開かれる戦端 1
ヴーヘラーを傘下に抑えたことで、王都の裏は完全に支配できたと言っていいだろう。
日雇いから、貴族家への使用人の手配までをこなすジーンに、娼館三つを取り仕切るアヒム。
裏の金の流れを掌握するヨンム。
後は、宿や商会の一つでも抑えれば、私の息のかかっていない場所はなくなりそうだ。
教会は健全化が進み……戒律を破れば私のお仕置きがまっているからな……都合よく改編していた経典も捨てさせ、原典に則った教えに沿って、運営をするようになっていた。
金は必要なので、儲けるためではなく、稼ぎ、将来につなげるための事業を許可している。
学院に入って一年。
一つの区切りがついた。
学院の中にも変化があり、攻略対象だった五人のうちのエドガーは退学処分となっており、その他にも数名の子女が、家に活動参加がバレてか、自領に呼び戻されていた。
◆
季節は七月。
学院も夏休み前で、皆がソワソワと帰郷の準備をし始めている頃。
私はお父様に呼び出されていた。
「お父様。何か?」
「フリーデリケ。やっと来てくれたか」
白狼としての組織固めを、ヨンム指導の元で行っており、忙しさにかまけて、お父様の呼び出しをしばらく見送っていたのだ。
「お話しがあるそうで」
「あぁ、事前に知らせておこうと思ってな」
お父様は、改まって背筋を伸ばす。
何か重い決断があったのだろう。
「西側諸国との開戦が近い。それに合わせて、王国軍は再編され、学院の生徒も編入されることとなった」
「予備役ではなく?」
「そうだ。嫡男たちは自領へ帰り、その軍に入ることになるが、お前は王国騎士団に抱えられる事になる……前線行きだな」
「このタイミングでか……猶予は?」
「ふた月だ。九月には前線に騎士団が送られることになっている」
「分かりました」
さて、学院二年目は戦記ものとなるようだ。
こんなシナリオは星屑メモリーズには存在しない。
むしろ、西側諸国からの留学生イベント、そういったシナリオがあったと記憶しているのだがね。
◆
お父様の話しを聞き、色々と急がねばならなくなった。
私の組織を任せる人間の選定に、結城結奏の帰還。
特に、結城結奏をこの世界の戦乱に、巻き込むわけにはいかない。
私は暗黒の魔女を訪ねることにした。
「リケ先生……どうしたのよ、そんなに息を切らして」
ちょうど、店に出ていたミアが、驚きの声を上げた。
「ポータルの魔法は見つかったか?」
「見つかったわよ。ちょっと待ってて」
ミアはそう言って、店の奥へと行き、一冊の本を手にして戻ってきた。
カウンターに置かれたそれは、古く、ページを捲るだけで、崩れてしまいそうな状態である。
「大丈夫なのか?」
「こう見えて、保護の魔法が掛かってるから、多少、荒く扱っても大丈夫よ」
ページを恐る恐る開いてみる。
しかし、読み難い。古い王国語の綴りや言い回しを理解するだけでも時間が取られてしまう。
焦る気持ちもあり、内容が全く頭に入ってこなかった。
「大丈夫?リケちゃん。少し、落ち着こう」
リケちゃん?
初めて、そう呼ばれた。
そのことが、私の何に引っかかったのか、笑いがこみ上げて来た。
「ふふふ。リケちゃんか…はははっ」
「焦っても仕方ないわ。一度、落ち着いて。概念は難しいけど、理論と手順が分かれば、それも理解できるようになるわよ」
「そうだな。焦りすぎていた……借りてもいいか?」
「私には用のないものだもの、持って行って」
「ありがとう……それと、ミア。少し寂しくさせてしまうことになる」
「どういうこと?」
「私は西側との戦争に、騎士として招集される」
「そういうこと……フィッツくんね」
「私の従騎士だからな。だが、必ず生きて帰す。例え死んだとしても、その魂を引きずり戻して、連れ帰る」
「そう……でも、魂は無理よ」
「私の使える奇跡の一つだ……後で、フィッツを寄越すから、後は本人とやってくれ」
「さらっと、流さないわ!奇跡って何よ」
すごい食いつきだ。
「ミアの秘密も知っていることだしな……私はアーラス様の御子なのだよ」
「教会の人間?」
ミアが少し緊張する。
「今の教会のトップは私だ。だが、教会も原典に回帰しているから、以前のような迫害はないよ」
「トップ?!司教ってこと?」
「司教から崇拝される存在だな」
「そうか、御子だものね」
「そういうことだ。フィッツはすぐに向かわせるから、二人の時間を、しばし楽しんでくれ」
「ありがと」
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