壊滅 5
思いもよらず、娼館事業を手に入れてしまった。
だが、そこからのモグラ叩きは酷い。
昨日、叩いたと思った組織の残党が、別の組織とくっついては別れて、シノギが被る組織同士が中途半端にやり合ったり、コアパーにちょっかいをかけたりと、兎に角、奔走させられた。
おかげで、エギーユの技量も経験も上がり、ソルの無属性魔法の腕も上がって魔法課程が青ざめるほどだ。
人手が足りず、娼館の黒服を動員したり、ジーンから借りたりと、自身の組織の強化についても考えさせられることとなる。
「いつまで続くのか……。」
「よし。今まで動員した者たちから、三人づつ声を掛けよう」
私が、悲壮感漂うトーマスとフィッツの二人に提案した。
「私、トーマス、フィッツの三つの隊だ」
「だとしても、足りんだろう?」
フィッツが苦言を呈す。
「足りんのは時間だ。三人に白狼のやり方を叩き込んだら、また三人ずつ増やせばよいだろう?」
「なるほどね。班を増やして隊にするのか」
トーマスも疲れを感じさせながらも、明るい声を出す。
「今日から二月はアルツナイの残党狩りは休むぞ」
どうせ年の瀬。
組織同士のナワバリごどうだとか、客を取った取らない等の小競り合いが活発になる時期だ。
傘下の娼館で起こるトラブルだけ対応すればよいだろう。
「年明けまでは、訓練と情報収集といったところか」
「私は前期末試験もあるのだよ?」
「学生さんもたいへんだな」
フィッツも少しだけ、取り戻してきたような軽口が出てきた。
「エギーユはどうする?」
トーマスが当然の質問をしてきた。
今まで、面倒を見てきてもらったのだ。これからは私が手足として使うべきだろう。
「私の手足と目になって、せいぜいこき使うさ。それに……カニアではガキ共を上手くまとめてたんだ。私の目の届く範囲で、また、やってもらおうと思う」
「そりゃいい!」
思いの外、フィッツが喜んでいた。
「これで、子守も卒業だぜ!」
そうかそうか。
頼んでおいて何だったが、これで、フィッツの動きも軽くなるか。
◆
学院が終われば、治療院に足を運ぶ生活が続いている。
「エギーユ」
「なんだよ。リケ」
「お前。街の悪ガキ共とはどんな感じだ?」
「まぁ、それなりに」
「カニアの時みたいに、まとめ役をやらないか?」
「なんだよ。除け者にしようってのか!」
ダンっ。
エギーユが食堂のテーブルを叩き立ち上がる。
「勘違いも良いところだ。そこから使えるやつを何人か連れてこい」
「連れてこいって」
「それがお前の手足だ。殴り込みのときは、先陣をきって暴れるんだぞ」
「それって……。」
「エギーユ隊だ。しばらくは、私の下で働いてもらう」
「お、おうっ!」
「フィッツやトーマスも、お前を認めているんだ。任せないわけにはいかないだろ?」
「それで、何からやればいいんだ?」
「エギーユ。お前は私の親衛隊だ、お前の連れてくる奴も、それなりに使えるようにしなければならない」
「訓練か」
「それに、私のやり方を叩き込んでおいてくれよ」
「そうは言っても、アルツナイの残党は?」
「年が明けるまでは何もしないが、それまでにできるか?」
「やってやるよ」
自信に満ちた頼もしい顔をする。
これで、エギーユも小僧扱いできなくなるな。
◆
予定というものは狂うもので、それなりに忙しくしていた年の瀬。
学院の上期末試験に、王室や貴族の主催するパーティに出席したり、白狼としてエギーユ隊を鍛えたり、結城結奏とポータル魔法について調べたり……。
「リケ!アルツナイの残党どもが……。」
トーマスが慌てた様子で治療室へと駆け込んできたが、私の様子に言葉が途切れた。
「あいつらは、何なんだ。いったい何がしたいってんだ」
一足早くエギーユ隊から報告を受けていたのだ。
アルツナイの残党同士で、派手に暴れていると。
しかも、アハムの娼館『溢れる泉』でだ。
「ちんたらやってられん」
私は席を立ち駆け出した。
向かうは溢れる泉。
年明けが迫る街は、忙しなく、人出も多い。
商会の荷車に、貴族の馬車まで走っていると、大きな通りも狭く感じる。
そんな通りを一陣の風の様に走り抜ける私。
誰の目にも止まらない。
溢れる泉の前でオオカミの仮面を着け、ゆっくりとその扉を押し開けた。
店の中は、男たちの乱闘騒ぎでめちゃくちゃだ。
「これはっ!何の騒ぎだっ!!」
声に魔力を乗せて大きく発した。
魔獣がよく使う威圧や咆哮に近いものだろう。
それだけで腰砕けになる者も多く、キャストやスタッフはとんだとばっちりだ。
「嬢ちゃんが来るような場所じゃ……。」
無防備に私に近づいた男に衝撃波を叩き込む。
「お、オオカミの仮面。白狼だ」
男の一人が悲痛に叫びを上げた。
今更、何を言っているのか?
頭にキていた私は、立っている男を見つければ、衝撃波を叩き込んだ。
ただ、ひたすらに……。
◆
「白狼様。全員縛り上げてございます」
店に置いていた黒服…フィッツやトーマスの息のかかった者で構成している…が、そう声をかけてきた。
「ご苦労。でだ、そいつら、拠点は吐いたか?」
「丁重にもてなしをしましたので…。」
「良し。今日中に回る。リストアップしておいてくれ」
そう言って私は、ロビーのソファにどっかりと腰を沈めた。
「白狼様」
騒ぎを聞きつけてやってきたアハム。
「アハムか……すまん。暴れすぎたな」
店は、男たちが乱闘をしていた時よりも、破壊され、荒れ果てていた。
「そちらは良いのですが……この男たち」
「もう、アルツナイなど関係なく、ちょっと金を持った小物なのだろう?」
「分かっておいででしたか」
「組織の人間は、組織のメンツを気にするからな」
「そうで……ございますね」
「アハム。憲兵が来たら、頼む。面倒ばかり押しつけて済まないな」
「白狼様。リストにございます」
先ほどの黒服が、一枚の紙を差し出してきた。
「確かに。では、後を頼む」
ソファから立ち上がり、溢れる泉を後にした。




