壊滅 4
ソルの様子は最後まで見なかったが、問題はないだろう。
私はフィッツと手分けして、部屋に残る男を始末し続けた。
戦闘開始から小一時間も経たずに、溢れる泉を制圧できたが、流石に連戦だったこともあり、トーマスやフィッツまでもが、肩で息をしていた。
「アルツナイの娼館は、これで最後だな」
私の問いに、トーマスが頷く。
「他にも倉庫やら、裏の商店なんかもありそうだが……。」
「ずいぶんと派手にやってくれたもんだな」
店の入り口に、数人の男を従えた、こざっぱりとしたスーツ姿の細身の男が立っていた。
過去形にしたのは、既に全員が床に崩れている。
声を掛けられたと同時に、私は魔力の針を数十本展開して、立っている男たちに浴びさせたからだ。
こざっぱりとしたスーツも穴だらけで、己の血で赤く染まっていく。
「なぜ、やれるときにやらないのか?」
私は疑問を口にした。
「取引してみようってのが、人情だと思うぜ」
ロアは構えたショートソードを腰に戻しながら、呆れたように私に言う。
「そうか。私は魔王だからな。そういうのはいらんのだ」
「そうでしたね。魔王閣下」
肩を竦めるロア。
このやり取りで、緊張が解けた皆に笑顔が戻る。
「フィッツ。後始末は?」
「いつものヤツらが、そのうち来るよ」
「金は足りるか?」
「店に残った女以外は、好きにしていいって言ってある」
「そっちのが、実入りがいいよな」
フィッツの言葉に、ロアが口を尖らせる。
そう言えば、ロアとソルの報酬を決めてなかったなと、今更ながらに気がついた。
私はカウンターであった瓦礫を越え、カーテンで仕切られた奥の部屋で金目の物を物色する。
たいていの店は回収係が来るまで、こういった場所に売り上げを貯めておくものだ。
金貨が数十枚入った袋が五つ。
そこから、三つほど拝借することにした。
「よし。撤収する」
奥からロビーに戻り、メンバーに声をかける。
「俺はエギーユを回収してから戻る」
フィッツはそう言うと、いち早く溢れる泉を出て行った。
私たちは治療院に向かう。
◆
治療院へは裏口から入り、食堂で皆、一息つく。
「流石に連戦はキツかったな」
椅子にどっかりと座り、背もたれに体を預けるロアが、天井を見て言った。
「ダンジョンはこんなもんじゃないぜ」
トーマスの談。
さすが、元冒険者は言うことが違う。
「ボクは最後だけだったもんな」
ソル。
「それでも、三人に囲まれて、凌ぎきったのはスゴかったぞ」
励ますように言ってみた。
「ほんと!」
「おかげで、部屋巡りも楽になった」
「確かにな。下からの応援が無かったから、上もやりやすかったぜ」
ロアも続く。
「アルツナイはしばらく、ボスの座を巡って内部のイザコザで、忙しいだろうな」
トーマスが思い出したように、今後の展望を言う。
「後から現れたのが、アルツナイのボスだったんだな」
「リケは顔を知らなかったか」
「そうだ」
「あのスーツの男が、そうだったんだが……アルツナイはボスの辣腕でまとまってたのか、従わざるを得なかったのか、兎に角、横の関係が良くない組織だったんだ」
「となると、アルツナイが小さな組織に分裂。なんてこともあり得るのか?」
トーマスの説明に、ロアがうんざりだと言わんばかりの顔をして、最悪のパターンを言葉にした。
「まずは、ボスの座争いだろうな」
トーマスも、そうあってくれと思っているのだろう。
細かく分裂したら、忙しくなるなと他人事のようにおもったのだった。
◆
そんな考えを他人事のように思った、私がバカだった。
アルツナイは即日解散し、各々、担当していた事業ごとに分裂してしまったのだ。
組織をまとめようとか、そんな野望を持った人間はアルツナイにはいなかったようで、娼館をシノギとしている組織以外の人身売買やら人攫いやら、薬や違法貿易を生業としている組織のモグラ叩きが始まった。
「これで、いくつ目だ?」
「さぁな」
トーマスの問いに、フィッツも項垂れて答える。
「しかし、娼館をシノギにしてた奴らが、あっさり傘下になったのは、どういうわけだ?」
アルツナイの娼館を仕切っていたアヒムという男。ボスを打ち倒した翌週には、私に接触してきた。
正確には、伝手を辿りフィッツに行き着いて、そこから持ち込まれた話しではあるのだがね。
私はキャストの登用を、強引なスカウト…借金漬けにしたり、攫ってきたり…で行わないのであれば、続けて良いと許可を出すのだが、フィッツやトーマスを定期的に見回りに行かせることと、受付や娼館内の雑用をこなす人間は、ジーンのところで手配してもらうことを条件づけもした。
「分かっております。えぇ」
男は娼館の支配人室に設置された、応接セットの向かいの席で持ち手をして、冷や汗を垂らしながらも笑顔を崩さない。
荒事は苦手なようだが、それなりの修羅場はくぐってきたのであろう。
「アヒム。ならば、ここはお前に任せる。売り上げの記録だけしっかりするんだぞ」
「白狼様……それで、如何ほどお納めすれば……。」
「いらん。金は余ってるのでな。何なら建物を壊してしまった詫びに、修繕費をこちらで持つが?」
「いえいえ。そんな、滅相もない!」
「なら、良し。利益があるならば、ベッドやシーツ。それに内装なんかも良くしてみたらいい」
「そんなことに使っていいのですか?!」
アヒムは心底驚いたように声を上げた。
「ここは商人たちもよく立ち寄るだろう?外の情報は金を持ってる奴らの方が、信憑性がたかいからな」
「なるほど」
「あからさまにやる必要はないが、耳よりな話は知らせてくれるとありがたい」
「そういうことでしたら、お任せください」
「それと、女たちを一月に一度、西の商店通りにある治療院に行かせるんだ」
「それは、なぜでしょう?」
「病気の予防や治療に、ケアが目的だ。折角の稼ぎ頭が、旅の男から病気をうつされて……なんてなったら、売り上げも落ちるだろ?」
「確かに。しかし、全員となると……その金が……。」
「私から話は通しておく。治療院の支払いは、心配しなくていい」
「そこまでしていただけるのでしたら、やはり、少しでもお受け取りください」
アヒムはそう懇願してきた。
まぁ、ラトーラの原料費くらいは、回収しておくか。
「ならば、金貨で十枚。女だけじゃなく、店で雇う男の怪我でも見せに来い……私が巡回してもいいか……。」
「そこまでしてくださるのは、何故なのですか?」
アヒムは訝しむように、私を見る。
「アヒム。私は王都の裏社会を、牛耳ることを目的に活動している。」
「そうでしたか……。」
「そのためには、酒と女が必要なんだよ」
「先の話に戻るわけですな!」
聡いやつだ。
「時に情報は、金より価値がある。そのための投資だと思ってくれ」
「分かりました。不肖このアヒム。白狼様のご期待に添えるよう尽力致します」
応接セットのソファから降り、片膝を着いて忠誠の礼をとったアヒム。
「アヒム。献身に期待する」




