開かれる戦端 5
地下牢に放り込んでいた賊は、教会と同様に毒物による自害だろう。
様子を見に行った騎士が、泡を吹いて事切れている二人を見つけた。
「私の失態だ。気にするな」
邸の中の騎士団詰め所で、若い騎士の一人からその報告を受けた。
今回は後手に回ってしまっている。
現状で分かっていることと言えば、西側諸国がハイデル王国に対して宣戦布告。
国内では戦時特別招集が可決され、学院生までもが動員されることになっている。
そして、その議案の可決には、西側諸国の影がチラついていると言うところまでだ。
開戦と学院生の動員が、どうにも結びつかない。
詰め所の粗末なテーブルに頬杖をつき、溜息をつく。
ただ、目的が何にしろ、議会を動かせるだけの力を持ったものが、西側諸国と通じていることは間違いがない。
司教と同様に、脅迫されたものいるのだろうが、議会の過半数を超える人間全ては無理がある。
元々、影響力を持っている者が怪しいだろう。
「うん。お父様だな……バカなっ!」
「ぷっ…ふふはぁっはっはっはっ……やめてくださいよ。お嬢様」
詰め所にいた騎士の一人が、私の独り言に吹き出したようだ。
「いやなに。色々と考えると、お父様に行き着いてしまったよ。そんなはずはないのにな」
「良くは分かりませんが、公爵様が魔王てあったとしても、俺たちは着いていきますよ」
「そうか……その時は、私に討たれてくれな」
「お嬢様はそっち側ですかっ!?」
「ふふふ。勇者パーティの紅一点」
「やだなぁ、斬り込み隊長の間違いぃぃ〜」
テーブルに乗せていた手の親指を、曲がらない方に押してあげる。
「はいっ……紅一点の美少女でございます」
「そうだよな。公爵家令嬢になんてことを言うのだ」
そう言えば、イジりには戯れで解決してきたが、これってスゴく悪役令嬢っぽくないか?
「さて、部屋に戻るよ。司教絡みで何かあったら、遠慮なく言ってくれ」
「は、はい」
詰め所を後にはするが、自室には戻らずにお父様の執務室へと足を運んだ。
コンコンコン。
「よいぞ」
考え事をしていたら、お父様からの返事があった。
「お父様」
「珍しいな」
「珍しい事が起こっていますからね」
「口調まで、それっぽい」
「えぇ……。司教が狙われておりました」
「防げたのだろ」
「そうではあるのですが……。」
「歯切れが悪いな」
「脅迫をしてまであの議案を通す狙いが、全く分からん」
「こういうときこそ、あいつを使えばよい。ヴィルヘイム」
そう言うと、机の上の呼び鈴を鳴らした。
しばらくすると、執務室と続き部屋になっている資料室から、ヴィルヘイム兄様が現れた。
「何だよ父さん。依頼の資料なら、もう少し待ってよ」
暇にさせないよう、お父様の資料作りマシーンとして、こき使っているようだ。
「ヴィルヘイム。こないだの戦時特別招集の議案だが、狙いがあるとしたら、何が考えられる」
「そうだなぁ……。一つは人質だな」
「目的は金か」
多くの貴族子女が参加する。
確かに、捕らえようと思えば、捕らえ放題かもしれない。
「それと、脅迫」
金銭目的か、政治目的かの違いはあれど、身柄は拘束することには変わらない。
不要になれば、他国に売ってしまえば良いものな。
「他には?」
「重要人物を消すことだろうな」
「暗殺の方が、被害が少なくていいじゃないか」
「ターゲットの近くに強いやつがいたら、暗殺の方がリスクは高いだろ?それに、戦争なら、配置やらなんやらで、ゴタゴタしてるうちにやればリスクも低いし、戦場に出てきてくれるなら儲けもんだろ?」
ヴィルヘイムの解説は、いちいち理にかなっているが、誰がターゲットなのかが、分からないと、対策も立てようがない。
「なぁ、忘れてないか?」
私の疑問が分かったのだろうか?
「何をだ?」
「召喚の聖女をさ」
確かに、結城結奏の存在は、ハイデル王国にとっては重要人物に違いないが、西側諸国にとってもそうであるのかは疑問だ。
「しかし、西側諸国にとって、結城結奏の存在が、それほどに重要視されることなのか?」
「ここからはあくまで憶測だ。実は魔族領には、良質な魔石や魔鉄鉱といった、希少鉱物の埋蔵量が多いと推測されている」
「資源の採掘権を、魔族と取引している?」
「オレの推測だ。あまり当てにはしないでくれよ」
「いや、調査の必要があるな」
お父様が、ヴィルヘイムの憶測に思うところがあったのだろう。
「私のは動かせないぞ」
白狼の関係者は荒事には慣れているが、そういった学術調査には向いていない。
精々、現地までの護衛が関の山だろう。
「王室の部隊を使うに決まってるわい」
「魔族との取引か……」
人間の欲というものは、業が深すぎる。
◆
七月も終わりに近づき、ポータルの魔法書の解読が終わりを迎える。
「やっと、解読できたね」
「解読するだけで、だいたい掴めたぞ」
「うそ!?私はダメね。読むので精一杯だったよ」
「試してみるか」
入口と出口のイメージを固める。
今回は右手の手のひらの上に入口を作り、出口を左手の手のひらの上に作ることにする。
そして、その二点間をトンネルでつなぐイメージを、しっかりと作る。
ここが曖昧になるとゲートはできるのだが、ゲートどうしがつながらずに、入口に入れたものが行方不明になってしまうそうだ。
トンネルのイメージを作る。
「トゥーア(ゲート)」
魔力のリングが両手の上に展開し、入口と出口ができた。
「ベンでも入れてみてくれ」
「う、うん。大丈夫かな?」
恐る恐るといった様子で、手に持ったペンの先をリングに入れる。
すると、もう片方のリングから、入れたペン先が出てきたではないか。
「本当に、できたのね」
「では、抜き取ってくれ」
「うん」
「ふうっ……結構な魔力消費だな」
「でも、できたね」
「もう少し練習が必要だが、これで、いつでも帰れるぞ」
「なんだか、夢みてるみたい……。」
「現実だ。約束は守れそうだな」
「ふふふ。ほんと、リケってスゴいわ」
「なにせ、公爵家令嬢だからな」
「何言ってんのよ。そんなの関係ないじゃない」
二人で笑い合う。
こんなことも、八月に入ればなかなかできなくなる。
必ず、生きて帰る。
そう、心に誓った。




