大掃除 3
トロスト先生からの通達を受けて、放課後、従者控室に顔を出した。
「エギーユ。待たせたな」
控室で何やら読んでいたエギーユが、顔を上げる。
「フリーデリケ様。お帰りですか?」
「あぁ、治療院に寄ってからだな」
「分かりました。では、参りましょう」
学院内で、気心がしれていない者だらけの時は、しっかりと従者をしているエギーユだった。
今日になったものだよ。ほんとに。
私たちは学院を出て、治療院へ向かう。
その道すがら、今夜の夜に決行することを、エギーユに伝えた。
「また、急だな」
学院から出れば、この口調だ。。
しかし、エギーユは従士であり、従者ではないので、場所柄さえ間違えなければ良いことにしている。
「学院内が明日なんでな、その前に中心を叩いてしまいたい」
「逃げられないようにか」
学院側の騒ぎを嗅ぎつけられれば、打って出るような覚悟もない連中ならば、散り散りとなってしまい、その後の方が面倒だ。
「そうだ。それで、残りの2人は?」
「しっかり見張ってるよ」
「そうか」
「で、どうするんだ?」
当然のように私に聞いてくるが、今回の指揮はエギーユが執るのだ。
それを忘れたのか?
「今回は、それをエギーユが考えるのだぞ」
「そうだった。まずは合流して、監視班の二人を休める」
長時間の監視というのは、気を張っている時間が長いだけに、身体の疲れよりも精神的な疲れが蓄積するものだ。
作戦に影響が出ないようにとの気遣いだろう。
「分かった。食事は調達しておく」
腹も減らしているに違いない。
温かいものが用意できたらいいのだがな。
「頼むよ。そんでもって二階からと、正面からとで同時に突入する」
「裏口でなくて良いのか?」
疑問を口にする。
「あぁ。裏口は使えないんだ。どかせないガラクタが積んであって」
「良く調べてあるな」
素直に舌を巻く。
「しっかり仕込まれたからな」
「ヴィルヘイムとエドガーは、手強い。最悪、始末して構わん。残りは生け捕りだ」
「でも、死んでなきゃ、大丈夫なんだよな」
トロスト先生にも言った言葉だが、出血がひどければ、助からない可能性が高い。
なにせ、終わった後でしか、癒すことができないからだ。
「トラウマを植え付けるのも手ではあるか……いや、なるべく出血は避けたほうがいい」
「分かった。できるだけ魔法でやるよ」
「頼んだぞ」
治療院でお互い装備を身に着けると、別々に外壁区画へと向かう。
先行するのはエギーユ。
私は、食料と飲み物を入手してからの合流となる。
「ヴィルヘイムにエドガー……待っていろよ」
◆
「お疲れさん。ほら、ご飯を持ってきたぞ」
対象を見張るには、些か目立つ向かいの建物の屋根の上。
そこに、エギーユを含めた三人が座って、私を待っていた。
「あいつら、全然、警戒してないからさ、ここにいても見つからんのよ」
エギーユが私の疑念を感じたのか、対象を見張りながら答えてくれる。
「イーボとヴィリー。私に構わず、食べてしまえ」
そう言って、エギーユの隣にしゃがみ込む。
「お前も、飲んどけ」
水筒を手渡し、対象の廃宿に目を向けた。
「学院の制服を着たやつが、一人入ったきりだ」
「予定通りだ。この無警戒さなら、ここがバレてないと思って動きはしないな」
「だな」
エギーユは水筒をあおって、中身を流し込むと、そう同意の声を上げた。
「エギーユの見立てだと、どんな配置だ?」
「配置も何もないよ。ホールで酒飲んでる奴らが六人くらい。二階はお盛んなヤツが二組ってところだな」
「どうする?」
「予定通り。オレの組が正面。リケの組が二階から頼む」
「二階は私だけでも良いぞ」
「ヴィルヘイムが逃げ出したら、追うことになるだろ?」
「なるほどな……。エドガーには気をつけろ、屋内でも構わず火球を使うぞ」
「分かった」
「カッケェ〜」
イーボが私たちのやりとりを聞いて、そんな感想を漏らす。
「さっさと、食っちゃえよ」
それを見てヴィリーがイーボの分の干し肉に手を出していた。
「それっ!取っといたやつ」
「へへっ。残したのかと思ったぜ」
放っておくと、騒ぎになりそうだ。
「二人。後で、もっと美味いものを食わせてやる。だから、今は作戦に集中しろ」
私より先に、エギーユが対象から視線を外さずに、二人に言ってみせた。
「ひゅ〜。カッケェ」
イーボの真似をして、エギーユを冷やかす。
日もいい具合に落ちて、私たちの時間になってきている。
私はオオカミの仮面を着け、屋根の上に立ち上がった。
日の光を目指し、それしか見ていない者たちが、自分たちの影に飲み込まれるなんて思ってもいないことだろう。
だが、今夜はそれが、現実に起きるのだ。




