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悪役に生まれたのなら、徹底的に悪の道を貫いてやる!  作者: 鈴木ハルカ


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探索団


 エギーユたちと出会って一月ほどが経った。

 その間、街の様々な噂を聞けることになる。


 税や統治に不満を漏らす者の話しや、酒場で働く看板娘のランキングに、酒の味。パン屋のおかみの知られざる顔や街の出産情報等多岐にわたる。

 もちろんチリショーテの話しもチラホラと入ってきていた。


 「なんか、月の決まった日に集まっては、飲んだくれるのがあるんだって」


 いきなり有用な情報が入ってきたが、今の私では多勢に無勢。

 生きて帰れる保証はない。


 「いい情報だな。上手く場所が分かれば、チリショーテの幹部の顔を見るのに良い」


 私に褒められて、エギーユは嬉しそうだ。


 「よし。そのまま続けてくれ。ただし、絶対に無理はするな」


 自分のことは棚に上げて、エギーユにしっかりと釘を差す。


 「ほんと、こんなので良いのかい?」


 どこかの女将のような口調になりつつあるガラハウが、私の持ってきた古着をめくりながら聞いてきた。

 屋敷にある着なくなったもので、あまり上等ではないものを見繕っては届けている。


 「このくらいで良い」


 逸る気持ちはあるが、危険に身をさらしているのはエギーユやガラハウだから、彼らの安全を考えればもっと控えめな噂で良いのだ。


 ダンダンダン。


 扉を叩く音。

 私は腰のダガーに手を伸ばし、エギーユに目で合図する。


 それを見たエギーユは頷き、扉に手を掛けた。


 「誰だ?」


 「エギーユ!俺だよ、ホルムスだよ」


 エギーユが扉を開けて迎え入れたが、ホルムスの息はあがっていて、ここまで来る必死さを物語っていた。


 「ホルムス。何があった」


 「ロニのやつがしくじっちまって、切られちまったんだ」


 「どこだ。案内しろ」


 突然会話に割って入った私に、ホルムスがギョッとなってこちらを見た。


 「時間が惜しい。早く」


 「分かった。ついて来て」


 息も整っていないホルムスだったが、文句一つ漏らさず、来た道を先導して駆けていく。


 「エギーユは、残れ。何かあるかもしれない」


 「分かったよ」


 ちょっと拗ねた表情をしたが、ガラハウの方に視線をやれば理解したようだ。


 小屋から飛び出しホルムスを追った。


 これがスキル『星屑の御子』の制約だった。

 こういった癒しの力でなんとかなりそうな事態に直面すると、首を突っ込まなくては収まらないという、何とも聖人らしい考え方になってしまうようだ。

 その代わりに、聖属性の魔法効果を大幅に向上させ、消費魔力も抑えてくれる。更には、このスキル持ちでしか使えない魔法の取得もできるようになるのだから、多少の回り道はしょうがないのかとも思う。

 

 ホルムスはエギーユたちの小屋よりも粗末な、テントのような物の中へと滑り込んでいった。

 それに私も続くと、今度は腹ばいになって石壁の隙間を抜けていく。

 少しためらう気持ちもあったが、命には代えられないと思い直し、腹ばいでその隙間に身を投じた。


 「こいつだよ」


 見れば、肩から胸の直上まで切りつけられていた。

 出血も酷く、顔色は既に土気色をしており、呼吸も弱々しい。

 時間がない。


 「ハイレンデス・リヒト(癒しの光)」


 暖かな光が私の手から倒れているロニへと降り注ぐ。

 出血が止まりはしたが、傷の回復までには至らない。


 違う魔法で…。


 「レーゲネラツィオーン(リジェネレーション)」


 ごっそりと魔力を持っていかれる脱力感に襲われるが、なんとか気をもたせる。


 ロニの肩口の傷が内側から盛り上がり、みるみると回復していくのが見えると、周りの子供たちがどよめき始める。

 傷がすっかりと塞がる頃には、ロニの顔色も血色が戻り、呼吸もしっかりしたものになっていた。


 「もう…大丈夫」


 聖属性魔法の回復系は三種に分けられる。

 一つはハイレンデス・リヒトに代表される癒しの光だ。

 これは、掛けられたものの生命力を活性化し、傷を治すものなので、掛けられる方にも、ある程度の体力がなければならない。

 しかも、直せるものは怪我だけだ。

 内臓の欠損などは補えない。


 次は今回使ったレーゲネラツィオーン。

 ドイツ語読みのリジェネレーション。

 こちらは術者の魔力を、欠損したものに置き換えるようなイメージで考えてくれると良い。

 なので、傷の深さや欠損部位の大きさによって、消費される魔力が違う。

 今回の消費量から推測すると、傷の深さは肺まで届いていたのかもしれない。


 最後は魂の欠損すら修復するウーア・リヒト、原始の光だ。

 術者の生命力すら使い、死の淵を歩くものを救う最終手段だが、星屑の御子にしか取得も使用も許されていないものになる。


 ながながと説明したが、これが星メモの回復系だ。


 ◆


 「良かった。助かったんだな」


 エギーユが安堵の溜息を漏らす。

 

