壊滅 2
学院からの帰り道。
特に治療院や、街の方へと寄る用事はなかったので、まっすぐ邸に帰っていた。
貴族街はいつもと変わらず人通りも少なく、南の娼館街のギスギスした空気は、伝わってはいていないようだ。
いや、そもそも市井の影響なんか、王都の様に大きな都市では、街が違えば、その空気も伝わってはこないのだろう。
背後から近づいてくる気配を感じたが、その足取りがフィッツのものだと分かっている。
「フィッツ。どうした?」
振り向くことすらせずに、そう声をかけた。
「やっぱ、お嬢にはバレるか……。それより、ミアになんて言ったんだよ」
フィッツは隣に並ぶと、少し悔しそうに髪を掻きむしる。
「悪かったな。ミアへの報酬が思いつかなくてな。それより、ジーンところの少女は?」
「カニアの街で、面倒見てもらえることになってる」
アルツナイの拠点から助け出し、体を治し、記憶の一部を消した少女のことだ。
フィッツの伝手で、カニアで保護されることになったようで、一安心。
「そうか。手配、ご苦労だった」
「そう言われちゃうとな……。」
労いの言葉を受けて、文句の一つでも言いたかった気持ちも、どこかへ行ってしまったようだな。
「なんだ?もう少しくらいなら、毒づいてもいいんだぞ」
「ミアにはよくしてもらった手前、そうも言えないよ」
「あの魔女は、そんなにいい女なんだな」
「ま、見た目はガキの頃から変わってねぇけど……やっぱ……。」
続く言葉を濁すフィッツ。
本当に魔女なのだな。彼女は。
「やっぱ?どうしたんだ」
「いやいや。何でもねぇ……。ジーンとこの女の子のことは任せといてくれ」
顔の前で手を振り、話題を変えてきた。
淡い何かがありそうなことが、丸わかりだよフィッツくん。
「他には」
「アルツナイの動きが無くてね。どうも、気持ち悪い」
王宮からも目をつけられている組織同士だから、動くにも慎重なのだろう。
「引き続き、頼む」
「それと、エギーユの坊主も、使い物になりそうだぜ」
それは嬉しい知らせだった。
エギーユも認められる存在になりつつあるな。
「分かった」
「それじゃ、また」
そう言って踵を返すと、貴族街から出ていく方へと歩き出すフィッツ。
フィッツはすっかり間者のように動くようになった。
屋敷にはほとんど寄り付かず、独自のネグラを確保して、そこを拠点に街のあちこちを嗅ぎ回っているようだ。
私は屋敷に向かって歩き続ける。
さて、コアパーに手を出してくれたら話しも早くなるのだが、ここまで静かだと、こちらから仕掛けるしかなくなるな。
そんな物騒な事を考えながらの帰り道。
◆
「ねぇ、リケ。ここなんだけど?」
結城結奏が魔法書のあるページを指さして、こちらに向けた。
定期的にやっている結城結奏を、元の世界に戻す魔法の調査と研究をする勉強会だ。
「どれ……ポータル!転移魔法か!!」
存在することは知っていたが、実際そのことに触れている文献は、今まで見つかっていなかった。
ここに、その謎を解き明かすことが書かれているかもしれない。
「転移魔法!?」
結城結奏も同じ事を感じたのかもしれない。
どこか驚いている様子が覗える。
「しかし、属性も何も書いてはいないな……推論なのか」
本の方を読み進めると、こうすればできるのではないかとしか書かれていない。
具体的な呪文や、属性、発現条件の記載はなく、原理とその推論のみであった。
「一歩、前進だな……そうか、魔女に聞いてみるのも良いかもしれない」
「魔女?」
「伝説上の魔女を名乗る人間がいてね。今度、会わせよう」
「どんな人なの?」
「普段は薬を作っては、それを売ってるようだぞ」
「ラトーラさんみたいね」
「大雑把に言うとな。だが、厳密には植物の知識と成分、その効能で調合しているところは同じだが、片方は魔法の力で品質を上げられる」
「新鮮さとか関係なく、同じ効果のものを作れるってこと?」
「そうだ。どうやるのかまでは知らないがな」
「魔法って、便利よね」
「そうできとるからな」
結城結奏と更に文献を漁ったが、ポータルの魔法に関して書かれているものは、それ以上は見つからなかった。




