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悪役に生まれたのなら、徹底的に悪の道を貫いてやる!  作者: 鈴木ハルカ


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壊滅 6


 リストに書かれていたのはつの場所。

 一軒目は倉庫であった。 


 扉には錠前もないので、内に誰かいるかも知れない。


 大きな扉を押し開けると、汗臭く、すえた匂いに混じり!血の匂いもする。

 不潔極まりない場所だ。


 建物内を物色するように見回しながら脚を進めるが、金になりそうなものはない。


 「ライニゲン(浄化)」


 我慢ならず、倉庫全体に浄化の魔法を使う。


 「誰かいるかと思ったがな……。」


 踵を返し扉の外へ出て、改めて建物を見るが、建物自体も古く倒壊の危険もあるだろう。

 南の娼館街でも外れの方にある建物だが、チンピラに溜まり場にされてしまうような建物だ……まさか、正規の賃貸契約など取り交わしてはいないだろう。


 「コラップス(崩壊)」


 魔力の粒子が極小の泡を形作り、建物全体を包み込むと、屋根の方から崩壊が始まる。


 崩壊と言っても、バラバラと建物が崩れていくのではなく、物質を構成する分子に含まれる電子に干渉し、その存在を原子に返してしまうそうだ。


 属性魔法ではなく、古文書と呼べるような文献にあった、純粋な魔力で発現させる魔法で、魔力の消費も激しい。


 バケモノ……魔獣……ドラゴンだろうか?

 魔神ではないと思いたいが、それらと肩を並べてしまえる私のステータスを持っていても、軽く倦怠感を覚えるほどだ。

 全く分からんな。


 しばらくすると建物も消え去り、代わりに周囲に人垣ができて歓声が上がった。


 「お嬢ちゃん。やるなぁ」


 感嘆の声も多い。


 「おいっ!私の倉庫をどうしてくれたんだ!!」


 倉庫だったもののオーナーだろうか?


 「貴様!悪名名高い、アルツナイに倉庫を貸し与えていたのかっ!!」


 芝居がかった声をあげ、その者に正面から向き合う。


 「女や幼子までをも拐かし、外国に売りつけていた。そんな組織の片棒を担いでいた者を、この白狼が許すわけがない!」


 魔王を目指す者が、何を言っているのかと、我が事ながら呆れそうになってしまう。


 「い……いえっ。め、め、め、滅相もありません。勝手に居着かれて困っていたのです」


 私の芝居がかったセリフに、周囲からの冷めた視線と、ヒソヒソとされる悪評の噂話。

 これをはね退けて、私に食って掛かってこれたなら、見どころはあったのだがな。


 「そうであろう。ここは通りも多い、新たに、荷馬車も預かれる宿にしては如何だろうか?」


 「それは名案でございます!」


 手を胸の前で組み、まるで、アーラス様に喜びを伝える敬虔な信徒のようだ。

 

 「このようなトラブルにお困りのときは、この白狼に声をかけると良い。分からなければ、口入屋の主人に話しておくことだ。決して、悪くはせんぞ!」


 また、芝居がかったセリフに、周囲へのアピールも込めてマントを翻し、リストの二軒目へと向かう。


 背中で沸き立つ歓声に、チンピラ共の乱闘騒ぎで苛ついた気持ちも治まって、気持ちのよい仕事ができたと、一人ニヤついてしまっていた。



 ◆


 二軒目は、打ち捨てられた宿。

 ロビー兼酒場となっている、この世界ではオーソドックスなスタイルの安宿だ……だったものだ。


 しかし、チンピラの溜まり場というのは、どこも汗臭いのと、すえた匂いがするのは、デフォルトなのとろうか?


 そういうところに気が回らないから、チンピラなのか?


 建物全体に浄化の魔法をかけ、屋内を探索する。


 今回は二人ほど、寝ぼけた男がいたので、無力化して店の前に転がした。

 今回も金目のものはなし。


 今回の物件は、娼館街の大きな通りからもちかく、なかなかの立地。

 地権者を調べて買い取ってもよさそうだ。


 一軒目の倉庫と同様に崩壊の泡で建物を包み、崩壊というか、消え去る建物を眺めていた。


 「こんなことして、ボスが黙ってねぇぞ!」


 ロープで縛られた男の一人が凄んできた。


 「お前も同じ泡で包んでやろうか?」


 「ひぃっ!?」


 こんなものだ。

 だから、チンピラなのだよ。


 「また!白狼じゃないか?」


 再び、人垣かできている。

 一軒目の倉庫も見ていた人も、チラホラといるようで、そんな声も聞こえてきた。


 使っていて思ったのだが、この魔法。

 消し去る速度は遅いものの、城壁に使えば、攻城戦が一変するようなゲームチェンジャーになり得ただろうに。


 やはり、魔力消費がネックだったのか?


