大掃除 1
大掃除。
やるとなると面倒だが、やらねばならないタイミングというのもある。
特に、暴走しがちな若い芽と言うのは、大輪の花となるよう、しっかりと対話を持ち、ここぞというタイミングで打って出られるよう、準備が必要だ。
だが、それを鬱陶しくかんじるのも、また、若さ故……。
大人の言い方も、大概、問題あるけどな!
ロアからの報告を受けたその日。
屋敷に帰り着くと、荷物を自室に置いてお父様の執務室に向かった。
コンコンコン。
「入る」
もちろん。返事は待たない。
「返事を待てんのか?」
私の入室を見ると、呆れたように、執務机で頬杖をついている。
「怪我の方は、どうなんだ?」
ダンジョン探索での事故。あれから一週間だ。
父親としては心配なのだろう。
また、学院の方でも、ダンジョン探索の時間を見送ることとして、雪がないければ屋外修練所で、天候が悪ければ屋内でと、通常の実技授業となっていた。
「まだ、右腕の馴染みが悪いが、なんとかなる」
無くしたはずの右腕を、軽く動かしてみせる。
「しかし、腕まで再生できるとはね」
「生きてさえいれば、首から下だってできるぞ」
レーゲネラツィオーン(リジェネレーション) については、お父様にも話しはしていなかった。
「お前……それは、奇跡って言うんじゃないのか?」
驚きを隠せないお父様だが、それはそうだろう。
「お父様には、この際、伝えておくか」
いい機会だと思った。
誰にも明かしていない、私のスキルを話すのに。
「何をだね」
「私がアーラス様の御子であることだ」
星屑シリーズのスキルである『星屑の御子』は、その最上位スキルに当たる。
教会でも確認したことのない、神話にも匹敵するスキルだろう。
「はぁっ?!フリーデリケが?」
頬杖からずり落ちそうになるお父様。
そりゃそうだ。愛娘とは言え、まさか娘が神話に登場するだけの、最上位スキル持ちたなんて……しかも、六年以上知らなかったのだ。
共に儀式に参加していたというのに。
「だから、奇跡とも言える魔法も使える」
レーゲネラツィオーン(リジェネレーション)の他にも、あと二つ。
一つは使う機会の無いことを祈るばかりのものと、もう一つは機会があるならば使うが、その機会には出会いたくないもの。
今は、ここまでにさせてくれ。
「結奏くんは、聖女だろ?フリーデリケが御子……。」
結城結奏は『星屑の聖女』で、私には使えない封印の祈りが使える。
私が使えないのは、使う必要がないからだろう。
「まだ、ニコラウス伯父様には内密に」
「言えるわけがなかろう……聖女どころか御子まで、うちにいるなんてな」
お父様は慌てた様子で、私の提案に同意する。
「教会派……。」
既に手中にある教会。
考えすぎか?
「なんかしらあるだろうな」
お父様は違う見解を持っているようだ。
「しかし、教会は私の手中にあるが?」
「それとは別だよ。司教さえ変えてしまえば、派閥は維持できよう」
政治的な動きか。
「なるほど……ならば、私が……。今日は違う件できたのだった」
政治には関わりたくはない。
関わる前に、潰すだろうな。私は。
「なんだ?」
「ヴィルヘイム兄様の件だ」
本題を切り出す。
「何か手がかりが?」
お父様も愚息とは言え、気にかけていたのだろう。
「お父様も掴んでなかったか」
「何をだ」
「ファーターランツリーべ」
名前を出せば、何か思い当たったようだ。
「ん。ドラ息子どもの集まりだろう?」
歯牙にもかけないと言った感じだ。
国を牛耳る執政閣下は違うな。
「エギーユからの報告待ちたが、そこに匿われていそうなんだ」
「だが、何年も行動すら起こしておらんだろう」
エマから聞いたところと、ほぼ同じだ。
「そこに、力あるヴィルヘイム兄様に、エドガーが加わればどうだ?」
「ひけらかしたくなる……か」
そう。
持てなかったものが、力を手にしたときにやる事と言えば、自慢だろう。
力に限らず、金、女、男、何かしらのアイテム。
持ったもののほとんどは、そうなることであろうな。
「私はヴーヘラー退治に専念したいのだがね」
本音を言ってみた。
ようやく、後一歩の所まで来ているのだ。
小さいとは言えど、国の問題なのだから、国で対処して欲しいと。
「そうは言ってもな、現状では騎士団は動かせんぞ」
やはりか。
何の被害もなく、ただ集まっているだけの者たちに対して、国が動けるはずもなく……。
「ならば、予定を遅らせるしかないか」
エギーユのことも考えると、合間に一戦挟んで伸ばしてやりたいと思う。
しかし、トーマスやフィッツを、こちらには回したくはない。
腕組みをして考える。
何かないだろうか?
「学院の教官なら、動員しても構わないな」
そうだ。トロスト先生がいるではないか。
「エドガーか、クラウゼン家の者だったな……学院のことならば、こちらが口出しすることでは……。」
国とは関係なくなったからだろうか、再び、頬杖をついて私の話を聞いていた。
やはり、油断したなお父様!
