興奮しておる」


 「お前!ポータルの魔法なぞ、数百年は前に失われた魔法じゃぞ」


 「確かに、暗黒の魔女も、そう言っていたな」


 「暗黒の魔女となっ!?……驚きすぎて疲れたわい」


 「親方。どこ行くんだ、鎧を見てほしい」


 「そうかそうか。そこに脱いで置いとけ。わしゃ、一杯やって寝るっ!」


 そんなやり取りがあったり。

 更には……。


 「アーラス様。ロアのところに行きたいのだが」


 「ロアって、いつも一緒にいる男の子かい?」


 「そうだ」


 「馬でいったら?」


 「ポータルの魔法の練習なんだ」


 「懐かしいね。まだ、そんな魔法が残ってたなんてね」


 「結城結奏を連れて来たときは、ポータルの魔法じゃないのか?」


 「あぁ、聖女召喚ね……あれも似たようなものか」


 「それで、ロアのところは?」


 「分かった分かった。ちょっと待って」


 そう言われると、私の頭にロアの姿が見えた。

 自領の修練場で剣を振るう、その姿が。


 ゲートを開きイメージの先にトンネルをつなぐ。


 「行けそうだな……アーラス様。ありがとう」


 「何。また、焼き菓子を供えておいてよ」


 「分かった。ハンネに頼んでおく」


 そう言って、開いたゲートに脚を進める。

 出た先は、ロアが無心で素振りをしている修練場。


 うん。私の記憶ではなくても、行き先のゲートが開ける事も分かった。


 「ふぅっ……こんなもんか」


 最後の一閃は、早さもあり、剣の軌道もキレイだった。


 「ふふっ。良い一振りだったな」


 「はぁっ?!リケ、どうやってここに?」


 疑問だらけの顔が面白い。


 「魔法の練習でね」


 「空でも翔んで来たってのか?」


 「空間を渡ってきたよ」


 「空間?なんじゃそりゃ?!……まぁ、来たなら茶の一杯でも飲んでいけよな」


 驚きと、照れ隠しがごちゃ混ぜだ。


 「お言葉に甘えよう」


 突然の訪問だったが、ロアのご両親も良くしてくれ、夕飯までご馳走になってしまった。

 まぁ、騎士団の演習をサボったので、トロスト団長には絞られたがね。


 そんな八月を経て、出征となる九月。


 グリュックに跨り、第二騎士団の隊列に並ぶ。

 トロスト団長付きということもあり、旗手の先任の直後にソルと轡を並べることになっている。


 「トロスト団長。本当にいいのですね」


 「総督に許可は取ってある。第二騎士団はお前の魔法で先行する」


 「分かりました」


 確かに、第二騎士団だけ、他の部隊から少し離れた場所に 集合していたのだが、それが理由だったとはね。


 ハイデル王陛下の演説に沸き上がる歓声。

 それに伴い、私たちの緊張感も増していく。


 総督からの出立の号令で、他の部隊が動き始めると、トロスト団長は振り返り私に合図する。


 イメージをしっかりと作り、力ある言葉を口にした。


 「トゥーア(ゲート)」


 トロスト団長の前にゲートが現れる。

 ゲートの先は、主戦場となる国境平野部の守備砦。


 「第二騎士団は、先行して砦に入る。臆せず続くように」


 「「はっ!」」


 トロスト団長の短すぎる説明だったが、団員一同疑問は挟まない。

 命令に従い、粛々と脚を進める。


 国境の守備砦には、ロアの案内で一度足を運んでいた。

 マクシミリアン兄様もここに詰めているので、入場も簡単で、砦の内部やその周辺をしっかりと見ることができ、ポータルの魔法での騎士団移動の準備はできていたのだ。


 ゲートをくぐり、出た先は、馬でも二週間はかかる国境砦の東門の前。

 第二騎士団の騎士たちも、その光景に驚きを隠せていない。

 先頭を行くトロスト団長でさえ、キツネに抓まれたような顔をしているのだ。それはしょうがないことであろう。


 最後の荷馬車がゲート抜け、後続がないことを確認して、それを閉じた。


 結構な魔力を消費して、馬上ではあったが少しふらついてしまう。

 グリュックがそれを感じたのか、傾いた方へ動いてくれ、落馬は免れたが、やはり、強い脱力感はどうしょうもない。


 グリュックの背を降り、手綱を引いてトロスト団長の元まで移動した。


 「フリーデリケ。スゴいなこれは」


 「これがあれば本隊到着前に、西側の砦も落とせますよ」


 「しかし、砦の内部は無理だろう?」


 「そう思いますか?」


 「できるのか?」


 「壁の向こう側くらいは、記憶になくても大丈夫です」


 これは、騎士団の宿舎の壁や、城壁を使ってやってみて、きちんと壁の向こう側にゲートが開くことは確認していた。


 「……ちょっと、やってみるか」


 「しかし、砦に入っている戦力が分からなければ、袋のネズミですよ?」


 「そこは、調査が必要だな……魔力切れか?」


 私の顔色を見て、トロスト団長が言った。

 その言葉に、私は僅かに頷く。


 「馬を厩舎に預けて、砦の救護室で休んでいろ……ソル!」


 手近にいたソルが、馬を器用に操り寄せてきた。


 「団長」


 「フリーデリケを、救護室まで連れて行ってやってくれ」


 「分かりました」


 「この戦争の要だ。頼んだぞ」


 「はい」


 そう言い残して、ほかの団員の方へと馬を進めていった。


 「グリュックはボクがあずけてくるから、少し座っててよ」


 「そうさせてもらうよ。グリュック。ソルの言う事を聞くんだぞ」


 頭のいい馬だ、私の不調が分かっているので、大人しく手綱を引くソルについていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