探索団その2
少年なんとか団は、どの世界でも問題の起点となるようにできているのだろうか?
親方とトーマスに一通り事情を話すと、二人とも苦い顔になる。
「ちと、まずそうじゃの」
「さっき、街でもチンピラたちがあっちこっち探してたからな。そいつが理由だったか」
街で暇そうな男たちを集めていた二人だったが、酒場、飯屋、どこにいってもチリショーテのチンピラを見かけたそうだ。
それも何かを探すように、駆け回っていたと。
まだ、エギーユたちが見つかっておらず、どこかに隠れていてくれるならとも思う。
しかし、事情も話していなかったのに、チリショーテの下っ端の動きも見ていたなんて、これが手練なのだと改めて感じた。
「私の我儘で申し訳ないが、エギーユを失うわけにはいかない。手を貸してくれトーマス」
巻き込むまいと思っていたが、ここはなりふりなんて構っていられない。
トーマスに頭を下げる。
「相棒の頼みじゃ、断れないな。良し、とっておきを渡しておく」
そう言うと、自分の腰のポーチから土塊の玉みたいなものを取り出した。
「なにかあったらこいつに魔力を込めて、空に投げるんだ。どでかい花火になる」
「分かった」
「よし。装備の確認だ」
互いの装備を確認し合う。
今回は小屋の修繕が目的だったので、防具も武器も何もない。
「お嬢。それじゃ心許ないじゃろ。ちょっと待っとれ」
そう言うと、荷馬車の中から革シートやら紐やらを取り出し、なにやら作り始めた。
「オレっちもナイフだけだ」
「時間もない。今は……。」
歯がゆい。
「ほれ、簡単に作ったもんじゃからな」
小さな手斧と革の貫頭衣を渡してくれる。
「もちっと皮が柔らかかったら、いかったんじゃがな」
「助かる」
頭を通す穴と腰を締める紐が付いただけのものだったが、あるだけでもありがたい。
「まぁ、なんとかなるだろ」
「親方はここは頼む」
「任せときな。人手もおるしの」
人足たちもニコリと笑った。
街の人々も、それぞれ思うことがあるのかもしれないな、チリショーテに対しては。
◆
まずは、エギーユとロニの足取りを探る。
よく話しに出てくるパン屋のおばさんを頼りに、飲食店を当たることを基本方針とした。
聞き回ってるうちに、チリショーテのチンピラが向こうから来てくれると、手間が省けて助かるのだけどね。
路地を駆け抜け、少し大きな通りに出ると、平民向けなのだろうか、木造の質素な店構えな商店がポツポツと見える。
そのうちの一つがパン屋だった。
まぁ、子供の行動範囲だ。
こんなものだろう。
「ごめん」
パン屋の中に声を掛け、店内へと足を踏み入れると、焼けたパンの香ばしい匂いが、食欲を刺激した。
「あら、なんだい?」
奥からふくよかな女性が顔を出す。
この店のおかみであろう。
「昨日、エギーユが来なかっただろうか?」
「あんた、チリショーテの連中かい?」
訝しむように私を見た。
さもありなん。見覚えのない人間が、知人の名前を出したのだ。
「ガラハウに頼まれてな」
「そういうことかい!もしかして、帰ってないのかい?」
「そうなんだ。何か知らないだろうか?」
「あの子ら………。」
何かを思い出せそうなのか、両手で頭をグリグリとしているパン屋のおばさん。
こちらは藁にも縋る思いだ。空振りでも良いから、何かを思い出してくれと願うしかない。
「そうだ!マルケスよ」
「マルケス?」
「そう。傭兵団の頃からの付き合いだって、昼間から酔っぱらっては、くだ巻いてる男さ」
「どこにいるんだ?」
「よく見るのは、この先の牡羊亭って飯屋だね」
「ありがとう」
おかみに礼を言って店を飛び出した。
言われたように、通りの先を目指すと、羊の絵が彫ってある看板が目に入る。
あそこか?
と、思った時に、店から一人の小汚い男を追い出だすように、数人の男が内から出てきた。
「マルケス。お前、俺たちとは何の関係もないんだ。あんまり適当なことを言ってんじゃねぇぞ」
「ひっ、ひぃ。ごめんなさい」
マルケスと呼ばれた男を足げにし、唾でも吐きそうな男。
着ているものも、なかなか上等なもので、それなりの地位であることが分かる。
もしかして、大当たり?
あいつの後をつけるしかない。
一旦、路地に身を隠し、その後の様子を伺うが、マルケスという男を数発殴っただけで、男たちは通りを街の中心の方へと歩いていった。
スキル隠遁を発動させ、付かず離れずの距離感を保ちながら男たちの後をつける。
男たちは街の通りを中心部の方へと進んでいた。
ここまで来ると、建物も石造りのものが多くなり、商店も王都ほどではないが華美な造りとなっている。
それに、高さも高くなってくるので、屋根伝いに追跡することも難しい。
そうこうするうちに、男たちが路地へと入って行くのが見えた。
どうする?