「頂いたぞ、その言葉!トロスト先生に協力を仰ぐとしよう」
私の言葉に、ハッとした表情となり顔を上げるお父様。
「やられたっ!実質、騎士団の動員じゃないかっ!!」
そう。トロスト先生は第二騎士団団長。
その人が動かせるならば、実質、騎士団が動かせるというものよ。
「あくまで教官に協力を仰ぐだけだよ」
物は言いようだ。
「もう、好きにせい」
お父様も諦めたようだ。
再び、頬杖をつくと、大きなため息をついた。
しかし、こんな騙し討ちのような格好になってしまったことは、申し訳ない。
私は執務机を回り込んで、お父様の傍らに立った。
それを、不思議そうに見上げる執政閣下。
「お父様。大好きっ♡」
ここぞという時の秘密兵器。
愛娘からのハグだ。
コレで国すら動かしてみせよう……ニコラウス伯父様にも使ってみるか。
◆
コンコン。
ずいぶんと夜が更けた頃に、部屋の窓が叩かれた。
窓に近寄り、音の主を確認すると、ボロをまとったエギーユたった。
時間と、自身の格好から、裏口を使わずに直接会いに来た判断は良い。
私は内鍵を外し、部屋へと招き入れる。
「どうだった?」
部屋にあったピッチャーから、グラスに水を注ぎサイドテーブルに置く。
「座って一息つけ。おつかれさん」
「ありがとう」
エギーユは昨年から別邸の執事マッテオの教育もあり、言葉遣いや、考え方がずいぶんと変わってきた。
今では、信頼できる私の従士として、育ってきている。
私の言葉に従い、サイドテーブルの椅子に座ると、グラスの水を一息で飲み干した。
「結果は上々と思って良いのか?」
「そうだな。一応、見張りに二人置いてきたけど、あれは何も起こせないだろうよ」
「と、言うのは?」
「まぁ、まずは偵察の結果を話すよ……。」
エギーユの偵察は、ロアとの尾行から始まっていた。
エドガーを連れた女は、自分こそローブを纏っていたが、エドガーにはそれを用意していなかったようで、追跡は簡単だったようだ。
しかも、尾行への警戒もしておらず、無意味に路地を入ったりすることもなかったという。
そして、外壁区画にある廃宿の一軒に入って行ったそうで、場所を確認したロアとは、そこで別れることになる。
場所を特定したならば、次は強襲のための内部把握に移るが、大抵の場合は、内部の間取りを把握するだけだ。
警戒しながら屋根伝いに廃宿に取り付き、二階の配置と間取りを確認すると、侵入しても問題なさそうだった。
そう判断したエギーユは、細心の注意をはらいながら、内部の偵察へと移ったそうだ。
そして、二階の部屋の様子を伺っていると、ある一室から、何とも艶めかしい声が聞こえてきたという。
確認のため、その部屋のドアをそって開き、中を覗くと、男女のまぐあいに興じる者が見えたそうな。
しかも、その女の方の口から、ヴィルヘイムの名が出てきた。
まぁ、兄もそれなりの歳だ、そういう行為をすることは、不思議ではない。
二階は他に気配はなく、それを確認したエギーユは、次に一階のホールを見渡せそうな、二階の踊り場に陣取り、階下の様子を伺う。
ホールでは、連れてこられたエドガーが、組織のリーダーであるアルトマイアーから手厚く迎え入れられ、その応対に喜んでいたそうだ。
そこからは、現政権に対する不満や、家の愚痴等を言い合いながら、酒を酌み交わしており、エギーユの目から見ても、ドラ息子が息巻いているだけに見えたのだろう。
「なぁ、ほんとにあいつらに、手を下す必要があるのか?」
エギーユの話しを聞いていると、私も自分の決定に自信がなくなってくる。
それが、エギーユにも伝わったのだろう。
「あいつら……と言うか、ヴィルヘイムとエドガーを潰すのだ」
「とは言っても……。」
「エギーユの言いたいことは分かる。小物過ぎて、何も得るところがない。そう言いたいのだろう?」
「おぅ」
力なく返事をするエギーユ。
「だがな。ヴィルヘイムとエドガーは、いつ打ち上がるか分からない花火だ」
「花火くらいなら放っておいても、いいんじゃないか?」
例えが悪かったな。
「すまん。例えが悪かった。そうだな、いつ起きるか分からないドラゴンがそこにいたら?」
「ヤバいだろ!」
「それだ。ヴィルヘイムもエドガーもあんなだが、実力は共にある」
「そういうことか。その二人が暴れ始めたら、リケより酷くなりそうだ」
「そうだろう……。」
失言があったようだが、聞かなかったことにしよう。
「今回の強襲は、私とエギーユ、それに見張りの二人でやる。いけるか?」
「十分だな」
「良し。エギーユ。お前が指揮を取れ。私を存分に使ってみせろ」
私の言葉にエギーユの表情が変わり、力強く輝いて見えた。
「ったく。暴れたいだけなんじゃないのか?」
憎まれ口を叩いてみせるが、顔は正直だ。
なんとも嬉しそうにしている。
「バレたか」
エギーユの成長を頼もしいと感じた。




