開かれる戦端 2
帰り際、治療院に寄り、ヴーヘラーも傘下に抑えたことで、暇を持て余しているフィッツに、出征のことを伝え、ミアに会いに行けと言い伝えた。
街の方はトーマスにエギーユが、ブラブラとしつつ、顔つなぎと情報収集を続けている。
ヨンムはヴーヘラーの拠点をそのまま使い続けている。
人員もそのまま抱え込んでいるものだから、治療院には入り切らないのだ。
しかし、ヨンムは金を増やす達人とでも言うのだろうか、金貸し用の資金を少し用立てたのだが、一月後には全額返金となった。
「返さなくてもよかったのだぞ」
「借りを作りっぱなしってのは、性に合わないんでね」
そう言って、笑う。
単純に増やすのが好きなのだろう。
さて、用事も済んだので、治療院を後にする。
今夜は久々に、結城結奏と魔法の勉強会だな。
コンコンコン。
邸に帰り着くと、結城結奏の部屋を訪れた。
「どうぞ」
いつも通りの声が、部屋から聞こえてくる。
「やっと、手に入れたぞ」
本を掲げて部屋に入るが、結城結奏は首をかしげて見せた。
「ポータルの魔法書だ」
「あぁ〜っ!見つかったのね!!」
「そうた。これを再現できれば、帰れるぞ!」
「ほんとに……ほんとに、帰れるのね」
結城結奏の目から、涙が溢れ出す。
そうだ。結城結奏は帰るべきだ。
帰れる場所があるのだからな。
その夜は、二人で魔法書の解読と、理解のための意見交換と、遅くまでのめり込んだ。
◆
夏休み前でソワソワしている学生たち。
しかし、ロアだけは硬い表情をしていた。
「ロア。おはよう。なんだ?寝てなさそうな顔してるな」
いつもは、ロアから挨拶があるのだが、今日は心ここにあらずといった感じだ。
戦端が開かれる話しを聞いているのだろう。
何せ、ロアの家は、開戦時に最前線となるのだ。
国境砦の補強等で、その情報は早くから伝わっているはずで、それが伝えられてきたのだろう。
「あ、あぁ。おはよう……。」
「九月だな」
「やっは、聞いてたか」
「公爵家だからな」
「オレはここでお別れだ」
「スペロア家として戦うのだな」
「どかーんと、一発で終わらねぇもんかね」
「そんな、古代の大魔道士レベルじゃないか」
「なんだよ。ないのか」
「そんな魔法があったら、ちまちま戦争なぞせんだろ」
「それもそうか……はぁ〜ぁ」
ロアが盛大に溜息をつく。
実力者ではあるが、それだけで生き延びられるほど、戦場は甘くはない。
いつもの奇襲とは……いつもの奇襲にする魔法はあったなと、ふとポータルの魔法を思い出した。
◆
今夜も結城結奏と二人で、魔法書の解読を進める。
ずいぶんと読み進めているのだが、魔法というよりも古典の課題をやっている気分になる。
「はぁ〜……古典の授業みたい」
「古典?」
私と同じ事を考えていたようだ。
大きく息を吐きながら、伸びをして、凝り固まった身体をほぐす結城結奏。
「私の国のね。古い歌や話しを、現代の言い回しに直したりするの」
「確かに、その古典とやらに似てるな」
「尊大な表現ばっかりで、読み難いし、解り難いよね」
「よほど、作れたことに昂ぶったのだろう」
「あぁ〜……そういうことね。でも、気持ちと文章は分けてほしかったわ」
「そうだな」
「今夜はここまでにしましょ」
「流石に、字の書きすぎで、手が痛くなってきた」
「目がシパシパする」
「よし。今夜はここまでだ。また、明日」
「えぇ、また、明日。お休みなさい」
「おやすみ」
結城結奏の部屋を後にして、自分の寝室に戻ると、たまらずベッドに倒れ込んだ。
結城結奏の言う通り、古典の授業をずっとやってる感覚だ。
理系人間だった三十路サラリーマン人生では、こんなに古典に触れるとは思ってもいなかった。




