開かれる戦端 3
学院一回生の最終日。
「今日は全員、闘技場に向かえ。そこで学院長から、大事な話しがある」
いつになく、表情の硬いトロスト先生。
九月から始まる西側諸国との戦争のことだろう。
まだまだ、経験の浅い学院生を投入することに、憤りを感じていそうだ。
さて、裏で動いている者たちは、いったい誰なのだろう。
そいつらを炙り出し、殲滅するためにも、この戦争をとっとと終わらせる必要がある。
そのためにも、結城結奏との古典の課題を、進めなければな。
「リケ、ソル。オレは闘技場には行かない。ここで、お別れだ」
「どうしたの?」
「ロアは少し早く、自領に帰るみたいだな」
「なるほどね。ボクはまた、リケの治療院にお世話になるよ」
ソルは夏休みの帰郷だと思っているようだった。
「そうかそうか。ラトーラとも上手くいってるようで」
「オレもこっちに居残りたいぜ」
ロアがソルを羨ましそうに、そう言った。
心からそう思ってのことだろう。
「では、九月に」
「そうだね。九月に、また、会おう!」
「おう。またな」
それだけ言うと、ロアは学院を後にして行った。
九月に再開するときには、学友としてではなく、同じ戦線に連なる騎士としてになるだろう。
そんな思いを胸に、少し寂しそうに見えるロアの背中を見送った。
私はソルと一緒に闘技場へと向かう。
「学院長先生からの話って、なんだろうね」
その内容を知っている私は、曖昧に笑う。
「リケが、そういう風に笑うときって、なんか知ってるときなんだよなぁ」
付合いも一年になると、そういうところを見逃さなくなるものなのか?
「隠せないな。闘技場でも聞ける話だが、ここではちょっとな」
周りに他の学院生もいる。
ここで、戦争なんて言ったら、周囲はたちまちに混乱し、どうなるか分かったものではない。
「そういうことね。なら、聞かないでおくよ」
「そうしてくれると助かる」
「リケも大変だよね」
「公爵家令嬢だからな。ふふふ」
連れ立って来てみた闘技場には、卒業した三回生を除いた全員が集まっているようだった。
当然、魔法課程のエマと共に、結城結奏の姿もある。
闘技場がざわつき始めた。
学院長が先頭に立ち、その後ろに騎士課程、魔法課程の教官が続く。
闘技場の中央テラスまで来たところで、学院生に向き直る。
「学院長から大事な話しがある。静かに傾聴するように」
トロスト先生が、学院生に向かって簡単に説明をした。
騎士課程だけなら、『傾聴!』のひと言で済むところだが、魔法課程の生徒には通じないだろう。
「学院長。お願いします」
トロスト先生が、その場を学院長に譲りテラスの奥へと下がると、こざっぱりとしたスーツに身を包んだ、初老の紳士が前に出る。
「皆さん。これからお話しすることは、あなた方の人生における。大きな転換点となることでしょう」
学院長は言葉を選びながら、淡々と話しを進める。
「この度。ハイデル王国は、西側諸国連盟からの宣戦布告を受託しました」
ざわつく学院生たち。
ソルでさえも、目を見開き固まってしまっている。
「戦時特別招集が王国議会で可決され、この戦争に皆さんも招集されることになりました」
ゆっくりと落ち着いた話し方ではあるが、学院長の憤るその感情が滲み出ている。
よほど悔しかったのであろう。
それに、学院生側に動揺も広がっている。
ソルでさえ、堪らず、私のジャケットの袖を握っていた。
トロスト先生の傾聴の言葉がなければ、慌てふためいていたかもしれない。
「魔法課程の皆さんは、王国魔法師団の指揮下へと加わります。また、騎士課程の皆さんは、中央騎士団もしくは、自領の戦力として出征されることになりました」
事前にお父様から聞いていた通りだ。
私とソルは中央騎士団。
トロスト先生の第二騎士団ならば、やりやすそうだが、希望は通らないだろう。
「この後は、配属先の先任について、装備の支給、招集日や訓練日等について、説明を受けてください。皆にアーラス様の加護があらんことを」
学院長がそう締めくくると、闘技場の両脇から宮廷魔法師団と中央騎士団の者たちが現れ、課程ごとに集合するよう声が掛かる。
「ソル。行こう」
袖を掴んで離さないソルを促す。
「リケは怖くないの?」
「この戦争を、一瞬で終わらせる作戦があるからな」
「あは……さすが、ボクらのリケ隊長」
私の一言で、だいぶ緊張もほぐれたようだが、袖は離してはくれなかった。
私たちが騎士課程の集合地へと歩いていると、肩を叩かれる。
振り向けば、先ほどまでテラスにいたはずのトロスト先生が、そこに居た。
「お前たち二人は、オレの預かりになる」
「第二騎士団団長付きですか?」
「そうなるな。その方が動きも取りやすいだろ?」
「ロアもいれば、言う事なしだったが……仕方ない」
「さすがに、スベロア家からは引き抜けないぜ」
「そっかぁ……残念」
ソルが肩を落とす。
「トロスト団長。お願いがあります」
私は改まって、トロスト団長を見た。
「多少の融通は利かせてやれるぞ」
「開戦までに覚えたい魔法があります。魔法課程の結城結奏と解読中で、あと、二週間もすれば、使える見込みがあるのです」
「分かった。二週間だな」
「良いのか?」
「今更、お前たちに訓練なぞ必要ないだろ。だから、ソルとフリーデリケの二人は、八月に合流しろ」
「ありがとうございます!」
「せんせぇ〜。ありがとう」
ソルはなぜか鼻を垂らすほどに泣き崩れ、トロスト団長に抱きついていた。
「お前っ!鼻水、鼻水が付くだろっ!!」
抱きつかれる方は、たまったものではないな。




