ニューイヤーフェスティバル 4
「フリーデリケ様。やっといらっしゃったのですね」
エマだ。
ドーマ伯爵家の息女で噂好きで、情報の収集能力は舌を巻く。
貴族や商会、噂の新商品についての調査、収集、そして、その真贋の判断に助けられていた。
「エマ。今夜も素敵なドレス姿だ」
オフショルダーのワンピースのドレスだが、鮮やかな光沢のあるチェレステの地に、さりげなく散りばめられた銀糸の刺繍は、穏やかに波がうねる地中海を思わせる。
凄まじい技量を持った職人の仕事だろう。
それを、卒なく着こなせてしまうエマのスタイルに、立ち居、所作の全てが更に際立たせている。
デカいだけで目立っている私とは大違いだ。
「また、そうやって」
そうは言っているが、まんざらでもなさそうだ。
「エマ。素敵なドレスね」
「あら、結奏?見違えるわね」
二人ともパーティの会場で会うのは初めてで、互いに学院の制服姿ではないのも初めてだろう。
「あら?このドレス!もしかして、フリーデリケ様と同じ人のではないかしら?」
「ハンネさんが作ってくれたんだけと……。」
あっと、思ったときには遅かった。
ハンネは、目立ってしまうことを極端に嫌う。
私の着る服のほとんどがハンネ作であるが、それを言わないで欲しいと言われているのだ。
「ハンネさんって……。」
エマの唇に指を当てる。
「その先は言わないでおいてくれると、助かるんだがね」
「あれ?言っちゃダメだった?」
結城結奏に伝え忘れていた私たちのミスだ。
言ってしまったことを咎めることはできない。
「彼女は目立つことを嫌うのだよ」
「そうだったんだ」
「エマも頼むよ」
唇に指を当てられたまま、コクコクと頷く。
「さぁ、最後の夜を楽しもうじゃないか」
パーティはつつがなく、ゆったりと心地よい楽団の演奏をバックに貴族どうしの談笑に、食事や酒、たまに会場に降りてくるハイデル王。
「フリーデリケ。久しいな」
「ニコラウス伯父様」
なんとも気安くお声掛けなさるのは、現ハイデル王であるニコラウス・ハイデル、その人だ。
「あら、ステ……。ハイ…むぐ」
再び、エマの口を塞ぐこととなる。
今回は手にしていたパイを突っ込んだ。
「そこまでせんでもよかろうに」
私のエマへの処遇に、苦笑いを浮かべるハイデル王。
「お父様と同席していたのでは?」
「アダルガーか……そろそろ降りてくるだろうな」
「あぁ…ダンスの時間」
「それよりも、そちらのお嬢様方を紹介してくれんのか?」
「私にパイを突っ込まれているのは、ドーマ伯爵家のエマだ」
「ちょっと、リケ!その紹介はないでしょ!!」
口元に残るパイをナプキンで拭うと、美しい所作でカーテシーをしてみせる。
流石、エマだ。
「紹介にあずかりました。ドーマ伯爵家のエマと申します」
「フリーデリケの友達は大変だな。それで、そちらは」
「アスカニア家預かりとしている。召喚の聖女、結城結奏だ」
結城結奏を前に押し出す。
「結城結奏と申します」
そして、お辞儀をした。
緊張しているのだろうか、ハンネの教えたことがすっかり抜けてしまったようだ。
「結城結奏……あなたには多大な迷惑をかけている。国の代表として謝意を」
ニコラウス伯父様が頭を下げた。
年端もいかない小娘に対して、あってはならないことであるであるが、結城結奏には受ける権利がある。
何気ない所作で、その姿を隠す。
こういう時にデカい身体と、ショールの組み合わせは都合がいい。
「そんな。頭を上げてください」
「これだけでは足りんことをした。フリーデリケからも聞いて、帰還の魔法を宮廷でも探させている」
「そこまでしてくださってるなんて……。」
「必ず帰すからな」
ニコラウス伯父様は、結城結奏の両肩に手を乗せた。
バックの音楽が変わる。
ダンスの時間だ。
「あら?公爵様よ」
「本当に奥様と仲のおよろしいことで」
「いつ見ても、ご新婚のようね……うらやましい」
ホール階段をお母様の手を取って降りてくるお父様の姿に、ホールがさざ波のように静かに沸き立った。
「アダルがーだけに注目が集まるのもな……」
そう仰ると、私に向かって右手を差し出される。
「このお誘いですと、アスカニア家で注目を独占してしまいそうですな」
その手に左手を乗せ、エスコートを受ける。
「そうなってしまうか……だが、アダルがーが悔しがる顔が見れるというものよ」
「全く」
先に踊る両親のそばから、ニコラウス伯父様のエスコートで踊り始める。
流石、陛下。
水が流れるようにステップされ、自然で無理なくターンが決まる。
私はそれに身を任せるだけでいい。
一曲終わり、陛下のエスコートでダンスフロアから出ると、眉根を寄せたお父様がいた。
「ニコラウス?フリーデリケと、ずいぶんと仲が良さそうだな」
「アダルガー。何、姪っ子と一曲共にしただけよ」
ニヤリと笑みを浮かべるハイデル王。
これが見たかったのだろうな。
親友であり、同志であり、ライバルである。
歳を経ても変わらない関係か、私にも築けるのだろうか?




