横槍 2
結城結奏は昼食でも、どこか浮かない顔をしていた。
王子たち攻略対象キャラに対してなのか、何か思うところがあるのだろう。
夜にでも、話を聞いてみるかな。
「エマ。調べて欲しいことがある」
「やっと来たわね」
待ってましたと言わんばかりに、食いついてくる。
「ここのところは、街の悪党だったからな。しかし、次は違うんだ」
私の言葉に、皆に緊張が走った。
ただし、結城結奏は除く。
「今回、調べて欲しいのは、貴族の子女だ」
「それは、どういうこと?」
エマの瞳の光が増したように見えた。いや、実際に増していたかもしれない。
「特に、今の制度に不満を持つもの……ちょっと頭が良いと思ってる次男なんかをターゲットにしたい」
私の言葉に首を捻る一堂。
少々、言葉も状況も伝わり難かったな。
「というのも、うちのヴィルヘイム兄様が、そういうヤツらとつるんでいる可能性があってな」
「そういうわけ……ふぅん。意外ね、お兄さんが心配なんだ」
エマがいたずらな視線を送ってくるが、意に介さず、エマに顔を寄せる。
「ここだけの話しにして欲しいのだが、ヴィルヘイムは、並みの宮廷魔術師以上の魔法の素質を持っている。属性魔法だけでの勝負なら、私よりも上だ」
聖属性なので、防御一辺倒になるからな。私は。
魔力量に物を言わせて、回復し続けるしかない。
「そんな人なの!?でも、学院だと名前も聞かないわよね」
「カニアの本邸に引きこもっていたからな」
顔をエマから離し、椅子に深く座り直した。
「知らないはずだわ……分かった。貴族の子女が集まるグループはいくつかあるから、そこから当たってみるわ」
「頼む。ガードが必要なら、気兼ねなく言ってくれ」
「リケを指名しちゃうわよ」
意味ありげなウィンクをしてみせるエマ。
「ご随意に」
座ったままではあるが、大げさにお辞儀をしてみせる。
◆
その日の夜。
コンコンコンっ。
結城結奏の部屋を訪ねた。
「どうぞ」
部屋に入るといつものように、魔法の文献に向かっていた。
そう言えば、魔女に会いに行くことを忘れているな。
近々、フィッツを通して時間をとってもらおう。
「ダンジョン探索の件で、悩んでいるんじゃないかと思ってな」
サイドテーブルの椅子を引いて、結城結奏の背中を見るように腰掛ける。
すると、結城結奏は机の椅子から立ち上がり、サイドテーブルの方へと来て、そちらの椅子私と向き合うように座った。
「何を言ってるか分からないかもしれないけど、この世界って、向こうの世界でやってたゲームと同じなんだよね……。」
結城結奏が、星屑メモリーの話しをし始めた。
攻略対象のこと。
入学からのイベントのこと。
本当は私が、結城結奏に対してイジワルなことをするキャラクターであること。
そして、恋愛のこと。
しかし、この世界に来てみれば、攻略対象の男どもは寄り付いてこないし、悪役であるはずの私は、親身になってくれるしで、ゲームに近い世界だけど、シナリオとは関係ない世界なのかなと思い始めていたこの時期に、ダンジョン探索。
そう、星屑メモリーのストーリーシナリオと、同じことが起きてしまった。
「私、向こうの世界の恋愛で、嫌なことがあってさ、男の子たちに言い寄られたりするのが嫌なんだよね」
結城結奏はそう言って、物悲しそうに目を伏せる。
「ロアやソルなんかとは、上手くやってるじゃないか」
「あははっ。だって、ロアもソルもエギーユくんも、恋愛とか関係なく、友達って感じで接してくれるじゃない」
結城結奏が上げた名前の男たちは、この世界での自分の立場を作ることや、実力を磨くことしか頭にないものだが、余計なことは言うまい。
「言われてみたら、そうだな」
それだけに留める。
「ストーリーシナリオと同じように、あの五人が言い寄って来てさ……なんかね」
突然動き出したシナリオに、困惑もあるのだろう。
「その様子だと、ストレスになってそうだな」
「そうかも……悪い人じゃないんだけど……ね」
「同じクラスならば、やりようがあったのだが」
「あっ、いいの。いいの。こうやって、話しを聞いてくれるだけでもね……。」
「そうか……良し」
椅子から立ち上がり、結城結奏に近づくと、そのまま抱き上げた。
所謂、お姫様抱っこというやつだ。
「ちょっ、ちょっと何?」
「遠慮することはない。もっと吐き出すと良いぞ。セバスティアンなんぞ、取るに足らん」
「ははは。リケにかかったら、王子様もかたなしね」
「今夜は語り合おうじゃないか。セバスティアンの恥ずかしい話しもたくさんあるぞ!」
「ふふふ。リケったら」
結城結奏を抱きかかえたまま、自分の寝室まで連れて来て、私のベッドに放り込んだ。
「リケのベッドは広いわね」
「エマがいても大丈夫なくらいだな」
私もベッドに腰掛けて、結城結奏を見る。
結城結奏は、大の字になって天蓋を眺めていた。
「詰めたらガラハウにラトーラさんも、入るんじゃないかしら?」
そう言うと、結城結奏はうつ伏せになって、両肘を立てると、そこに顎を乗せた。
「結城結奏。ダンジョン探索は私と共に来てくれ」
「どうしよっかなぁ……。」
脚をパタパタと動かしてみせ、私の方をニヤリとして見た。
「そういう焦らし方は、嫌いじゃないがね……。」
結城結奏の背中に跨り、両脇に手を入れてまさぐり、くすぐり地獄へ誘う。
「ひゃ〜っはっはっはひぃ〜……やめっ、ひぃっひっひっ」
余りやりすぎると、取り返しがつかなくなりそうだったので、程よいところで手を止めた。
「どうだ?我が秘剣の味は」
「何が秘剣よ……こんなの小学生以来だよ!」
かすかに笑いを残しなからも、強めの反論がとんできた。
「分かった。分かったわよ。ダンジョンはリケ達と行く」
「陥落だな」
「ほんとは、あの人たちに断れる口実を作ったんでしょ?」
「何を言ってるんだ?セバスティアンなぞ、ニコラウス伯父様に頼めば、辺境の修道院送りにだってできるのだぞ」
「か、かわいそう……。」
結城結奏は私の言葉に、本気で同情しているようだった。
「私は結城結奏と共に行きたいから、そう言ったのだ」
「決めてなかったのは、私の方だったみたいね」
これで、シナリオが進むことはなくなるだろう。