先の通り、屋根伝いは難しい。
路地の入り口辺りから、様子を覗くくらいしかできなさそうだ。
男たちの入った路地の入り口となる建物を背に、路地の奥を覗く。
路地を進む男たちは、入って十歩もいかないところで立ち止まり、内と二、三言葉を交わすとドアが開き、建物の中へと入っていってしまった。
合言葉みたいなものだろうか?
聞き取れなかったのが悔やまれる。
しかし、パン屋のおかみさんが言っていたマルケスという男に、暴行を働いていた男たちだ。
エギーユの足取りに関係しているかもしれない。
取り敢えず、男たちが入って行った建物の表を確認する。
「光の集い?」
なんだろ…無性にツッコミを入れたくなる。
何かの店なのだろうが、中が暗くて様子はうかがえなかった。
諦めて路地へと入り、通り抜ける。
男たちの立ち止まっていた辺りには、小窓の付いた鉄で補強されたドアがあり、ドア前には小汚い格好をしてはいるが、ドア前の番人であろう男が座り込んでいた。
これは、何か手順がありそうだ。
路地を通り抜け、違う通りに出てしまう。
とは言え、今できることはない。
エギーユたちの安否も気にはなるが、あそこに軟禁されているとも限らないのだ。
もう少し情報を集めるか?
通りを歩きながら思案を巡らしていれば、貧民区画まで来てしまっていた。
見覚えのある木造の質素な店構えの商店が、ポツポツと並ぶ場所。
丁度いい、パン屋で少し買っていこう。
「いらっしゃ…さっきの!エギーユたちは?」
パン屋のおかみが駆け寄ってくる。
私は首を振るしかなかった。
「そうかい…。」
「まだ、諦めとらん。腹が減ってはなんとやら、少し買わせてもらうぞ」
「ははっ!いいね、あんた。パンは売るほどあるんだ。好きなだけ持ってきなよ」
「それと、ミルクもあるとありがたいんだが」
「あるよ。ミルクピッチャーを二本くらいで大丈夫かい?」
「十分だよ」
◆
パンとミルクの入ったボトルを二本持って、エギーユたちの小屋に戻る。
「よう、お嬢。収穫はあったが、手がないって顔だな」
「ふふっ。親方には全てお見通しってわけか」
「お嬢の慎重さなら、一人で駆け出すとは思えんからな。それに…」
「おおっ!差し入れかい?」
トーマスは先に戻っていたようだ。
私の荷物を見て、ちょっとした歓声を上げる。
「相談があるときゃ、そうやってなんか持ってくるじゃろ?」
これは一本取られた。
屋敷ではハンネに頼んでいるから、ほとんど無意識であったけれど、これは三十路人生からのクセのようなもの。
そういうものっていうのは、なかなか抜けないものだな。
「誰か、水魔法が使えるものは」
「俺。使えますよ」
人足の一人が、作業の手を止めてこちらへやってきた。
「手間を掛ける。このミルクピッチャーを冷やしてもらえないか?」
「お安い御用で」
地においたボトルに男が魔法を使うと、ボトルの周囲にみるみる氷が張り付いていく。
こうしてしばらく置いておけば、中身も冷える。
ステンレスなら直ぐなんだけど、こういうところだけ想定されてる文化レベルで、陶器なんだよね。
「皆。ちょいと息抜きしようや」
親方が作業をしている人足たちに声をかけた。
「ガラハウも呼んでくるよ」
ガラハウとアナベルも交えて、人足の男たちとパンとミルクで休憩がてら腹を満たす。
「焼串でも買ってくりゃ良かったな」
トーマスがボヤく。
「で、トーマスの方はどうだった」
「チリショーテのお偉方の名前と特徴はだいたいわかった。で、リケの方は」
だが、エギーユたちの足取りは掴めていないようだ。
顔も見たことのない子供ならしかたないか。
「私の方は奴らのネグラらしき場所を見つけた」
「くっ…」
核心に近いのは私の方だが、それでもエギーユたちの足取りと言われると、違っている。
「弟子の方が核心を持ってきたようじゃの」
それを煽る親方。
「言うな、言うな」
「むほほほ」
「光の集いって店だろ?」
人足の一人が聞いていたのか、私たちの話に入ってきた。
「なんだ、意外と知られてる場所なのか?」
「あぁ〜…。チリショーテは元は傭兵団だってのは知ってるよな」
チリショーテの前身は傭兵団であることは聞いていた。
「あぁ」
「俺も元傭兵でな。ただ、野盗の類にはなりたくなくてよ」
そう言って男はミルクを一息に煽る。
「今じゃ、その日暮らしの人足だがね」
屈託なく笑うその笑顔に、どこか寂しさを感じた。
「てことは、入り方も?」
トーマスがすかさず問いかけると、男は黙って頷く。
「考えるのは、ワシの仕事なんじゃがの」
親方はヒゲを撫でながら、少し残念そうだった。




