横槍 1
予定していたことというのは、先であるほどその通りにはいかない。
集中力や緊張感がきれてしまったり、経済面での継続が困難になったり。
そして、他人による横槍が入ったり。
ニューイヤーフェスティバルが終わりを告げ、ゆるゆると街は日常を取り戻していき、花火が上がることも、バカ騒ぎが突然始まることもなく、穏やかに過ぎゆく日々。
学院の授業も始まり、一回生も後半に入ったが、多くはないとは言え、王都も雪が降ることから、屋外での実技ができない日が多くなるのだが……。
「そういうわけで、下期の実技はダンジョンアタックになるが……まぁ、私達、教導陣もついていくし、上層を少しやるくらいだから、心配する必要はないぞ」
そう言えば星メモでも、そんなイベントダンジョンがあったな。
確か、聖女と攻略対象の5人が、転送罠に掛かってしまい、下層に転移。
そこからは、上を目指さずにダンジョン攻略を目指すというイベントシナリオだったはずだ。
「あと、ダンジョン探索は魔法課程との共同授業になる。めぼしい人間を見つけておけよ」
トロスト先生が、そう付け加えた。
エリアス・トロスト。
私達、騎士課程Aクラスの担当教導官で、第二騎士団の団長という身分を持った王国の騎士だが、放課後は私やロアとの手合わせを熱望する程の、根っからの剣士だ。
「俺たちは決まりだな」
ロアは余裕を見せて、背もたれに上体を預ける、
「上手く行くといいがな……。」
シナリオを知っているだけに、横槍が入りそうな予感がある。
「なになに?」
ソルはいつも通りだ。
「そう言えば、休み中はずっと治療院にいたな」
「なんか、迷惑だったかな?」
図々しい自覚はあったのだろう。
「ガラハウもラトーラも力仕事が任せられるって、大喜びだったそ」
「良かった」
心底、ホッとしたように安堵した顔を見せた。
「ソルはそんなに長くいたのかよ」
私の話しを聞いたロアが驚く。
「もう、治療院の一部屋は、ソルの部屋になってる」
ソルが滞在した部屋は、掃除こそするものの、いつでも来られるよう、そのままにするそうだ。
ラトーラがソルのことを気にかけて、そうさせるようにしたらしい。
「でもよ。俺たちのパーティはこの三人と、結奏とエマで決まりじゃねぇのか?」
「エマは大丈夫だろうが、結城結奏はな……。」
「なんかあるのか?」
「王子たちだよ」
ここまで、何のアクションも起こしてこなかった、攻略対象の5人が、このまま何もしないとも限らない。
「あぁ……聖女様だもんな」
ロアが落胆の溜息をつく。
星メモのゲームシナリオの存在を知らなければ、そこを重要視するよな。
「後でさ、誘いに行こうよ」
ソルの明るさは、やはり心の暗さを払ってくれる。
本当は、ソルもアーラス様の眷属か何かなのではないだろうか?
◆
昼休み。
私達三人は、珍しく魔法課程校舎に来ていた。
「珍しいわね」
エマが、この状況を言葉にしてくれる。
「ダンジョン探索は、共同授業だろ?だから、誘いに来たんだよ」
ロアがすかさず返事をする。
「それか。リケがいるなら、あなたたちと同じでいいわ」
「私はいるぞ?」
エマの問いに対し、簡潔に答える。
私がロアやソル以外の誰かと組むなどあり得ない…こともないのか?
「なら、決まりね」
「エマ。結城結奏はどうだ?」
エマが、片手で顔を覆う。
予想外の何かがあったのだろうか?
「それなんだけど……ちょっと、見てみない?」
私たちを教室の入り口へと、手招きしながら導くエマ。
そして、教室の中を指さした。
エマの指差す先には五人の男たちが、結城結奏の前に扇状に並び、何やら話しかけている最中であった。
その五人の男というのは、星メモの攻略対象だ。
まずは、ハイデル王家の王子たるセバスティアン・ハイデル。
私の元婚約者の残念王子である。
そして、黒髪で理知的な顔のミュラー伯爵家の嫡男アヒレスに、赤毛の脳筋男子であるクラウゼン男爵家の二男、エドガー。
それに、艷やかな金髪を長く伸ばした優男。デーリング伯爵家の嫡男であるカミル。
最後は茶色の巻き毛に低身長の弟的な存在。フーバー子爵家のレオだ。
王室派の中心的な家柄で、現当主たちの働きは敬意を表するに値するものがあり、ニコラウス伯父様も勲章を下賜される程だ。
だが、その息子どもはまるでなっていない。
私が人様のことを言えたものではないのだがね。
「ダンジョン探索の話しが出てから、アレなのよ」
エマが溜息をつく。
「昼食でもあるし、ちょっと攫ってくるぞ」
私はズケズケと教室へ入り、結城結奏を取り囲む男どもの一人の肩に手を置いた。
「うん?今はとりこ……ひぃっ!フリーデリケっ!!」
そう。手を置いたのは、もちろんセバスティアン王子だ。
ニッコリと微笑みを浮かべる。
「私はこれから、結城結奏と昼食を共にするのだが?」
「そ、そ、そ、そうなのか……邪魔をしたな」
「ほんとに、そう」
微笑みを消し、眉根を寄せセバスティアンに圧をかける。
「ごめん。待たせちゃったね」
気遣い屋である結城結奏は、そう言って席を立つ。
そして、私は結城結奏の手を取り、五人の男の囲みを突破して、食堂へと向かうその姿は、悪役令嬢のそれだろう。
ただし、王子たちに対してだがね。