 「どなたか。このチンピラ共を憲兵に引き渡してはくれないだろうか?」


 「おうっ!任せろ」


 野次馬の一人が、手を挙げて人垣から出てきた。


 「面倒を押し付けてしまって済まない」


 「何、こんだけのモンを見られたんだ、お釣りがくらぁな」


 男は豪快に笑って、チンピラ二人につながるロープを受け取ってくれた。


 さて、次だ。


 ◆


 三軒目。


 貴族街の外れの廃屋敷。

 ここまで来ると、貴族もチンピラとのつながりを持っているのだろうことが確信できた。


 「エマの出番だな……調べる前から知っている可能性が高いな」


 ここは流石に消すわけには……いや、どうせ住人がいないのだ。


 「貴族街の景観を守るためだな」


 「何を一人でぶつくさ言ってるのよ」


 屋敷を眺めていたら、背中から声をかけられた。


 「王都中で噂になってるわよ。白狼さん?」


 振り返ると、そこにはエマ。

 声で分かってはいたが、実際に目にした彼女は、どこか寂しそうに感じた。


 「エマは寮じゃなかったか?」


 「門限までは自由に出入りできるわよ」


 「……もしかして、ここは」


 「そう。元のドーナ家の屋敷よ」


 「……そうか」


 「何、暗い顔してるのよ」


 「仮面越しに、よく分かるもんだな」


 「そのおっきい体は、意外とおしゃべりよ」


 「はぁ?」


 「仕草よ。感情が肩とか、背筋に出てるわよ」


 気落ちすれば肩が下がり、背が丸くなる。

 高揚すればその逆と……気をつけないとな。


 「元って言ったのは、伯爵になって別の館に移ったからよ」


 「そういう……。」


 「でも、元とは言えね。それが、チンピラの巣窟になってるのは、寂しいと言うか複雑だわ」


 「中も見てみるか?」


 「ぐちゃぐちゃにされてて、見るに堪えないでしょうよ」


 「そうか……。話しは変わるが、貴族の中にも、この手の輩とつながりがある者がいるのだな」


 「どうして」


 「いくら外れとは言え、貴族街。憲兵の見回りもあるだろうに、チンピラ風情が屋敷に出入りするなんて、目溢しできるものじゃないだろう?」


 「貴族と言ったって、下の方は足の引っ張り合いよ」


 「国境沿とは違って、武功もあげられんからか?」


 「爵位もそうだけど、影響力よね」


 「影響力?」


 「力で話しをするアナタにはピンと来ないかもね」


 「な、な、な。それでは、まるで私が乱暴者みたいじゃないか」


 「ほらね。貴女は公爵家令嬢、それに、唯一無二と言っていいほどの身体能力に、経済力まで持ってる。力という力を持ってるじゃない?」


 「うぅ……。」


 「でもね。私やロアが持っているのは、せいぜいそのうちの一つよ。それも、だいぶレベルは下がるわ」


 「そうなのか?」


 「私やロアは、高みを目指しているわ……実際に必要だからだけど」


 「剣や魔法か……力だな」


 「でもね。人は弱いもので、流れに乗れるなら乗りたいと思うものよ」


 「ほんとに、同い年なんだよな」


 三十路リーマンだった頃の世界の私は、こんなに考えていただろうか……否だ。

 せいぜい、志望する大学に受かるだろうか、そのくらいだったな。


 「ちょっと、説教くさくなったわね……この館。消せるの?」


 「更地にできるぞ」


 「なら、やっちゃいなさいな。消えていくところも見てみたいし」


 「承った」


 私は敷地全てを包む量の泡を出し、後はゆっくりと消え去るそれをエマの隣で見続けた。


 感じるものがあるのだろう。


 しばらくすれば、屋敷は外壁も何もない、まっさらな地面だけとなった、


 「私は行くわ」


 「そうたな。私も帰るとするよ」


 エマの背中を見送って、私も治療院にと思ったが、それだとエマの後を追うことになると考え至って、顔を手で覆うことになる。


 「さて、どうしたものか……。」


 ◆


 結局。遠回りをして治療院に戻って来た。


 「長い散歩だったねぇ……お帰り」


 ガラハウの迎えの言葉。


 「街中、白狼の噂で持ちきりだぞ」


 エギーユが少しむくれている。

 年明けまでは何もしないと言ったのに、ネグラを全て消し去ってきたのだからな。


 「済まないな。一番槍は次の機会だ」


 「オレが持ってきた話だったのによぉ」


 派手に暴れる機会が奪われたのだ、さもありなん。


 だが……。

 

 「だったら、何故、追ってこない。三軒一人で消してきたんだ。誇張ではなく、文字通りな……それすら見てないのか?」


 不機嫌を爆発させる。


 「あ……。」


 「不満を言うなら、私より先に駆け出せ!それすらせずに、見てすらいない者がグダグタ抜かすなっ!!」


 「うぅ……。」


 「お嬢……完膚なきまでやったなぁ」


 フィッツが、いつの間にか戻ってきていたようだ。


 「尻ぬぐい。ご苦労だったな」


 エギーユから視線を外さずに、フィッツへの礼を言う。

 

 「いや、大半はトーマスとアハムが手配してたよ」


 「そうか。それで、残党はどうだ?」


 「街を出たやつ、ヴーヘラーに下るやつ。それに、目を覚ましてカタギになろうってやつ」


 「人それぞれだな」


 「アルツナイは、本当に壊滅だよ。それで、そろそろ小僧を渡してもらえるかい?」


 「フィッツ。エギーユは今から、私の従士とする」


 「それは、旦那さまにも話しを通さないとな」


 フィッツがエギーユの肩を軽く叩く。

 

 「エギーユ。ついて来い」


 エギーユを連れて、治療院を出た。


 一つ片付くと、問題や課題と言うのは新たに顔を出す。

 全ての問題や課題が片付いて、人生を終えられる人なんているのだろうか?


 それは神のみぞ知ることなのだろう。

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