 「今は寝てるだけみたいだね」


 不衛生な場所には置いておけないので、ロニを背負ってエギーユたちの小屋に戻って来た。

 ここも清潔とはいえないが、あそこよりはマシ。


 「ここで、治療院でもやったらいいのに」


 ぐっ…。

 制約が発動するかとも思ったが、大丈夫だった。


 「治療院をやるには、街の代官の許可が必要なんだ」


 「そうなのか、ここならミラばぁちゃんも、来るのがラクになると思ったんだけどな」


 あぁっ!そんな追加情報は要らなかったよ。

 しっかり制約の効果に囚われました。


 「分かった。なら、もう少しここをキレイにしよう。それに、治療する場所とお前たちが寝る場所も分けなきゃね」


 スラスラと実施するための案が口から出てくる。

 頭の中では、ここの土地の所有から建物の改築に、許可証の取得と、お父様への説得方法まで考え始めていた。


 なんか、悪っぽくなくない?


 ◆


 翌日。

 治療院を開設するにあたって、公爵家という身分は大いに助けとなった。

  

 お父様は現在、王都で執務中であるので、治療院を開院し、貧しき者たちへの助けになりたい云々を手紙に記して定期便に乗せた。


 後は執事のハンスに相談して、エギーユたちの住む小屋のあたりの土地の権利購入と、治療院開設に向けた許可証取得の手続きを任せた。

 治療責任者は私。

 聖属性で星屑スキル持ちなのは、周知の事実となっているので問題はないだろう。

 ハンスはお父様にしたかったようだが、ここは私の自立のためと、強く主張して押し通した。

 治療院へ赴く際には、騎士団の護衛をつけることは約束させられたが、これはしょうがない。


 次に相談に行ったのは、庭師の親方だ。

 一度見てみないことには、何とも言えないと頑として譲らなかった。

 なので、トーマスと三人で見に行くことにしたのだ。


 「お嬢。準備出来たぞ」


 視察と言う割には、道具も材料もしっかりと揃えている辺りが親方だ。


 「よし。出発しよう」


 今回はそんなものもあり、荷馬車での出発となる。 

 私はまた農村の少年のような格好で、御者台についていた。


 隣の親方が裏門の騎士に手を挙げると、騎士は荷馬車が通る前に門を開けてくれる。

 止めて確認しようものなら、親方に怒鳴りちらかかされてしまうことを恐れているのだろう。

 もしかしたら、私をベンだと思ったのかもしれない。


 馬を進めて貧民街の外へと到着した。

 いつ見てもエギーユたちの小屋は、潰れてないことが不思議な建ち方をしている。


 「こりゃ、人手がいりそうじゃな。基礎が腐っとるんじゃろ」


 建物を一目見て、それを看破する。

 親方は大工だったかな?


 「中のヤツラに声をかけてくる」


 荷馬車を停め、御者台から降りて小屋に足を進める。

 

 「ワシは使えそうなのを集めるわい。トーマス、手伝え」


 「オレっちもかよ」


 「この辺りはお前さんの庭じゃろ?」


 「へいへい。仰せのままに」


 二人は連れ立って街へと消えていった。


 それを見送ると、小屋のドアをノックする。


 「誰?」


 女の声。ガラハウがドアの向こうにいるようだ。


 「リケだ」


 ドアが開いて、どこかホッとした顔のガラハウが迎えてくれた。


 「リケ。今日は来る日じゃないよね?」


 「前に言ってた治療院の準備。小屋の修理をしてくれる大工を連れてきたんだ」


 「そう…だったの」


 「エギーユは?」


 首を振るガラハウ。


 「ロニと噂集めに行ったきり、昨日から帰ってこないの」


 なんてことだ。

 きっと、私の役に立とうと、チリショーテの噂探しで勇み足を踏んだのだろう。

 無事でいてくれるといいのだが。


 「そうか。すぐに大工が帰ってくる。エギーユ探しはそれからだ。腕の立つ人もいるから、きっとすぐに見つかる」


 何とも確信のないことを言ってしまったが、私の言葉に安心したのか、ガラハウは大粒の涙を溢れさせ、膝から崩れてしまった。


 「エギーユ」


 無事を祈りながら、泣き崩れたガラハウの肩を抱いた。

刻は動く。

誰の許可も必要なく、否応無しに…。


最後までお読みいただきまして、誠にありがとうございます。


今日のあなたは、水瓶座と相性がいいかもしれないし、そうでもないかも?

では、また次のお話で!

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