壊滅 1
冬がそこまで来ている。学院への登校も、指定の上位だけでは肌寒く感じる日が多くなってきていた。
アルツナイの拠点でもあった娼館強襲から二週間。
王都南の娼館街の雰囲気は、少しギスギスとしているようだ。
娼館街で一番の勢力を誇っているアルツナイと、王都内の人足手配最大手のコアパー。その両者の関係が悪化しているからである。
「なんか街の雰囲気悪いよな。お前、何かしただろ?」
学院食堂でのランチタイム中に、ロアがそんな事を私に向けて言ってきた。
「急ぎで、やらなければならなかった事があってな。一つ拠点を潰したよ」
いつものランチバスケットから、ハンネお手製のサンドを取り出して、それを頬張る。
「それなら、仕方ねぇな」
「だが、二人とも。そろそろ準備しておいてくれ」
始めてしまったからには、ズルズルとは引き延ばせない。
トーマス、フィッツ、エギーユをフル動員させて、街の情報を探らせている。近いうちに、行動に移せるだろう。
「なになに?」
ソルも興味津々だ。
「だがな、ソル。また、屋内戦になると思うぞ」
「あぁ~」
私の指摘に頭お抱えるソル。
大剣使いのソルは、屋内戦となると使える手が少なくなってしまい、活躍の場が減ってしまう。
「大剣使いと相性のいい武器か……。」
代替案がないものかと、思案する私。
「両手の小型武器なんてなぁ」
頭の後ろで手を組んで、天井を仰ぎ見るロア。
そんな私たちに期待の目を向けるソル。
「考えてはみるものの……。」
「どれも勝手が違いすぎるんだよな」
私の言葉を受け取って、ロアが続きを答えてくれた。
両手で扱う大剣は、そのリーチの長さと一撃の重さ、それに盾のように攻撃を受けられる強靭さを持っている。
そんな武器の代替をと考えてみてみたのたが、どれも大剣の使い勝手とは違いがあり、とても勧められない。
「せめて、予備武器にショートソードでも使っていてくれればな」
考えるのをやめ、自分のランチセットを突つくロア。
「後は後衛に徹するかだな」
そう言って、手に持った残りのサンドを頬張る。
「後衛かぁ……やったことないなぁ」
テーブルに突っ伏すソル。
「属性も火となると、屋内戦向けではないものな」
屋内で火を使うとなれば、戦力だけではなく、拠点ごと消してしまいかねない。
ましてや、建物の密集する娼館街。街ごと燃え尽きてしまう事も考えられる。
「リーチを考えなきゃ、バトルアクスなんかもいいんだが……。」
ロアが、更なる代替案を口にした。
「間合いが違いすぎて、取り返しがつかない事になりかねん」
しかし、どう考えても取り回しが違いすぎる。
私とロアの談義を聞いて、頭を抱えたソル。
「あっ!」
「どうしたリケ?」
私のひらめきの声に、ロアは怪訝な顔をして声をかける。
「属性のない魔法。そう、純粋な魔力だけを放出させる魔法があるな」
結城結奏との魔法調査も芳しくはないものの、副産物的な収穫はあった。
それが、属性に関係なく使える、魔力の放出を具現化して対象に影響を及ぼすものだ。
「ボクにもできる?」
ソルも食らいついてきた。
「結城結奏が練習しているはずだ、少し手解きを受けてみてはどうか?」
「分かった!行ってくるよ」
飛んでいくフリスビー目掛けて、走り出す大型犬。
「目指すものの場所も分からんのに、よく走り出せるもんだよな」
「結城結奏なら、魔法課程の教室にでもいるんじゃないか?」
ロアのボヤきに適当に答えてみる。
「リケ。私がどうかした?」
そこに、ランチセットの載ったトレーを持つ、結城結奏とエマがいた。
「結城結奏」
「リケ。いい加減、フルネームはやめたらどうかしら?」
結城結奏をフルネームで毎回呼ぶ私を、そう嗜めるエマ。
「いいの。エマ。リケって呼べるだけでも、だいぶ前進したわよ」
そういいながら、同じテーブルに着く結城結奏。
エマもその隣に座った。
「なんだか、野良猫とお近づきになるみたいよね」
結城結奏の話しに乗って、エマも好きに言ってくれる。
「それで、私に何かあったんじゃないの?」
「属性のない魔法についてな。ソルにも教えてやってほしかったのだよ」
「あれね。私の練習にもなるし、丁度いいわね」
「そんな魔法があるの?」
エマが驚いた声を上げた。
「みたいだぜ」
ロアが私の代わりに答える。
「魔力の消費が激しいので、ずいぶんと昔に廃れたものだがな」
少し補足。
属性魔法のように深く研究するものや、使用効率を追求するものがいなかったために、魔力放出の具現化については、あまり発展することはなかった。
ただ、必要は発明の母と言われるように、魔力を体内に巡らせるような身体強化については、戦士や騎士たちの間で実戦を通して磨かれることになる。
「それなら納得だわ」
現在に伝わっていない魔法技術に、納得してくれたようだ。
「私とリケみたいに、聖属性持ちは攻撃手段が少ないのよね」
聖属性には拘束する等の、相手を無力化する魔法は有っても、殺傷に繋がるような魔法は存在しない。
「結奏はともかく、リケは持ってなくても大丈夫そうだけど?」
エマの挑戦的なもの言い。
筋力こそ力を地で行く私だ。エマの指摘も、あながち間違いではない。
「攻撃の手段だけじゃないんだ。シールドの代わりに展開することもできるし、展開速度もほかの属性魔法にくらべると早いんだぞ」
「そのわりには、ケガしてたって聞いたけど?」
どこから仕入れてきたのか、痛いところを突かれる。
「耳が早いことで」
本当にエマの耳の速さには舌を巻く。
あの日の関係者くらいしか、私がケガをしたことは知らないはずなのだがね。
「なんだ。探しに行っちゃったよ」
トボトボと大型犬が帰ってきた。
「話しはしておいたぞ」
「結奏ちゃん。よろしくお願いします!」
元気よくお辞儀をするソルの変わりように、結城結奏も目をパチパチとさせていた。




