横槍 3
数日後。
いよいよ、ダンジョン探索がやってきた。
初めてのことに、ワクワクが止まらない自分がいる。
この日のため、装備を新調していた。
私のパーティーはロア、ソル、エマ、結城結奏の五人だ。
前衛は私、ロア、ソルとなるが、全員が比較的DPS寄りの動きをする。
そこで、私とソルでタンクを回すようにすれば、ロアやエマ、結城結奏の動きが安定するようになるし、ビハインドアタックへの対応もやりやすくなるだろうと思い、タンク寄りの装備としたわけだが……。
「うおっ、金属鎧かよ……それにカイトシールドか」
「さすがに、タワーシールドだと動きが悪くてな」
目ざといロアは、近寄ってきて、ジロジロと装備をチェックしているようだ。
「頭部は金属の兜、胸と腹、それに肩と前腕に金属鎧か……。その下にチェーンメイルまで仕込んでんのかよ、腰回りは板金で補強したレザースカート。すつがりタンク装備だな。ブーツも金属で補強が入ってるやつか…まぁ、お前ならできるよな」
細かな解説をありがとう。ロア。
武器は片手でも扱えるように、重心を調整したロングソードにした。
タンクとしては心もとないが、ソルと回すことを考えればこんなものだ。
「そういうことなら、オレはやりたいようにやればいいんだな」
「話が早くて助かるよ」
装備の説明も助かった。
「ひゃ〜。リケの方が重そうだよ」
ロアは厚みのある革鎧を着込んでいた。
背中には、トレードマークと言っていい大剣を担いでいる。
「私とソルが、このパーティの盾だ」
「なるほどね。ボク、一人だとキツそうだなって、思ってたんだよね」
「装備が揃うまでは仕方なかろう」
「うん」
ロアは軽量の革鎧の上に、お尻くらいまでの丈のコートにいつものショートソード二本。
兜は視界確保のために着けてはいない。
騎士課程は装備もあるので、早めに出てきたのだが、それでも早すぎたようだ。
魔法課程の連中が、ようやくダンジョン入り口にやってきたのが見える。
今回のダンジョンは、ハイデル王国で管理しているダンジョンであり、入り口も王都の南の城門からすぐのところにあった。
しかも、騎士の詰め所もあるので、ダンジョンから魔物が出てくるようなこともないし、探索中の遭難等にも迅速な対応ができるというものだ。
「魔法課程も集まったな。それじゃ、パーティごとに集まっててくれ」
トロスト先生の言葉で、ざわつく者たち。
もしかして、組めてない連中ばかりなんじゃ……。
「あぁ〜。いたいた」
エマが結城結奏を連れて、私たちの方へと歩いてきた。
エマと結城結奏は制服に杖……それも、練習用の物を持っているだけだ。
これは、魔法課程の教導官が悪そうだな。そう感じた。
「二人とも、コレを着てくれ」
私は手持ちのバッグから、ロープを二枚取り出して、二人に渡した。
エマには濃紺の物を、そして、結城結奏にはニューイヤーフェスティバルのときのドレス同様に、白地に青のラインなどで装飾された物を。
「イイじゃない。これ、使っていいの?」
エマが袖を通し、くるりと回ってみせた。
「私の侍女からのプレゼントだそうだ」
「ハンネさん。こんな素敵なの……汚せないなぁ」
「それと、これは私からだ」
エマには木製だが、宝石で強化された杖を、そして、結城結奏には、教会の枢機卿から快く譲り受けた(剥奪した)錫杖を渡す。
「これ……なんかスゴい」
「馴染んでくれば、もっとすごくなるそうだ」
これで、我がパーティーは準備完了だ。
食料や水、その他必要な物は、私の背嚢に詰め込んであるので、二、三日は大丈夫だろう。
「しかし、組んでないやつの多いこと」
ロアがため息交じりに、そう言った。
対人戦ばかりの私達だ。
ダンジョン攻略や、魔物との戦闘は未知の経験であり、純粋に楽しみで胸を躍らせていたのたが、そこに水を差されたような感じる。
「回復系の争奪戦になるかと思ったが、誰がそれなのかすら調べてないのか」
私も水を差された不満からか、皮肉が口から出てしまう。
「うちは二人いるから安泰だな」
「いや、エマが水属性だから、三人だ」
「うおっ、マジか!」
余り魔法に興味を持っていないロアは、自分の幼馴染がそう言う力を持っていたのを知らなかったようだ。
「ねぇねぇ、リケってもしかしたらパラディン何じゃない?」
ソルが私を期待に満ちた目で見ている。
「いやいや……あれ?そうなのか!?」
否定しようとしたロアも、驚きの声を上げた。
エマと結城結奏は二人の様子に首をかしげ、何を言っているのか分からない様子だ。
「聖属性魔法を使う騎士のおとぎ話し」
ソルが好きな話なのだろう。
とても楽しそうに、話しを要約して語ってくれた。
「その話しの騎士様と、リケの出で立ちが似てるってことね」
合点がいったエマ。
「その上、聖属性持ちだ」
ロアの言葉に、結城結奏も話しがつながったような顔をした。
「やってることは、聖騎士様とは真逆のことだ」
肩をすくめて見せる。
「結構、街の人のためにはなってるような……。」
結城結奏は、本当に気遣い屋だ。
「いやいや。そりゃ、結果だぜ。気に入らないから潰しただけだからな」
ロアは結城結奏の言葉を肯定しながらも、私の本音を付け加える。
まぁ、実際のところ、ロアの言が事実なので何も言うことはない。
「フリーデリケ。お前のとこ、聖属性持ち二人なのは、なんとかならんかと、クレームがきてるんだが?」
トロスト先生が、ペンで頭をカリカリ近づいてきた。
「トロスト先生。どう見ても聖属性を行使するのは、結城結奏だけだろう」
「だよな」
トロスト先生は、手にしたボードから顔を上げて、私の言葉に同意する。
「回復なら、水属性も使えるからな。聖属性である必要はないな」
エマのことで話したが、聖属性ほど強力ではないものの、水属性にもキズの回復に使える魔法がある。
「私の方で、上手くやっておくわ」
恐らく、王子たちからのクレームだろう。
トロスト先生も大変だ。
「面倒をかけるな」
「それが、教師の役目ってやつだからな」
第二騎士団団長の懐の深さに、最敬礼で応じる。
「皆、少しいいか?」
トロスト先生からの話しを伝え、もしかすると、ダンジョン内部で、足を引っ張られるかもしれないことも合わせて話した。
◆
「だいたい、パーティが組めたようだな。これからダンジョンに入ってもらうが、攻略が目的じゃないからな」
「では、何のために潜るのですか?」
「いい質問だ。この授業を通して、ダンジョンスキル、マッピングや警戒、罠への対応。それに、パーティ運営スキル、メンバーの状態把握、備品の把握。そういったものの基礎を学んでもらうことが目的だ」
トロスト先生の言葉に、普段やっている敵拠点への討ち入りとは、異なるが、通じていそうなスキルが身につきそうだと思った。
「二層へ通じる階段に、人数分のメダルを置いてきてある。それを回収して帰ってくるまでが、今回の探索だ」
「「はいっ!」」
騎士課程の生徒は威勢よく返事をした。
「それでは、幸運を」
トロスト先生の言葉とともに、脳筋たちが駆け出していった。
私たちはゆっくりとした足取りで、ダンジョンへと入って行く、その背中を面白くなさそうに見送る視線に気付かずに。




