西側の影 3
治療院の食堂に、トーマス、フィッツ、エギーユに集まってもらった。
「久々の招集だな」
トーマスとフィッツと顔を合わせるのは、アルツナイの作戦以来となる。
今まで、ヴーヘラーの動向を探ってもらっていたからだ。
「トーマスにフィッツ。本当は、言いたいことがあるんじゃないか」
軽く、ジャブを打ってみる。
「ヴーヘラーのことだな」
トーマスが気負いなく答えるが、何と言ったらいいのかと思案顔になった。
「アルツナイの時も静かだったからな」
ジーンのコアパーとの協力体制の構築に、アルツナイの壊滅。
そんなことが起これば、次は自分たちにその矛先が向くかもしれないと、牽制や妨害が起こりそうなものだが、何も起こらなかった。
「動くにも、動けない。そんな感じだな」
フィッツの感想。
「どうだ。正面から行って潰せそうか?」
「リケ。ヴーヘラーはもうすぐ、飲み込まれる」
トーマスがそう答えた。
あえて飲み込まれると表現したのだろう。
そして、その相手は恐らく西側のマフィア達だ。
「間に合うか?」
飲み込まれる前に私たちの手で。
「今ならな」
トーマスは少し呆れたように言った。
放っておいても消えるものを、わざわざ潰すこともないだろう。
そんな感情がうかがえた。
「分かった。すぐに行こう」
私は席を立つ。
「そう言うと思ったよ。手配はしてある」
フィッツもやれやれと言った感じではあったが、私の性格を見抜いての準備。
流石だな。
◆
ヴーヘラー壊滅はあっけなさすぎた。
ボスの求心力は既になく、人は離れ、貸した金の回収もできず、資金も底をついていた状態だ。
私たちが乗り込むと、ネグラにいた人間は大人しく降り、抵抗なくボスの元までたどり着いてしまった。
「お前が噂の白狼か」
「そうだ。お前たちを狩るはずだったんだかな」
執務室の応接セットに座る男は、既に抵抗する気もないようで、私に席を勧めた。
「そいつは残念だったな。こっちは、お前さんが教会を手にしてから、滅びの道を歩んでいたんだ。ははっ、笑えるだろ?」
男はそう言うと、酒の入ったグラスを呷った。
「元々、資金は潤沢にあったじゃないか」
大きな組織だと思っていたからこそ、慎重に事を進めていたというのに、肩透かしを喰らってしまった気分になる。
「それだって、教会あってこそだ。孤児を他国に売り払って得てた金だ。供給源を絶たれちまっちゃ、お終いよ」
「金貸しもやってただろう?」
「大半は教会関係だ。ヤツら踏み倒しやがったからな」
貯めていた金のほとんどを、国に提出させたからな。
それに、教会だ。争いを大きくすれば、今度は国が相手になる。
「貴族にだって貸していたのでは?」
疑問を口にした。
「口利きの代わりに、差し出した金だ。十分に甘い汁を吸えたんでな、返さなくていいってことにしてたんだよ」
貸した金の控えを、お願い一つを叶えてくれる代わりに、帳消しにしていたようだ。
「太っ腹が仇になったか」
「違いねぇ……それより、西側のヤツらが来るぞ」
「西側か……。」
カニアの街でも耳にしてはいたが、王都ではまだ聞こえてこなかったな。
「あいつらは見境がねぇ……薬に、バラしに、人攫い。金になるなら何でもござれだ」
自嘲的に笑ってはいるが、その顔には疲れが見て取れた。
私たちが小競り合いをしている裏で、組織としての体力を削がれながらも、一人、西側のチンピラどもを相手にしていたのかもしれない。
そう思うと、私の手は自然と仮面に手が伸びた。
「白狼っ!」
トーマスが驚きの声を上げる。
それは、私がオオカミの仮面を取っていたからだ。
「ずいぶんとキレイな顔が出てきたもんだ」
私を見て、男はそういった。
「お前。名は何という」
「オレか?オレはヨンム。お前に消される男だよ」
「私はアスカニア公爵家息女。フリーデリケ・アスカニア」
私の名乗りに、トーマスとフィッツが膝をつく。
エギーユは少し遅れたな。
「お前、国の……。」
「国も何も関係ない。私が私の思うままにやっていることだ」
「お嬢様の道楽に負けたのかよ」
「ヨンム。お前は負けてはいないだろ?」
「はぁっ?!ここまで、コケにされたら、負けに決まってんだろうが!」
「そこまで言うのならば、敗戦の将として、我が軍門に降るか?」
「……西側とやるってのか?」
「ヨンムよ。私は王国の裏を取り仕切る。王国の魔王たらんとする者だ。そこを冒そうとする者は、何者であっても排除する。お前は、まだ、その火が残っているか?」
「あいつらに、好き勝手されてたまるかよ」
ヴーヘラーも見境なしと思っていたが、どうやら勘違いだったようだ。
貴族にしろ教会にしろ、ハメられるべくハメられた。
慎重に調査を進め、ここぞという時に大胆に攻める。
多少の荒事が必要だったのも、そのためだろう。
人身売買は、もしかしたら、返済に迫られた相手側から、積極的に差し出されたものを、流していただけなのかもしれないな。
「資金は用意してやる。金貸しを続ける気はないか?」
私はそんな提案をしていた。
「オレに何の得があるってんだ」
「西側のヤツらを潰せるぞ」
私は不敵に笑ってみせた。




